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61. 変わりゆく関係…Ⅳ



 苦し紛れに次回に話をぶん投げたのは良かったが……

とうとうその次回がやってきてしまった。


 先送りに意味は無いとはよく言うが、全くもってその通りである。結局、なぁ~んも良いアイデアなど浮かんでこなかった。………



 ほんと、いらねーことやるんじゃなかったよな。

萌え顔見たさに蝶野さんを追い詰めた結果、最終的に一番追い詰められたのは俺自身だなんて。……笑えないけどマジでウケる。


 これぞまさに身から出たダシ…いや、身から出た錆ってやつだな。後悔は先に立たないといわれるが、後も絶たないってことが身に染みてよく分かった。



 だけどさ、手を握るぐらいで蝶野さんがここまで過剰に反応するなんて本当に予想外。しかも握ってきたの蝶野さんの方だし…。


 はっきり言って俺は彼女の自爆テロに巻き込まれたようなもんだよね?

でも、そのテロリストを煽っておかしくさせたのは紛れもなく俺か。……ってことは、やっぱ俺が一番悪い奴?



 そんなことより、だ。 問題を整理しよう。

もしも今のこの状況を誰かに見られたら、そいつは何を想像するだろうか?


「蝶野たんだぁ~いちゅき♡ ぼくの彼女になってくだちゃ~い!」

―――修二君、渾身の告白!


「いやぁ~ん、も~う… 急に告白されちゃっても… 麗香こまるぅ~」

―――告白に戸惑う可憐な美少女、麗香ちゃん。


 さぁ、麗香ちゃんの返答や如何に? 運命のその瞬間まであと5秒~! 


     ……『 修二君、愛の告白劇場(完結編) 』……


 率直に言って、こうだろう。

当事者である俺が言ってるのだから間違いない。

さらに言えば、俺はさっきからこのことが気になってソワソワしている。


―――「蝶野たん、オッケーしてくれるかな?…ドキドキ」


 なんでやねん?………

なんで俺がドキドキしてるわけ? ねぇ、だれか教えて?


 でもね、さっきから萌え萌えモジモジの蝶野さん見てたらさ、「もしかしたら……」って自分で思っちゃう。………ねぇ皆さん、ちょっと聞いて言い?

―――おれ、告白してないですよね? 



 と、とにかく、この状況を変えるには蝶野さんを普通の状態に戻すか、または俺がここから立ち去ってこの雰囲気を消滅させるかの二択しかない。



 先ずは蝶野さんを普通に戻すってことだが……

はっきり言って今はムリだと思う。蝶野さん相当テンパってるし…。

それに今は俺があれこれ蝶野さんに話し掛けるのは逆効果になる恐れが高い。―――だって蝶野さんをテンパらせたの俺だもんね。(てへっ)


 では次の策。

俺がここから立ち去る……か。

「ちょっとトイレ…」って感じでこの場から立ち去ることは容易だが、俺が立ち去った後、いったいどーなるのか? では、今から…イマ~ジ~ン。(想像)


 俺がトイレに逃げ込むと蝶野さんは一人ここに取り残される。今の蝶野さんは超萌え萌えのもじもじっ娘。ガチでカワユイ……そして超目立つ。


 普段とは明らかに様子の異なるカワユイ蝶野さんは、きっと誰かの眼に留まるだろう。……そして、



「麗香… どーしちゃったの、いったい? なんかさ、すっごくカワユいって言うか……」

「………う、ううん。なんでもない」


「うっそだぁ~ 絶対なんかあったんでしょ? 顔だって真っ赤だよ?」

「―――いいい、いいえ……なにも……ないって…」


「無い訳ないじゃん。おかしすぎるよ?……今の麗香」

「そそそ…そんな…こと ……ないもん」


「ねえねえ、正直に言ってごらん? ………やっぱ男なんでしょ?」

「―――ひぃえっ! ちちちち、違う…」


「クスッ… 当たりだね。でもどーしてそんなにおかしくなってんの? もしかしてさ、……なんかされた? いきなり『手』なんか握ってきて強引に口説かれたとか?……」

「あ、あ、あわわわ…… て! て! 手!………」


「そっかぁ~ 結構強引に口説かれたんだね。 で、誰よ? その相手は?」

「…………。」


「ねぇ~ いいじゃ~ん 教えてよぉ~ れいかぁ~」

「…………。」


「そー言えばさ~… 麗香って朝はいつも修二君と喋ってるよね? そっか、わかった! 修二君だ!」

「……(大ギックリ!)……」


「キャハハハ~ 大正解だね。 そっかそっか…。 じゃあまた後でね、麗香」


   ………「ねえねえ~ みんな聞いてよ~~~」……… 



―――これ以上の想像は体に良くないな、うん。ちょっと眩暈してきたし…。



 だめだ……全く打つ手なし。

もうこうなったら「時間切れドロー」を狙うぐらいしかないな。

流石に蝶野さんもHRが始まればちょっと落ち着くだろ。………



 そー言う訳で俺は蝶野さんが落ち着くまでこのまま見守ることに。

取り敢えずは周囲を警戒しながら目撃者がいないかこっそりと探索してみる。

―――前ヨーシ、右ヨーシ、左ヨーシ、(掲示板には)画ヨーシ!


