32 ミリニシアでの魔族その4 反撃
セティアが部屋へ連れ込まれて暫く経ったがセティアを連れ込んだ魔族の男が中々で来ない事に
業を煮やしリムドと呼んで居た魔族にジャシルが短剣をイズミに向けたまま顔だけ向けた。
「一体何時まで遊んでるんだ!おいリムド!アイツを引っ張り出して来い!交代の時間だってな。」
「チッ!しょうがねえ奴だな。」
リムドが立ち上がりその部屋へ向かうとジャシルが今度はイズミに向き直りニヤケながら顔を近付けて来た。
「今度は俺達の番だ。楽しみにしてろ。」
その時その部屋へ入って行ったリムドが突然入って行ったドアから転げる様に飛びして来ると
持って居た短剣を捨て腰の剣を抜き部屋の中に睨みを利かした。
「お前一体何処から入って来た。」
するとその部屋から剣を持った一人の男がゆっくりと出て来るのが見えた。
「デカイ図体の割には素早い動きをするんだな。」
一瞬その男にジャシルとタタンの目が向くその隙を突きイズミがその2人に風の刃を飛ばすと同時に
自分とシルクそしてタルトを縛って居る縄を風の刃で切り解いた。
突然風の刃で斬りつけられたジャシルとタタンは避ける事も出来ずに傷を負ったが
次のイズミの攻撃を転げる様に避け怪我を追って部分をそのままに腰の剣を抜き
イズミにその剣を向けた。
イズミはそのジャシル達から視線を外さずにそのまま口を開いた。
「オルイド!出て来るのが遅いから心配しちゃったじゃない。所でセティアは?」
「大丈夫だ。ちゃんと保護した。」
するとそのセティアがオルイドの後ろからひょこっと顔だけを出した。
「イズミ~オルイドが居ると分かってても本当怖かったんだから。」
「ゴメン、嫌な役やらせちゃったね。」
「うん、皆で話し合って誰が連れて行かれようと泣き叫ぶ事は決まってたから良いけど
ヤッパリその場になると怖かった。」
「本当ゴメンでもこれからは私達のターンよ。
シルク、カリナの救出をお願い」
セティアは無事出て来られた事にほっとしたようだった。
そしてシルクがその言葉を聞いて精霊状態になり姿を消すとジャシルの今迄見せて居た余裕の表情から
怒りの表情に変わりオルイドに怒鳴りつけて来た。
「貴様~!一体何時からそこに居た!この家にはあいつ等しか居なかったはずだ!」
「簡単な事だ。アンタらの後から入って来ただけだ。エルフの密行甘く見たな。」
次にオルイドは目の前のリムドを睨みつけながらイズミに対し
「イズミ、さっき何故俺に謝った?こいつ等にバレるかと思ったぞ。」
「ゴメン、その部屋に入って行くのを教えたくて。」
「心配するな、その位分かる。」
するとイズミとオルイドの間にジャシルが割り込んで来た。
「何が次は私達のターンだ?笑わせる。さっきと何ら変わりはしないじゃ無いか。
少し遅くなっただけで俺達には人質が居る。お前らは俺達に手を出せない。」
「残念ながら全く違うな。敵を倒すにはまずその敵を知らなくてはならない。それはお前達は重々知ってる筈だ。だからイズミ達の事を知らべたんだろう?精霊使いだと言う事も。それは俺達冒険者も全く同じ事だ、ゆっくりお前達の話しや動きを調べさせてもらった。」
「あ~?あの短い時間で何が判ったと言うんだ?真面に剣を扱えるのはお前一人そして中途半端な魔法使いに精霊使い。しかもその精霊は仲間を助けに行って今ここに居ないとなれば俺達に敵う訳ないだろが。」
「誰が剣を扱える者が一人だと言った?シャルド、ミンドル、タリウスそそろ起きたらどうだ?」
すると今まで倒れていた3人がスクッと立ち上がりジャシル達はその3人を見て驚きを隠せずに居た。
「何故だ!確かにこいつ等は動けない程に痛めつけた筈!何故起き上がれる?」
