60. 変わりゆく関係…Ⅲ
「クスッ… よし、決まりだね…」
「………」
お手手にぎにぎという反則技に思わず屈してしまった俺を横目に、蝶野さんはニコニコしながら上機嫌でそう言った。
未だに俺の手をしっかりと握りしめながら―――
あ~あっ… 完璧にやられ申したって感じだ。
ただでさえ”超”が付くほどの美少女に、「ハニートラップ」なんぞ仕掛けられた日にゃ~もーね、……
堕ちるなという方にムリがある。
逆にこれで堕ちなかったら、そっちの方がある意味ヤヴァイ疑惑の眼を向けられてしまうだろ…。
………えっ? 修二君ってそっち系!?
そっち系って……フフッ……どっち系よ?
自慢じゃないが俺はれっきとしたロリ系の住人だ! ヤローなんかに興味はない。俺の興味は永遠なる妖精を探す事だけだ! そのために俺は森のパトロールを決して欠かさない。
―――でもさ、これ大声で言ったらね、やっぱ別の意味でヤヴァイやつに認定されちゃうのかな?
ま、そんなことより大事なのは今だ。取り敢えず……全集中!
………エロの呼吸… 参の型… 柔肌堪能!
―――説明しよう。
柔肌堪能とは文字通り、女子の柔肌をしゃぶりつくすように堪能する技である。この際、全神経を指先に集中させる必要があるのだが、エロの呼吸を極めることによってそれが可能となるのだ。
よし、オラの体に力がみなぎってきたぞ!
集中だ! もっと集中するんだ! 隣にある加賀美のケツを忘れるぐらいに集中するんだ!
「―――どーしたの? 修二くん………」
「………」
全ての意識を指先に集中している俺。当然蝶野さんの言葉が耳に入ってこない。
だが、何の返事もよこさない俺を不思議に思ったのか、蝶野さんは俺の顔を覗き込むように見つめると、やがて俺の視線を辿っていき、そして……
「あッ! ご、ごめんなさい…」
俺の手を包み込むように、しっかりと握り締めている自分の手を視野に入れると、慌ててその手を引っ込めた。
―――くそっ! ぬかった…
上手くやればあと1分は堪能できたものを…… む、無念。
多分蝶野さんは無意識で俺の手を握っていたのであろう……
俺の手をがっしり握っていたことに気付くと、大慌てと言った感じでぱっと手を放し、勢い余って少し後方にのけぞるような姿勢となった。
思わぬ事態に右へ左へと眼を泳がせて視点の定まらない様子の蝶野さん。その表情は正直に驚きを表している。思いっきり動揺を隠しきれていない蝶野さんなのだが、俺はそんな彼女を見て、ちょっと意外だなって感想を受けた。
俺が抱いていた彼女のイメージ……
陽気で明るく行動的ではあるが、基本的には冷静であり、しっかりした判断力を持つ。いつもぎゃーぎゃー騒いでいるようなその辺の女子とは風格が違う。
そんなイメージだった蝶野さんが、あたふたとして落ち着かない状態になっている事が、俺にしてみれば凄く意外なことだった。
でも……
なんか普段と違う蝶野さんなのだが、新鮮味があるって言うか……慌てている彼女の姿を見ると何だかとてもそれが可愛く思える。 実際、普段から飛びぬけて可愛いんですけどね…。
いつも俺を弄ってくる蝶野さん。でもその実、彼女の正体は照れ屋でシャイなカワユイ女の子だった………ってか。
あのさ、蝶野さん―――俺を誘ってんですか?
俺にシャイで幼げなかわゆい少女の姿を見せるなんて―――俺をロリ魂だと知っての所業っすか? もう今さら「あれは冗談」では済みませんよ? こんなけガソリン注入されたら俺は限界まで萌えちゃいますからね?
よーし、こうなればもっと萌えさせてもらおうじゃあーりませんか。
今の状況を鑑みるにマウントを取れそうなのは明らかに俺の方。こんな好機なんて滅多にない、いや、二度とないかもしれない。この際、超絶美少女の照れっ照れでキャイ~ンって感じの萌え顔をもっと拝ませていただきませう!
現在の蝶野さんの様子はって言うと、必死に冷静さを取り戻そうとしてるって感じだ。………だが、そんなの修二君が許しません!