 用~紙、よ~し、今のところ大丈夫。

奇跡的にもまだこちらに注目している者は誰一人いない。

ま、この状況ならイケるかも。(ギャグはイケてない…涙目)


 そう思ってちょっと安心した俺は、何となくといった感じで教室内を眺めてみた。教室の雰囲気はいつも通り…ってか、いつものように恭子の周りが賑わっている。


 恭子が人を集め、ちょっと楽しそうな雰囲気が出来上がる。その楽しげな雰囲気は、さらに周りにいる人達を惹きつける……そして気が付けば、賑やかで明るい世界がそこに生まれている。……相変わらずって感じだな。


 一方で俺の近くはというと、けっこう人はまばらであるが、大体がお決まりのメンツで集まっているといった感じだ。だからあちらと違い、こちらはちょっと落ち着いた雰囲気となっている。


 ちょっと騒がしい雰囲気である恭子のいる廊下側、何だかまったりした雰囲気で落ち着いている窓側。同じ教室内で発生しているこの大きなコントラスト。

だが、それに異を唱えるものは誰もいない。何故ならばコントラストを彩っている各々が、それに満足しているからだ。


―――ふむ… 普段と何も変わらない風景、いわゆる日常ってやつか…。


 何の変わり映えもない風景。まるで約束されているかのように、同じことが繰り返され、同じような時が流れていく。



―――日常。当たり前ってこと……


 俺はふと視線を隣の席に向けた。


 俺の眼に映るもの、それは佐藤の横に寄り添って、幸せそうな笑みを浮かべながら楽し気に喋っている加賀美の姿だった。


 毎日見るお馴染みの風景、もはや規定事項と言っても良いぐらいのその様子は、日常という言葉が良くあてはまる。だからその様子を見ても何ら違和感を覚えない。


―――では、これはどうなんだろうか…。


 俺は視線を一番近くに居る少女へと向ける。


 そこには、頬をほんのり染めながら、恥じらうような仕草をする可憐な美少女がいた。美しいという言葉ですら彼女を表現するには物足りない。彼女の美貌は圧倒的な存在感を与えてくる。



 俺は毎朝、この少女と楽しく語り合っている。

それは義務や役割だからと言う訳ではない。ただ、傍に来れば互いに声を掛け合い、そして楽しく語り合う。まるでそれが当たり前の事であるかのように、決まっているかのように…。


………これが俺にとっての日常? 当たり前の事?


 今まで深く考えたことが無かった。

彼女とこうして二人っきりで話す事がどうして当たり前なのかを。



 俺は2年生になって初めて彼女を見た。

俺ですらその噂を耳にするほど彼女は有名人だった。


―――蝶野麗香


 類稀なる美少女。それを認めない奴など誰もいない。


 明るく陽気な性格とその美貌は圧倒的存在感を周囲に与える。

誰もが認める雲の上の存在。彼女が天使様と呼ばれるのは揶揄ではなく、彼女を見た人全てが持つ素直な印象から来ている。……実際俺も初めて彼女を見た時、その噂通りの印象を抱いた。


別の次元にいる存在。手を伸ばそうとさえ思わない程に、遠いところにいる人……

彼女を見ればそう感じる奴は少なくないと思う。俺と同じ様に…。



 だけど、その彼女は今、俺のすぐ目の前にいる。

そして、届かない距離にいた彼女の手は、俺の手をしっかりと握りしめた。


―――どうしてこうなった? いつから?……


 わからない。

気が付けばこうなっていた。


 狙ったわけでもない、望んだわけでもない、彼女という人間と関わっているうちに、気が付けばこのような関係性が生まれていた。知らず知らずのうちに…。


―――結局、俺は彼女に魅了されちゃったのかな…


 多分……いや、間違いなくそうだろう。


 今の俺は彼女に少なからぬ好意を抱いている。彼女の美しさに惹かれた?…それは否定しないが、それ以外の部分の方が理由として大きい。

俺が彼女に惹かれる理由、それは蝶野さんが、彼女が……


―――俺の事を認めてくれているから


 これは思い過ごしではない。彼女の言動からはっきりとそれが見て取れる。彼女が何を想い、どう考えているのかは俺には分からない。だが、彼女の言葉には何処か温かさを感じる。頑張れ!…と励まされているような気がする。


