12 帰還
時間は少し戻り
ミニュ山麓イズミが殺された。
その事実がタルトの胸に突き刺さりどんなに抑えようとしても涙が次から次えと零れ落ち
胸が苦しくなりその場から動けずに居ると隣に居た白銀の魔女シフォンが叫び声と共に
空へ飛び立った。
そうだ、イズミと一緒に居たミナトも死んだんだ。
きっと魔女様も嘆き苦しんで居るに違いない。
そう思って居ると白銀の魔女が魔法を魔族に対して放った後上空が広域に渡り暗雲が広がり
その中で雷が鳴り出した。
すると悪魔のレアが結界を張り避難する様に叫ぶのが聞えたが動けずに居たタルトを
セティア達が結界内に連れて行ってくれたがそれからが凄かった。
周り全てに竜巻が荒れ狂い雷が魔族達の上に降り注ぎ
最後には上空から火の塊が落ちて来た。
『ズシン!ズシン!』とそれが落ちた時に鳴り響く地響きと共に破裂する様な音が響いて来る。
又結界を破ろうとするかのようにその飛び散った破片が結界にぶつかり
結界内でも安全とは言えず彼方此方で今にも破壊されるのではないかと思われるほど
恐ろしい時間が続いた。
これが白銀の魔女様の力。
あの冒険者学校で見せたイズミとの模擬戦は一体実力の何分の1程の力しか出して居なかったのだろうか?
そう考えるとタルトは今荒れ狂うこの状況は今の彼女の心そのものの様に感じられた。
暫くするとそれらが止み上空の暗雲が晴れて行くとそこには白銀の魔女を抱き抱えた
帝国の勇者の姿があった。
結界を解かれ勇者が白銀の魔女を抱いて来ると既に彼女の意識はなく
そのままタルト達の近くに寝かされるのを見て更に悲しくなり又涙が出て来てしまった。
『イズミとミナトが死んだ』その事がその今迄見せた事の無かったその
白銀の魔女の姿を見て又タルトの心に現実として突き付けられた様な気がしたからだった。
そしてタルトの手の中に握りしめられたイズミの髪紐を見ると又胸が苦しくなってくる。
『イズミ、苦しいよ。何で死んじゃったの?』
そんな時タルトの所へセティアが来てそっと顔を近付けて来てくれた。
「タルト、苦しいよね。悲しいよね。でもね、まだイズミの死体が見つかった分けじゃ無いのよ。
可能性は限りなくゼロに近いかも知れないけれどまだどこかで生きて居るかも知れないじゃない。
今貴女がやるべき事は嘆き悲しむ事じゃない、イズミが生きて居る事を信じてあげる事じゃ無いかな?」
「セティア、でもあの剣の手は間違いなくイズミの手なんだよ。それなのに生きてるなんて信じられる分け無いじゃない!」
泣きじゃくり鼻を啜りながらセティアに言うと
「そう右手だけ。本当なら片手があのような形で見つかったのなら肉片だって飛び散ってる筈じゃない?
でもそれが何処にも見当たらない。余りにも高熱を発する魔法だったのなら
肉片も残らない事も考えられるけど
それならあの手首の傷には焼け爛れた跡が有る筈なのにそれが無い、その事をどう思う?」
「イズミが何処かで生きてる?」
それを聞いてセティアが頷き
「私は少ない可能性だけれどそう思ってる。」
「イズミが生きてる!」
タルトは涙を拭きセティアの顔を見つめるとその目には少しづつ輝きが戻って来ていた。
「でも、タルト・・言い辛いんだけれどさっきも言った通りその可能性は限りなくゼロに近い・・
だけどあのイズミの事だから又元気に『お腹すいたー』って何処からか現れそうな気がするのよね。」
「セティア有難う。そうだよね。信じてあげないとね。」
まだ心の整理は出来て居ないがタルトはセティアのその言葉に救われた。
正直タルトは握りしめたイズミの髪紐を見るとつい悪い方へ考えが向き自然に涙が出て来てしまう
しかし今はそれをグッと我慢して『イズミはきっと生きて居る』そう信じる事にした。
そして今しがた目を覚ました白銀の魔女が勇者の言葉に項垂れて居るのが目についた。
今度は私の番だ。
タルトがそう思い白銀の魔女の側に行くと先程セティアに言われた事を今度は私が伝えなければ
そう思いながらもついイズミの事を思い出して涙が零れそうなのを我慢して
必死に笑顔を作り白銀の魔女に伝えた。
「白銀の魔女様、きっと生きてます。あのイズミがそう簡単に死ぬ筈ないもの・・だって・・だってあんな死に方イズミらしくない!」
自分の言葉が何処まで通じたか分からないでも白銀の魔女からは
「そうよね絶対生きて居る。イズミもミナトも必ず。私も信じるわ」
白銀の魔女から欲しかったその一言が聞く事が出来た。
『そうきっと2人は生きて居る。・・2人の遺体が見つかるまでは私は2人の生存を信じる。』
タルトはそう心に誓いイズミの千切れた髪紐をポケットの奥深くに仕舞った。
その後白銀の魔女が捕まえた現魔王軍4鬼神の一人ジャグリスを勇者が縛り付け
イラエミスの兵が来る前にカラファと合流次第帰還する事に決まった。
そして結界の張ってあった場所から出て周りを見渡すとその変わり様に驚いた
広い範囲の木々は倒れて焼かれ土も捲れまるで別世界の様に思えた。
その後ファシズ達と合流して帰る事となったが
ただ帰った時キャミアとカフェス達にイズミの事を何と話せば良いか考えると
気が重くなって来ていた。
しかし数日後直ぐにその時は来た。
タルト達を出迎えてくれたキャミアとカフェスがタルト達の所へ来て
明るい声で迎えてくれるその声がタルトに取ってとても辛かった。
「タルトお帰り、4鬼神のジャグリスを捕まえたんだって!やっぱり白銀の魔女様って凄いわね~。」
「うん。本当凄かったよ。」
「うん?タルトどうしたの元気ないみたいだけど。所でイズミは?
以前みたいに精霊の力で活躍したんでしょ?見たかったな~。」
「それがね。イズミは・・」
「待ってそれは私が説明する。」
セティアがキャミアの間に入ってくれて少しほっとしたけれど
やはりこれは自分が説明しなくてはとタルトがそれを断った。
「セティアやっぱり私が説明する。」
そうしてようやくイズミの手を放す事が出来た剣をキャミア達に見せた。
「イズミの剣。・・まさか・・タルトウソでしょ。タルト!ねえ、ウソだよね!」
そしてたるとが首を横に振るとキャミアとカフェスがその場で泣き崩れた。
「でもねまだイズミの遺体が見つからないの。
だからもしかしたらイズミは生きてるかも知れない。ううん。例え片手を失ってもきっと生きてる。私は、イズミを信じる。」
「タルト、今イズミが片手を失ってもって言った?どういう事?」
その時タルトは、思わず言った自分の一言に後悔した。
「あっ、うん、実はその剣には千切れたイズミの片手が付いてた。」
「そんなんで生きてる分け無いじゃない。酷いよ。そんな…」
「例えそうだろうとお願い信じてあげて。きっと、イズミは生きてる。…そうよね、イズミ生きてるよね。…」
タルトは、今まで必要に堪えていた涙が又零れて落ちた。