「いやぁ~ 蝶野さんと試験の点数で勝負なんて勝てる気しないんだけどね…… でもさ、今のでやる気出たよ! なんせ蝶野さんに『手を握られて』励まされちゃったんだからね!……」
動揺している人間を更に追い詰めるようなクズの所業。―――ええ分かってますよ、十二分に。 言いたけりゃ何でも言ってくらーさい。 だが、俺のライバルである赤い彗星も言っていた。「自分はチャンスを逃さない方なんでね…」と。俺もその意見には激しくagree-with(同意)!
さあ、蝶野さん、見せてもらおうか…… 新しいガンダムの…いやいや違う、…新しい蝶野さんの萌え顔ってやつを!
「……えっ? ……い、いや ……その……」
俺の言葉を聞いた蝶野さんは完璧にテンパった。そして……
顔を真っ赤に染め上げると直ぐに俯いて、両手をスカートの上でぎゅっと握りしめ、落ち着かない感じで指先をもじもじと動かす。肩を竦めて小さくなっているそんな彼女の姿は愛すべき小動物のようであり、ロリ魂である俺の庇護欲をこれでもかというぐらい掻き立てるものだった。
―――かっ、可愛ええ~!
いいですね~ いいですね~ いいですよ~
どっかの映画監督みたいなセリフが思わず出ちまう。
さて、待望の萌え顔 (蝶野さんVer)ってやつを拝ませていただきましょうか!
「あのさ、蝶野さん―――」
俺は蝶野さんに呼び掛けた。だが、用事なんて何もない。
呼ばれれば普通は振り向くよね? 振り向けば顔が見れるよね? そしたら拝めるよね?―――照れっ照れになってはにかんでいる超絶美少女の萌え顔が。
―――さあ来い、麗香! 俺に究極の萌え顔を見せるのだ!
俺に声を掛けられた蝶野さんは……暫くじっとしていたのだが、やがてゆっくりとこちらの方へ顔を向ける。
俯いていた状態から、少しだけ顔を上げて見上げるように俺を見つめた彼女。
羞恥に頬をピンクに染めて、少し怯えるような上目遣いで俺を見つめるその瞳は、何処か湿ったような感じがして何とも言えぬほどに艶っぽい。
目尻を下げて、その美しい瞳で困惑を訴えかけるような彼女の視線を受け取った俺は……萌えた。萌え盛った。
―――すげーよ、蝶野さん。あんたマジすげーわ。
一気に俺の萌えゲージは満タンとなった。
羞恥に色を染めた蝶野さんのその表情は、破壊力があるなんて表現では生ぬるい。もう言葉では比喩できない程の圧倒的な魅力があるとしか言いようがなかった。
一瞬でお腹いっぱいとなった俺。腹八分目どころかもう限界突破しそうって感じ。
………ごちそうさまでした。
美味しゅうございました、ええ本当に。充分に堪能させて頂いたって感じです。
蝶野さんは俺の期待に十分すぎるほど応えてくれた。これ以上彼女を弄るのは人としてどーかと思う。(既に人としてどーかと思ってる自覚はあります、ええ…)なので俺はちょっと彼女のフォローをさせて頂くことに…。
「……でもさ、蝶野さんに勝負しようって言われたんで、何だか俺も頑張ろうって思えてきちゃった。よっし、頑張って蝶野さんに勝ってやるぞ~!」
どう? この天才的な話のもっていきよう。
話題の中心を「お手手にぎにぎ」から「テストで勝負だ!」って感じにすり替えるこの上手さ。蝶野さんの元々の目的は俺を勝負に引き込むこと。だから話題が「勝負」になれば彼女もきっと気分を変える筈だ。
ま、後は勝負の話を盛り上げて、「お手手にぎにぎ」の件を封印しちゃえば彼女もいつもの様子に戻ってくると思う…。
さて、俺のフリに対して蝶野さんはどんな返事をしてくるか…。
「ウフフ… 修二君もやる気だね。私も負けないよ~」……多分こんな言葉が返ってくると思うんだけどね。………
しかし、実際に彼女が寄こしてきたのは、
「………そ、そう… なんだ……」
何とも心もとない感じの返事だった。
―――あれ? なんか変だぞ?
