表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

運動会の朝

 ガタッ、ガタ、ガタ……。

 階段で大きな音がして、ママさんが台所からとび出した。

 パパさんとリョウベエもあとを追った。

 階段の下。

 ジュンが顔をしかめてうずくまっている。

「落ちたの?」

「うん」

「それで、どこが痛いの?」

「ここんとこ」

 ジュンは右の足首をさわってみせた。

「今日、走ることになってんだろ。ちょっと立ってみろ」

 パパさんの手をかり、ジュンはゆっくりと立ち上がった。ところが右足を床に着けたとたん、すぐにまた座りこんでしまった。

「ネンザみたいだな」

「ダイジョウブ?」

 リョウベエが顔をのぞきこむ。

「だいじょうぶなもんか。すげえ、いてえよ」

「運動会、出ラレナイネ」

「ああ、こんなんじゃ走れないよ」

 今日は地区運動会。町内の五年生代表として徒競走に出ることになっていたのだ。

「班長さんには出られなくなったって、とりあえず連絡しておくわ」

 ママさんが電話をかけに行く。

「シップをしといた方がいいな。それに早く、かわりに走る者を見つけなきゃあ」

 パパさんはシップ薬を取りに行った。

「オレのかわり、いるかなあ?」

「ボクガ出ルヨ」

「オマエが?」

「ウン、ボクガ出ル」

「ムリだよ、リョウベエ。オマエ、五十メートルも走れるわけないだろ」

「ガンバッテ走ルヨ」

「ほんとに走れるんか?」

「マカセトイテ」

 リョウベエはまん丸の胸をたポンポンとたたいてみせた。


 会場はおおぜいの人であふれていた。

 ロボットもたくさん来ている。

 ジュンはリョウベエを連れて自分の町内のテントに行った。

「その足、どうしたんだよ?」

 ユウタがさっそく声をかけてくる。右足の白いホウタイに気づいたらしい。

「朝な、階段から落ちてくじいちゃったんだ」

「それで走れるんか?」

「歩くのがやっとだよ。それでリョウベエが、オレのかわりに走ることになったんだ」

「リョウベエが走るの?」

「ボク、ガンバッテ、一等ニナルンダヨ」

「ムリだね、どんなにがんばっても」

 リョウベエの丸いおなかをつつき、ユウタが大声で笑う。

 笑い声を聞きつけたのか、となりの町内のテントからヒロシがやってきた。

 ヒロシは新型のロボットを連れている。

「オレ、足をくじいて出られなくなったんだ」

 ジュンは右足の白いホウタイを見せた。

「なら、オレが一等だな」

 ヒロシが両手でブイサインをつき出す。

「今日ハ、ボクガ走ルンダ」

 リョウベエもブイサインを作ってみせた。

「ウソだろ。オマエ、走れんのかよ?」

「走レルヨ!」

「オマエが出れば、みんなよろこぶけどね」

 ヒロシがバカにすると、ユウタもいっしょになって笑った。

「しかたねえだろ。オレがケガしちゃったし、リョウベエも走るってはりきってんだからな」

 自分が出られないのと、リョウベエがバカにされたことが、ジュンはくやしくてたまらなかった。

 プログラムが進み、リョウベエの出場する徒競走のアナウンスがある。

 ジュンはリョウベエの頭に町内の青いハチマキをまいてやった。

「ムリすんなよ」

「心配シナイデ」

 リョウベエはにっこりすると、手をふりながら登場ゲートに向かった。

 徒競走の選手の入場が始まった。

 選手はそれぞれ、町内の色のハチマキを頭にまいている。

 スタートは一年生から。

 どのテントも応援する人でいっぱいだ。とくに町内の選手が目の前を走るときは、声援がひときわ大きくなる。

 ジュンはゴール近くにあるテントとテントの間にいた。

 徒競走は早くも四年生へと進み、もうすぐ五年生のスタートになる。

――だいじょうぶかな?

 リョウベエは家事専用ロボット。しかも、ずいぶん旧型なのだ。

 五年生の選手たちがスタートラインに並んだ。

 そここにはリョウベエもいる。

 ピストルの音で、選手たちがいっせいにスタートを切った。

 スタートして十メートル。

 ヒロシがトップ。

 ほかの選手があとに続く。

 リョウベエはやはりビリで、しかもみんなよりダントツに遅れている。

 差はひらくばかりだった。

 それでもリョウベエは、丸い体を左右にゆらして走っている。

――リョウベエ、がんばれ!

 ジュンは心の中で叫んでいた。

「あのビリ、ロボットだろ」

「今どき、あんな旧型ロボットはめずらしいな」

「あれじゃあ、歩いてんのとおんなじだよ」

「青いハチマキって、どこの町内だ?」

「あんなオンボロロボット、ここらへんじゃ見たことないよな」

 そんな話し声とともに、まわりから笑い声が聞こえてくる。声を出して応援していたら、自分とこのロボットだとわかっていたところだった。

 ヒロシがトップでテープを切り、ほかの選手たちも次々にゴールしていく。

 そのとき。

 リョウベエはまだ半分ちょっとのところ。走るスピードはますます落ちていて、ヨタヨタと歩いているとしか見えない。

 リョウベエがテントの前にさしかかった。

「いいぞー、カメロボットー」

 だれかが大声でひやかすと、テントの中がいっせいに笑いのうずにつつまれた。

 それからすぐに、リョウベエは足をからませて転んでしまった。

 丸い体がコロコロと転がる。

 リョウベエはレーンをはずれ、ジュンのいるテントの前でやっと止まった。

 起き上がろうとするがなかなか起き上がれない。

「転がる方が速いじゃないか」

 だれかが指さして笑った。

「ダルマみたいだな」

 ほかの者も笑っている。

――走らせなきゃよかった。

 顔が熱くなるほどはずかしかった。

 ジュンは逃げ出すように、いそいでその場から立ち去ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