「俺達の仲間にはちょっと変わった治療魔法を使う奴がいてな。時間差でその魔法の効力が発揮するんだ。つまり治療魔法を掛けた30分後にその効果が発揮する。その間に受けた傷はその時治る寸法だ。」
その説明をして居る時階段を上がって来る足音が聞こえ
入り口からバージョスとエルフのミシュアが姿を現した。
「これで形勢逆転だな。」
オルイドが呟くとジャシルが剣を横一線に振るい怒りを露わにした。
「まだだ!俺達には人質が居る!あいつ等がどうなっても良いのか?それにお前らの仲間もだ!」
「多少の犠牲は覚悟している。お前が心配する事じゃない。」
オルイドが静かに答えるのを見て思わずイズミが口を挟んだ。
「オルイド!それはダメ!皆を助けなきゃ」
「イズミ、その甘さが自分だけでなく仲間をも危険な目に遭わせる。諦めろ」
その時カリナを助けに行ったシルクが戻りイズミの隣に来ると
深刻な表情で話し掛けて来た。
「イズミ・・カリナが居ない。」
「エッ!どう言う事?確かに笛が鳴った場所へ行ったんだよね。」
「確かにそこに居た形跡は有ったけどもうそこには誰も居なかった。」
それを聞いてたジャシルは笑い出した。
「何が形勢逆転?仲間一人守れずにか?しかしアイツも大したもんだ。まさか俺も監禁場所を変えるとは思って無かったわ。」
そう言って更に大きな声で笑うとタタンへ指示をだした。
「タタン。殺せ。」
それを聞いたタタンは窓の所へ行き外へ手をかざした。
「ファイヤーボム」
するとそれは空高く上がると上空で爆発した。
すると今まで静かにそこに佇んで居た多くの人達が騒めき出すのがイズミにも分かった。
それを見て居たジャシルが笑いながら
「これでお前の仲間は終わりだ。そして下の奴らもこれから殺し合いを始める。
しかもそれはここだけに終わらずこのミリニシア中に広がるんだ。どうだ!面白いだろう?」
「殺し合いを始める?じゃあそこのタタンを倒せば終わるって事ね。」
イズミがそれに答えるとジャシルが首を振った。
「いいや、こいつが死んでもこのミリニシアの数か所に魔力を貯め込んだ術式を隠してある。
その魔力が尽きるまでの間アイツ等は何十人何百人と仲間を殺して行くのさ。
これはお前達が選んだ結果だ。お前達のせいだ!思い知るが良い。」
すると更に大きな声で笑い出すジャシルが窓から下を見て目を大きく見開いた。
「ほ~ら、始まったぞ。お前らも見るが良い、お前達のせいであいつ等が殺し合う様をな。」
ジャシルが言う様にその人達は手に棒や石、
中には刃物を片手に持ちまわりの人達を睨みつけていた。
「ダメ~~!シルク手伝って!」
イズミは窓から下へ飛び降りると風の力で着地の衝撃を和らげその人達の中へ消えて行った。
「馬鹿め、自分から死に行きおったわ」
ジャシルが笑いながらオルイドに向き直ろうとした時更に騒がしくなり
彼らの動きが激しくなった。
そしてぶつかり合う寸前一瞬その動きが止まると次は誰かに命令されたかの如く真っ二つに割れ
屋敷の入り口から玄関に向けて通路を作って居た。
するとその間をあたかも当然の如く一台の豪奢な2頭立ての馬車が入って来た。
その馬車の馭者台には制服を着た馭者とその助手と思しき人が一人づつ乗って居た。
「何だ、あれは・・・」
ポカンと口を開けたまま見るジャシルと同じ様に見つけるオルイド達が窓辺に並んだ。
その馬車が屋敷の敷地内に入ると今迄立って居た人達は片膝を着き
まるで王族を迎えるが如く頭を下げ始めた。
「一体誰が乗って居る・・・まさか魔王クリアか?・・・」
ジャシルが呟くも誰もそれに答られる者は居なかった。
そしてその馬車が近づいて来るとその馭者台の人物に思い当たる者が居たのかジャシルが驚きの声を上げた。
「あいつ等!あんな所で何をしてる!あれバムとカシムじゃないか!
