第46話 町の様子
今日も1話です。
翌早朝。
俺は真っ先に教会の確認に向かった。
港町に向かった騎士たちの全滅の報が届いているかどうかを確認するためだ。
各国の王都やそれに次ぐ大都市にあるような神殿や大教会になると話は別だが、教会は基本的に誰でも気軽に入っていい場所と謳っている。組織間であまり仲が良くない冒険者であってもそれは変わらないので遠慮する必要はないのだが、わざわざ教会の中に入らなくてもこの時間であれば、日課の掃除をしているメリアさんに聞けばいい。
教会がある通りに出ると、期待した通りに掃除をしている彼女の姿があった。門の辺りを掃除しに来るのを見計らって声を掛ける。
「メリアさん。おはようございます」
「あ、おはようございます。アルド君」
俺に気が付くと彼女も挨拶を返してくれた。
本来なら雑談してから切り出したほうが自然だろうが、忙しい彼女の手を長時間止めるのも良くないと思ったのですぐに本題に入れそうな話題で行くことにする。
聖騎士のルイーゼさんのおかげでもう警戒はされていないのでこちらも砕けた感じで話してもいいだろう。
「メリアさんってこの町生まれ? 俺、最近ハーフェンに行ったんだけど俺の村とは違って変な臭いがして最初は戸惑っちゃってさ」
「変な臭いってもしかして磯の香り?」
「そうそう、磯の香りって言うんだってね。宿の女将さんが教えてくれてさ」
「私も初めて行った時は驚いたなぁ、確かに独特だよね」
最初の質問はさりげなく流されてしまったが問題無い。こちらもそこに興味があって聞いたわけではないしな。
その後も港町の名前を出しながら会話を続けたが彼女の態度におかしなところは見受けられない。
ここの教会は関係者は多いが純粋な教団側の人間は彼女と司祭の2人だけ。何かあれば当然聞かされていてもおかしく無い。従騎士隊の安否についての知らせがあったなら何かしらの反応があると思ったんだが。
ハーフェンにある教会の人間も馬鹿じゃないだろうから、予定日を過ぎても戻ってこない騎士達の様子を見に行くはずだ。それがあの日の翌日か翌々日とするなら、遅くても昨日には騎士達の異変があちらの教会の知る所になるだろう。
俺の行動とは2日遅れて動くことになるってことは、その日のうちに聖都に向けて知らせを出したとしてもこの町に知らせが届くのは早くても明後日頃か。
(3日後くらいにまた探りに来るか)
毎日通ってもいいのだがあまり周りに変に思われても問題だ。
話している俺たちの横を手伝いに来たご婦人たち数名が興味深そうにしながら通って行った。変な噂を立てられでもしたら彼女の迷惑だろうから今日のところはこれくらいにしてずらかるとする。
「おっと、つい話込んじゃったな。邪魔しちゃってごめん」
「ううん、いいよ。いろんなお話聞くの楽しいし」
「そう言ってもらえるなら良かった。だったらまた新しく仕入れとかないと」
「うん! 楽しみにしてるね」
屈託のない笑顔で話す彼女。『仲良くしよう作戦』は順調のようだ。
彼女と別れた後冒険者ギルドへと向かった。
最近は手紙のやり取りをしているのでゲアートさん達は誰かしら居るはず。受付のお姉さんに頼めば呼んでもらえるだろう。
その前に久しぶりに依頼を受けよう。Dランクになってしまうと雑用が増えそうなのでまずいが、ここのところ傭兵のふりをしてしばらく期間が空いてしまったし、ここらで一度何かしら受けておいたほうがいいだろう。
とは言うものの丁度ラッシュの時間帯に重なってしまったので人の流れが収まるまで端に寄って待つことにする。召喚できる魔物の素材の納品依頼を受けるつもりだから急いで依頼の取り合いをする必要も無いし。
(随分賑やかになったな。知らない奴らが増えた)
順調に客も増えてきているのを実感しつつぼんやり眺める。