 この感じ……未だ俺の記憶にはっきりと残っているそれとよく似ている。

俺の初恋はここから始まっていった。ここから一気に想いが膨らんでいった。

何だかとても懐かしく感じる。



 蝶野さんは俺に好意を持ってくれている。それに気付かないほど俺はマヌケではない。認められる人物だからこそ好意を向けて貰える。そして励ましても貰える。そう考えるのが普通だろう。


 蝶野さんが俺に向けて持っている好意がどのようなものなのか、どれくらいのものか、俺はそれを知りたいとは思わない。彼女は俺を認めてくれている……その一点だけでいい。何よりそれが俺にとっては嬉しく思えることだからだ。



 俺の事を認めてくれる、頼りにしてくれる、期待してくれる…。

相手からのその想いが、俺の原動力となる。そこから、俺は勇気を得られる。


 今思えば、俺はずっと昔からこうだったのかもしれない。

まだ幼かった時には恭子からその想いを貰い、恭子が俺を認めてくれなくなったと勘違いした俺は、それを初恋の人に求めた。そして今は……それを蝶野さんが与えてくれている。


―――『 士は己を知る者のために死す 』


 多分これが俺の根幹。

小さい時からずっとそうだった。だから俺は恭子を守り続けた。

それが俺のやるべきこと、当たり前の事、そう思っていた。


 俺のこの考え方、やり方がダメなのはよく分かっている。

誰かに認めてもらえねば持てない勇気などに意味はない。それは本来、自分自身の意思から生まれてくるはずのものである。それはよく分かっているんだけどね…。

 

 だが昔から体に染みついてしまったこの習性を直ぐに直せと言われても…。

だから蝶野さんから貰っているこの想いに対して、俺はいつかむくいたいと思ている。彼女の望む何かで…。




 黙って俯いている蝶野さんを見ながら、俺は何となく彼女と知り合ってからの事を思い出していた。


 全ては俺が彼女に相談を持ち掛けたところから始まった。それから宿題を見せて貰ったり、勉強を教えて貰ったり、そして俺と恭子の関係を皆に上手く説明して貰ったり………………。


―――あれ? あれれ…?


 い、いやいやいやいや、お、俺だって蝶野たんの役に立ってるしぃ~

ケーキセットだって奢ってあげたしぃ~ 映画にも連れて行ってあげたしぃ~

いっつもちゃんと報酬は払ってるしぃ~


………ん? 報酬? 報酬ねぇ~



「あ、あのさ、蝶野さん………」

 そー言えば……


「―――な、なに?」


「何にする?」

 そーだった……


「………へっ? な、何が」


「決まってるじゃん!」

 俺と蝶野さんの合言葉は……


「………えっ?」


「報酬だよ、報酬。 勝負に勝った場合のご褒美ってやつ…」

―――報酬だったよな!


「ほ、報酬?…」


「ああ、そう。だって俺と蝶野さんの勝負だろ?だったら勝った場合は『 報酬 』が貰えて当然じゃない?」


「………勝ったら 報酬…… 報酬か……」


「そうそう。なんせいっつも俺が払ってるからね。今回は俺が勝利して蝶野さんから初の報酬を頂いちゃおうかなぁ~ なんてね…」


「………クスクスッ」


「蝶野さん、…『 で、報酬は?』何にする?」


「アハハハ~ そうねぇ~ やっぱ報酬は大事だもんねぇ~ んーと、何にしようかなぁ~」


「何なりとどーぞ」


「えッ? どうしよう… えっと、えっとね…… クスッ じっくり考えたいからもうちょっと後でもい~い?」


「どーぞ、ご自由に……」


「キャハハハ~ わ~い!」



 俺の目の前には眩しいぐらいの笑顔で微笑んでいる美少女がいる。

ちょっと悪戯っぽい顔をして思案しているのだが、もしかしたらそれは俺をちょっと困らせてやろうと企んでいるのかもしれない。その証拠に時折こちらを見ては、ニタニタと怪しい笑みを浮かべる。


………やっぱこの顔ですかね


 彼女の顔はよく見覚えのあるいつものやつ、すなわち日常のものだ。

さっきまでそこにいた、シャイでもじもじとしていた非日常的な美少女の姿はもう何処にもない。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりこのルートか。恭子は報われなかったな。
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