人質の女はどうした?タタン何か聞いてるか?」
「いや!私も何も・・・それよりも私の術が何故か効いて無い・・」
驚きを隠せないのはジャシル達だけでは無かった。
その馬車が玄関先で止まると直ぐに手慣れた様子で助手が馬車のドアの下に踏み台を用意し
ドアを静かに開けると中からは白い大きな鍔に赤い花が飾られた帽子を被り
白いドレスを着た女性が助手に手を添えられて優雅に降りて来た。
続いて先の女性よりは小さ目だけれども上からでは顔が全く見えない赤く鍔の広い帽子を被り
オレンジ色のドレスを着た何故かおどおどした感じの女性が降り周りを見渡して居ると
そこへイズミが駆け寄って行くのが見えた。
そしてイズミの発した第一声が
「シェルシア!カリナ!その馬車にその恰好一体どうしたの?」
「「「「「はあ~~!シェルシア?」」」」」
見て居たオルイド達は思わず声を上げた。
「拾った。」
そして何故かうふっと笑うシェルシアに呆れた様にイズミが溜息をつくと
「こんな豪奢な馬車が落ちてる分けが無いでしょ!一体何処から持って来たの?」
「それよりイズミ今はそんな事より彼等の方が先じゃない?」
そう言って片手で帽子を支えながら優雅に白いレースの手袋をした手で3階の窓から此方を覗きこんで居る魔族達を指さした。
「そっそうなんだけどここの人達を人質に取られちゃってて・・・」
「それなら心配ないわ。もう彼の術は解いたから。」
それを言われ周りを見ると今迄片膝を着いて居た人達が回りの様子を見ながら呆然と立ち上がり
一人、又一人とその場を立ち去って行くのが見えた。
「はぁ~、シェルシアに掛かると今迄私達が必死にやってた事がバカらしく見えるわ。
それでどうやってカリナの場所が判ったわけ?」
「簡単よ。彼が教えてくれたの」
そう言って馬車の馭者を務めていた男を指さした。
さされた男は片手を胸に私達にお辞儀をした。
「お嬢様がお気に成されておりましたのでお教えいたしました。」
「はぁ~~?シェルシアがお嬢様?シェルシアまさか彼も?」
「勿論、あっそれからこれも拾って来たから。」
そう言ってバッグから数枚の術式の掛かれた紙を数枚取り出すと
それを摘まんでひらひらと振り
「こんな鼻紙にもならない安い紙を街中に張りまわって恥ずかしく無いのかしら。
もう少し良い紙を使いなさいよ。」
そう言うとクルクルっと丸めて魔法を使って手の平の上で燃やすと
3階の方から何かが崩れ落ちる様な音がしたがそちらを見ると『負け』の様な気がして
見ない様にした。
しかし勝手に音は聞こえて来る物でオルイド達の声が3階から聞こえて来る。
「もうそいつらはやる気も失せたようだ。縛り上げてそのまま突き出すか。」
その後直ぐに彼等を縛り上げる音とタルト達の安心したかの様な声が聞えて来た。
イズミがドレスのままのシェルシアとモジモジと落ち着かない様子のカリナを連れ
3階へ行くと既に魔族4人が縛り上げられていた。
残り2人はまだ馬車の番をしてるのでそのままだったので彼等は後で縛り上げる事となった。
するとオルイドが怖い顔をしてイズミに近寄って来た。
イズミがビクつきながら身構えているとオルイドがイズミの肩を掴み。
「イズミこれで後はギルドを通してミリニシアにこいつ等を引き渡す事になるが
1つまだ大きな問題が残って居る。」
「オルイド、凄い怖い顔してるけどその問題って。」
するとオルイドがシェルシアの方を見ると。
自分の頭をクシャクシャと掻き外の馬車を指差した。
「何だあれは~~。一体何処から持って来た!あの馬車どう見ても貴族の物だろうが!
あんなの勝手に持って来てしかもそのドレスもどうしたんだ!見つかったらただじゃすまないぞ!」
「だから拾って来たの。ドレスも馬車の中に有ったし廃棄物の再利用よ。自然に優しいでしょ。」
「あんな立派な馬車を捨てて有る分け無いだろう!一体何処から持って来た!」
「だから拾っただけなのに・・・」
そう言って悪びえないで居たがオルイドや私達の説得により
その後馬車の置いてあった場所へ戻ると
とある男爵令嬢が付き人と共に買い物に来ていた事が判った。
しかもシェルシアが着ていたドレスも仕立て上がったばかりの真新しい物でまだ袖も通して無い物だと判明。
すかさずシェルシアを引き摺りながら連れて行き平謝りに謝り
最後にオルイドが謝る事で何とか難を逃れる事が出来た。
ただその際その令嬢がオルイドを見て目がハートマークになって居た事は
最近オルイドと上手く行って居るタルトには内緒にしておこうと思った。
しかしその後そのオルイドが令嬢に食事を誘われていた事を私は知って居る。
元男の意見としては謝罪先からの食事しかも令嬢からの誘いとなれば普通断るに断れない筈なので
その後の事はオルイドから聞かない事にした。
それこそ大人の対応・・・の筈だったが気になり過ぎて思わず聞いてしまった。
ヤッパリ大人になり切れないのかな?
「でっオルイド令嬢から食事に誘われた様だったけどどうしたの?」
ちょっと意地わるぽく聞いて見ると凛とした様子で。
「勿論断った。俺には心に決めた人が居るからと言ったら納得してくれた。」
とっ言ってたが本当に納得してくれたのだろうか?
それは怪しい所だったがオルイドのお陰で何とかこれで魔族の件は片付いた・・・筈だったのだが。
その後冒険者ギルドマスターのガレスからの呼び出しが来るとは思いもしなかった。




