46. 私と彼…Ⅳ
本郷君に凄い成績をとらせる!
私は思いついた。これなら数字に表れるし、何より順位が分かりやすく能力を教えてくれる。いくら自虐的な彼でも数値で証明されればそれは疑いようがない。これならきっと自分の価値を再認識してくれるはず…。
そのためには彼が優秀な成績を修めないといけないのだが、……多分それは大丈夫だと思う。今日の様子を見ていても十分いけると感じる。……よし、やってやろう。
私はそれから鬼になった。本郷君には気の毒だと思ったが全ては彼のため……ごめんね、本郷君。涙をこらえて私は鬼となって彼に勉強を教え込んだ。―――でも正直言うと最後の方はぶっちゃけ愉しかった。(これナイショ)
彼は追い込まれれば追い込まれるほどに良い味を出す。これも新たな発見だ。
そして準備も万端、いざ中間テストへ……。
私は自分の事よりも彼の事が心配で毎日ハラハラする思い…。
やがてテストも全て終わり、彼に出来栄えを尋ねるとまんざらでもないといった感じ。―――これなら大丈夫かな?…
私はちょっと余裕のある彼の表情を見て、ようやくほっと一息つけたような気になった。手応えを感じて嬉しそうにしている彼。私は彼のその表情を見てると、何とも言えない感情が沸き起こってきた。上手く表現できないけど、彼の笑顔が私に幸福感を与えてくれるといった感じかな…。
そしてお約束である彼からの報酬を頂くお話となり……。
どうしようかと考えていると、良いことを思いつく。ちょうど見たい映画もあったし、もう少し彼を詳しく観察もしたい。
だから私は彼に映画に連れて言って欲しいとおねだりすることに。二人だけで出かければ、新しい彼の一面を見れる可能性も高い。それに一緒に行動しながらでないとできないこともあるし…。
そうして映画を観に行く当日となったのだが…。
私は前の日の晩からあることに燃えていた。何度も言って本当に申し訳ないのだが私は美少女と呼ばれている。一応それなりのプライドも持っている。自分に自信を持つことは大事。私はそれを本郷君に分からせようとしているんだからね…。
ならば私がその先駆けにならねば…。
私は持っている服を総動員して自分の魅力を最大限に引き出せるような服装を選んでみた。……
言っておきますけど、一緒に勉強していた時に私の可愛いしぐさをガン無視されたことや、こんなに可愛い私の顔を至近距離で見つめても、照れた表情のひとっつもしなかった本郷君にイラっときてあんにゃろうなんてドス黒い感情が湧いてきたからってのが理由じゃないんだからね。(そこは察して欲しい)
こうなったら意地でも本郷君をドッキドキにさせてやろうじゃないの!
そんな思い(どんな思い?)で服を選んでいたのだが、そのうち妙にテンションが高まり、最終的には当初の目的を忘れてひたすら可愛さを追求することに没頭。―――キャハハ、この服カ~ワ~イ~イ~
だが、その成果として、自分でも完璧だと思えるコーディネートを完成させた。
よし、これならイケてる!
もうバハムートなんて言わせない!(結構根に持ってます、はい)
一晩かけてようやく服装が決定。私的に最高傑作だ、うん。これ以上ないってぐらいにね…。もう自慢したくってしょうがない。黙っていられなくなった私は、当日の朝に写メを撮って本郷君に送っちゃった。
結果、彼に却下された。―――イラっときた、マジで。
だが気を取り直して一緒に出掛けることに。
彼と一緒に行動し始めて思ったのは、やはり私に気を遣いすぎること。お礼だからという部分もあるのだろうが、別に対等な関係でもお礼はできる。だが彼は妙に遜る。相手にお礼をするのに自分を卑下する必要など全くない。
だから私は彼に気を遣わせないようにした。全て先回りして気を遣う場所をなくす。彼が委縮しそうになる部分を全て潰してやろうと考えた。
自分に自信が持てないので相手の顔色を窺ってばかりいる方が本来は失礼だ。自信をもった明るい笑顔で相手に接することこそ相手を楽しませることができて感謝の気持ちが伝わる。本郷君が私に感謝してくれるのなら私はそうして欲しい。
そして映画を観終えて私は本郷君に感謝を述べた。
本郷君が映画に連れて来てくれて、一緒に観てくれて、同じ想いになって感動してくれて… 素直に嬉しかった。だから感謝を述べた。
―――あなたのおかげで楽しい想いができた
それを伝えたかった。あなたは十分私を楽しませてくれた。自信を持ってほしいと…。
あなたという人だから私は楽しめた。私にはあなたが十分な価値を持った男の子に見える。……それに気付いてほしい。上手く伝わったかは分からないが、時間が経つにつれ彼の笑顔はより魅力的になっていったと思う。
そうしていよいよ中間テストの結果が発表となる日がやってきた。
私は朝からもうドッキドキ。自分の成績が心配だからではない。本郷君の成績だけが心配だった。本郷君の名前が呼ばれ彼が成績が書かれた紙を受け取ると、それを持って席へと戻ってくる。本当に緊張する…。
そしていよいよ努力の結果が明らかに……なる前に彼は成績が書かれた紙を真っ二つに破っちゃう。
……何してんのよ?
