表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

番外編「あぁ、恋人とはなんて甘いものなのだろうか」

 さらりとした癖一つもなく、染めもしてない綺麗な黒曜石と同等かそれ以上にもなる。見た目よりもずっと触ると柔らかく、ふわふわとわたがしを食べている感覚に陥った。

 ああ、なんて美しいのだとため息を一つと言わず何度も吐き出した。こんなに美しいものが世にあっていいものなのかと。

 彼の全ては美しく、この私の世界に幸せをもたらす。存在しているだけでいい。それだけでもういいのだ。

 だがほんの少しだけそれを手に入れたいとか最近は贅沢なことを考えていることがある。隠し撮りした彼の後ろ姿の写真だけでは足りない。彼が壊したカメラでも足りない。

 一度彼のぬくもりを知ったらもう後戻りはできないんだ。


「ああ、なんて素敵なの。この漆黒に輝く髪は」


 新しく私のコレクションに加わったのは彼にお願いして切って貰った彼の髪の毛十本だ。半分である五本は既に小瓶の中に入れ、大切に飾っている。

 残りの五本についてはどうするか未だに悩んでいるところだ。一本はお守り袋に入れて常に持ち歩いてもいい。そしたら常に彼と一心同体だ。

 二本目は匂いを嗅ぐようにしてもいい。彼と常に一緒にいた髪の毛は彼のいい匂いが染み付いている。

 三本目は舐める用にしてもいい。彼の髪の毛の味を永遠に味わえるのだ。

 四本目は身体に擦り付ける用にしてもいい。髪の毛一本さえあれば何度も熱くなった身体を静めることができよう。

 五本目は飾り用にしてもいいだろう。髪の毛一本用の額縁を作り、壁に飾り常に鑑賞出来るようにするのはいい。どの角度からでも見えるようにするのが理想的だ。


「考えただけで素敵」


 溶けきった表情で彼の髪の毛を見つめていると部屋のドアが開いた。ドアの向こう側から入ってきたのはまさしく待ち望んでいた彼である。


「もう終わったの?」

「ああ、素敵な家だね。外から覗けないところまで写真を撮ることが出来て嬉しいよ」


 私が彼の髪の毛を貰うのに対して彼は私の家の中の写真を撮ることになったのだ。

 彼は満足したように私の方に一歩と近付き、腕を伸ばし、私の頬に触れた。彼から触られたところから全身に熱が周り、身体が熱い。もう全てを彼が触ったことがないっていうところまで私に触れてほしい。


「後は君の部屋と、君が写ってる家の中の写真がほしいよ。ああ、あとはいこれあげる」

「あっ、それはっ」

「前に約束していたやつだよ」


 はい、と渡されたのはミニ黒板とチョークである。彼はチョークでミニ黒板に文字を書いていく。「好き」と書かれた黒板が私に渡された。

 また宝物が一つ増えた!と心がウキウキになる。お礼を言って黒板を眺めていると彼はカメラを構えて写真を撮り始めていた。


「撮りたい写真がいっぱいあるけどいいかな?」

「私でよければいいよ」

「ありがとう、ならまずはベッドに寝てもらえる?」


 ちょうど、お手製の君の抱き枕に寝ている写真を使いたかったんだ。ずっと憧れていたんだよ。そう嬉しそうに話す彼に私までも嬉しくなり、彼が言うように何度もポーズを変えた。まるでモデルにでもなった気分だ。

 それから家中のいたるところで写真を撮り、満足した彼はカメラを下げた。


「今日はありがとうね。おかげで俺が知らない君に関することが少なくなったよ」

「今度はあなたの家に行かせてね」

「勿論、俺の家にいる君を何度も想像していたからね。それが現実になるなんて」


 嬉しい限りだよ。そう甘ったるく微笑み、彼は私に顔を近づける。触れた唇の隙間から舌が入り、私の中を掻き乱す。彼から注がれる体液という唾液を一滴も無駄にすることなく飲み干した。


「君はなんて甘くて美味しいんだ。君以上に美味しいものなんてないよ」

「私もあなた以上に美味しいものなんてない。今度は何を食べさせてくれるの?」

「君が望むのならなんでも。その代わり君を食べさせてね」


 ペロッと舐めるように耳たぶを甘噛みしてそっと離れる彼の袖を掴む。足りない、こんなのでは足りないと贅沢な私は首を振り、彼におねだりをする。

 漫画とかで見る上手なおねだりなんて出来ないが私なりに必死におねだりをしているんだ。彼は更に表情を緩め、離れた距離以上に近付いた。


「俺も離れたくない。足りないんだ、君を求めてる……愛してるよ」


 耳に触れたまま私の名を呼ぶ彼の声は掠れており、耳たぶを刺激する。私も愛してるよというように目の前にある彼の首筋を舐めた。うっすらと塩気のある汗の味だ。それもまた彼のものだと思うと甘い。


「私も愛してる」


 それと同時に触れた唇はまだ離れそうにはない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