何だかいつもの彼女らしからぬその返事を聞いてちょっと違和感を覚えた俺。
「蝶野さん、俺、頑張るよ………」
ちょっと様子がおかしいので、俺はもう一度彼女の意識を勝負へと向かわせるようにしてみた。
「……う、うん。頑張ってね……」
伏し目になっていた彼女は視線をゆっくりと上げると、そう言いながら俺の眼を見てはにかむように微笑んだ。ちょっとおどおどしながらではあるが、彼女は優し気な微笑みを俺に向けてくれる。
うむ。まだちょっと動揺してはいるが何となくいつもの蝶野さんだ。
しいて言えば、……羞恥を隠しきれていない感じなのに、必死に微笑んでくれているところが健気って言うかそそるというか。……そのせいでこの世のものとは思えない程に彼女が美しく、そして尊く見えちゃってさ、究極にエモく感じちゃうぐらいかな。 あははは……別にいつもと変わんねーよ。
―――ごめんなさい真面目に言います。
度肝を抜かれました。……んで、ついでに心臓止まった。
蝶野さんは普通に戻るどころか、エモさが数段パワーアップしていた。
はっきり言って今の蝶野さんは規格外のカワユイ少女。
その余りのカワユさに思わず絶句。蝶野さんの微笑みを見た瞬間、俺の鼻からは謎の汁が零れ落ちた。(たぶん血液とか脳ミソとか、あとなんかが混ざったやつ)
―――やっちまったよ、おれ。
しょーもない好奇心から俺はとんでもないものを覚醒させてしまったのかもしれん。俺が弄ったせいで蝶野さんの眠っていた真の魅力が一気に解放されていってる。
「…………。」
未だに俯いている蝶野さん。だが、時折顔を上げてはチラッと俺の顔を覗き見て、そして恥ずかしそうにまた顔を伏せる。はっきり言ってエモさの加速が止まらない。
お願い、蝶野たん。もうその表情やめてちょーだい。
私が悪かったです悔い改めます猛烈に反省いたしますいくらでも謝ります。
だからもう勘弁して。おれっち萌え尽きて消し炭になっちゃいそう…。
それから二人の間には、静寂という時間が訪れた。
二人の間に存在する空間は明らかに周囲とは異なっている。相対性理論が働いているのか、時の流れがこの空間だけ異なっているように感じる。
脳の80%程度を破壊されて固まっている俺。ほんのり頬を染めてもじもじしながら、時折俺をチラ見してはまた俯いてしまう蝶野さん。全く会話がないのだが、二人だけの世界が明らかに存在する。
さてみなさん、今の俺と蝶野さんの様子を客観的に見た場合、何を想像いたします?
俺はそれに気付いて思わずハッとした。
………こ、こいつは…まずい!
固まっている修二君と、恥じらいながらもじもじする蝶野たん。そして二人の間に存在する明らかに異質な空気。 これ見たやつってさ、絶対こー言ってくるよね?
―――「どーした修二? 蝶野さんに告白ぶっこいたんか?…」
………いやいやいやいやそれはまずいって!
そんな噂が発生したら瞬く間に学校中に広まっちまう。
普通の女の子相手ならいざ知らず、蝶野さん相手に告白なんて……自らマヌケな伝説を創り上げるようなもんだ。
『 神聖なる大天使様に朝っぱらから告白ぶっこいた勇気あるド平民・・・その名は本郷修二君 』―――いらねーから、そんなレジェンド(伝説)。
「ねえ見て見てぇ~ あれが本郷くんよ~」
「キャハハハ~ 知ってるよ。だって有名人だもん…」
「えっとさ、あれやったんだよね?… なんだっけ、あれよ、あれ!……」
「あれでしょ? 確か……大天使様を精神的に追い込んで無理やり彼女にしようとした……だったよね?」
「そうそう、しかも朝っぱらから……」
「ほんと、よくやるよねぇ~」
「でもさ、やり方がエグいってか、ガチでクズだよね?」
「しかもロリ魂ガチ勢らしいし… やっぱ近寄らない方がいいよね?」
「そんなの決まってるじゃん。あーいう奴は無視よ、無視!」
「だよね。クスクス…」
………見えてはいけない未来が俺の脳裏に浮かんでくる。
この状況を何とかしないと、俺を待ち受けてるのはマジでこんな未来だろう。
冷静になってよく考えろ。きっとこの状況を上手く打開できる方法が見つかるはずだ。じゃないと俺の残りの高校生活が完璧に詰んでしまう。
今は取り敢えず時間が欲しい。冷静に考える時間が。
何か時間を稼ぐ良い方法は無いものか……
―――そうだ! いい方法がある!
この続きは次回ってことにすればいいんだ!
更新が大変遅くなってしまい誠に申し訳ございません。
心からお詫び申し上げます。
「パソコンの前に座ると指が固まる症候群」という難病に侵されてしまい、
必死になってリハビリに励んでおりました。
リハビリの甲斐があってか、ようやく投稿にこぎつけることが出来た次第で
あります。
ゆっくりとですが更新を続けていきますので、これからもよろしくお願い
いたします。