私はイラっとした。彼の傍にいると楽しさとイラつきが交互に襲ってくる。
だが修復して明らかになった彼の成績は、本当に驚くべきものだった。私の予想をはるかに超えた順位。やっぱり彼は素晴らしい。彼は私の期待を上回る。絶対に自分に自信を持つべき人だ。
彼は最初、信じられないといった顔をしていてた。だけど徐々に顔が綻び生き生きとした笑顔に変わっていった。私はそんな彼の顔を見て感慨を覚えた。いいえ、そんな安いものじゃないな。なんだろう……今まで感じたことのないような本当の意味での悦びといった感じかな。
今の彼には少し自信が窺える。それが何より嬉しい。思わず彼の手を取って一緒に喜びたいと思った。彼を何とかしてあげたい、…最初は彼を追い詰めたことへの贖罪からそう思う部分もあった。でも今は何だろう… そんな暗い想いからではなく、ただ彼に自信をつけて欲しい、胸を張れるようになって欲しい、心からそう思う。
その後は期待をはるかに上回る成績に嬉しくなり、私も彼も思わず燥いでいた。だが、そんなときに本郷君の名前を呼ぶ誰かが現れた。
本郷君は彼女を「恭子」と呼ぶ。そして彼女も本郷君を「修二」と呼ぶ。そして二人の息はぴったり。完全に二人だけの世界が構築されている。
だが、私が最も驚いたのは彼女と話しているときの本郷君の表情だった。私が今までに見たこともないような彼の安らいだ表情…。
―――いったいどういうこと?
高科さんの存在は当然知っていた。クラスでも一番目立つ女の子。沖田君との噂もあり、いつも話題に上る。でもそんな高科さんと本郷君がいったいどうして? 以前本郷君に尋ねた時も彼は殆ど関り合いは無いと言っていたのに…。
でも二人が話している姿を見ているとまるで恋人同士以上。高科さんは沖田君よりも親密な態度で本郷君に接している。
私の興味は一気に高科さんに向けられた。
どうしても私は彼女と話がしたい。訊いてみたいことが山ほどある。
そう思った私はお昼休みに彼女のもとを訪ねた。放課後に何としても彼女を誘い出そうと考えて…。そうして初めて彼女と初めて色々と話しているうちに彼女と本郷君が10年近い付き合いの幼馴染だと知る。
なるほどね…… で、あるならば納得って感じ。
あの親密な二人の関係はそこから来ているんだ。他人の振りは本郷君の彼女に気遣ってってことらしいし…。
取り敢えず放課後の打ち上げ会へと彼女を誘い出すことに成功した私は、色んな期待に胸を膨らませていた。それに初めて長く彼女と話したんだけど、なんだか気が合いそう。話していて普通に楽しいと思った。それも含めて私は放課後が待ちきれない程に楽しみになっていた。
そしていよいよ放課後となりみんなで打ち上げの会場へ。
お店に着いてみんなで話をしながら盛り上がったが、私は本郷君と高科さんに注意を払っていた。ほんのたまにしか二人で話す機会はなかったが、明らかに他の人と対応が違う。ただ馴れ合っているっていうのではなく、なんて言えばいいのか……
そう、お互いを信じ切ってるって感じがする。高科さんと沖田君もそのような感じは見受けられるが、そんな比ではない。
―――なんだか羨ましいな…
彼らを見ていて無意識に私の口からはそんな言葉が零れ落ちそうになった。