この大陸にあるダンジョンは今やここだけ。難易度も高くないから特に若手にはいい修行場になることだろう。野生の魔物を探して狩るよりも、少し歩けば魔物が居るダンジョンの方が安定して稼げるしな。
考えながら待っていると外から新たに1組の冒険者パーティが入ってくる。4人組で年齢は全員俺と同じくらいで男女2人ずつ、装備を見るに男たちが前衛で女の子が魔法使いと斥候だろう。見ない顔なので近くの町や村から流れてきたか。
凄く気になることがあったので、視線を悟られないようにダンジョンの地図を広げて見ている振りをしながら観察する。
「ほら見ろ! お前がモタモタしてるから出遅れちまっただろうが!」
「もういいのが残ってねぇだろうなぁ。どうすんだよ? なあ?」
「ほんっとに使えないわねアンタ」
斥候の女の子が申し訳なさそうに俯いている。
口が動いているのを見るにメンバーに謝罪しているのだろう。
気になることというのは斥候の子が持っている荷物の量だ。彼等の口ぶりから察するに他のメンバーの荷物も持たされているのだろう。行き先がダンジョンだろうが町の外だろうが、食料に水、換えの装備などもろもろ含めれば相当な重量になっているはず。とても1人に持たせるような量じゃない。そもそも受ける依頼が決まっていないなら、当然行き先も決まっていないのだから荷物は宿に預けておけばいいのに、それをしていないということは明らかに彼女に対する嫌がらせが目的だ。
(人間も魔物も変わらないな)
大声で罵倒する彼等はかなり目立つ。他の冒険者たちもチラチラと視線を送るも全く意に介していない。
パーティにはそれぞれの事情がある。規約にある訳ではないが他人が口出しするのは好まれることではない。それは良く分かっているが流石にあれは目に余る。
俺は注意をしようと一歩踏み出そうとしたのだが。
「待て。お前さんはいい」
突然横から声が掛かった。
「ゲアートさん……」
俺は余程彼等に集中していたらしい。嫌がらせの性質は全然違うが、彼女に自分の姿が重なったのもあるのだろう。
彼等の元へと近付いて行って何やら話すゲアートさん。
初めのうちこそ男の1人が「ああ?」とか「関係ねぇだろ?」とか言っているのが聞こえたがすぐにヘコヘコしだした。
なんでゲアートさんに対してそんな態度がとれるのか。
『能力把握』が無いとそんなものなんだろうか?
そういえばギフトのレベルが上がってたな、この感じだと精度が上がったのか?
これでより一層危ない奴から距離を取れるようになったって訳だ。レベルが見えるダンジョン内とは違ってこうして外に出る俺にはかなり役に立つな。
男達はしぶしぶといった様子で斥候の女の子から荷物の一部を受け取っていた。所詮この場だけなんだろうが取り合えず解決か。
ゲアートさんがなんて言ったかは分からない。望みは薄いがこれを機にパーティで仲良くしてくれることを祈るしかないな。
再び俺のところに来るゲアートさん。
「まったく。胸糞悪い奴らだ」
「大丈夫ですかね? 彼女」
「さあな。パーティで話し合うことだからな。ギルドの中であれは鬱陶しいから止めさせただけで、その後のことまで面倒見てられねぇよ」
その言い方は少々冷たいような気がしたが、一瞬ではあるがゲアートさんが珍しく悲しそうな表情を見せている。きっとこんな事は今までに沢山あったんだろう。
まあ、ゲアートさんの言う通りか。仮に解散させたとしても面倒見れないよな。
「それはそうとよ――」
「はい、なんでしょうか?」
ゲアートさんが真剣な眼差しで俺を見てくる。
今日はいろいろな表情を見られるな。いつも不敵に笑っているイメージだが。
「お前さん、ハーフェンに何しに行った?」
いきなりの質問に俺は激しく動揺した。
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