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【6万PV 感謝感謝!】記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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余裕余裕の筆記試験

私は試験会場に意識を戻し、周りを見回した。

受験者は百人以上いるみたい。

(……もっといるかもしれないけれど、もう目測できないわね)

みんな真剣な顔で本を読んだり、

私をちらりと見たり、

私を見ながら隣の人とこそこそ話したりしている。

私が目を向けると、その人たちはすぐ顔を逸らした。

……なぜ私を見てこそこそ話すのかしら。

目の前でこそこそ話されると、ちょっと自信がなくなる。

ドレスが変なのかな?

……いやいやいや、そんなはずはないよね。

だってメイガンさんは、保健省と試験という二つのキーワードにふさわしいドレスを厳選して、

支度まできれいにしてくれたんだもん。

……うーん、まあまあ、たまたま目が合っただけで、私のことを話しているわけじゃないかもね。

あなたは自意識過剰だよ、リーマちゃん。

無視無視。

気持ちを切り替えて、もう一度周りを見回した。

本を読んだり、目を閉じて集中している人もいる。

……うーん。

私も試験の準備をしないといけないかな。

私はすぐ、カイテルさんが買ってくれた鞄に手を差しこみ、お母様からいただいたペンを取り出し、机の上に丁寧に置いた。

――にんまり。

よし、準備完了。

完璧だ。

後は試験問題をもらって回答を書き込む――のみ。

この試験会場、男女は半々くらいで、年齢も私と同じくらいの人から四十歳くらいまで幅広い。

さすが実力主義の国。

年齢も身分も関係なく、実力次第で働けるんだよね。

女性受験者は、貴族っぽいご令嬢が何人もいる。

本を読む所作や、ペンを持って書く所作が美しい。

でも、私の所作は……うん、田舎娘なのは隠せないね。

いくら私は、ジョアンナお姉様のきれいなドレスを着ても……

平民育ちなのが出ちゃうよね。

ちょっと恥ずかしいなぁ。

まあ、試験には関係ないし、余裕余裕。

試験のことと関係ないことを考えていたら、女性の試験官が入ってきた。

あちこちで喋っていた受験者たちは、すぐ自分の席に戻り、会場は一瞬で静かになった。

「おはようございます。本日、受験にご参加いただきありがとうございます。

私は保健省の試験官担当、セシルです。

皆さんと一緒に働けることを心よりお待ちしております。

みなさんはご存じでしょうが、試験は午前と午後の二部構成です。

午前の筆記試験は、八割正解できなければ不合格。

午後の実技試験は、四種類以上の調薬ができなければ不合格です。

どちらか一方だけ合格の場合も不合格と見なします。

午後の部の調薬試験を先に確認しますので、午後が不合格なら午前の回答は確認しません。

人員が足りませんからね。

では皆さん、頑張ってください」

試験官の声は優しいけれど、内容は容赦ない。

さすが国の重要機関、保健省ね。

まあまあ、私はどっちかが不合格でも、

保健省の大臣が仕事を保証してくれているから、心配ないよね〜。

余裕余裕。

でも他の受験者たちは、試験官の話を聞くと顔を引き締め、会場の雰囲気が一段と重くなった。

ほぉ〜。

試験って、こういう感じなのね?

勉強になりました〜。

女性試験官のセシルさんが前の列の人に問題用紙と解答用紙を配ると、前の人は順に後ろの席へ回していった。

私は最後方の席だから、しばらく待って、やっと用紙が自分のところに届いた。

「ありがとうございます」

微笑んで前の席の男にお礼を言うと、男は顔を真っ赤にして前方に振り向いてしまった。

……あらあら、人見知りなのかな〜?

問題用紙をざっと最後のページまで目を通した。

うん、思ったより簡単そうだ。

おっと……

危うくニヤッとするところだった。

誰かに見られたら、ちょっと気持ち悪がられちゃうかも。

「では試験開始!」

セシルさんの声で、一斉に受験者が用紙に向かい、ペンを走らせる。

私は周りをチラッと眺めてから、心の中で「よし」と気合を入れた。

お母様からもらったペンを手に取り、解答用紙をめくって、一問ずつ書き込んでいく。

書き続けると手が少し疲れてくる。

そこで、軽く手を振って休憩し、また集中する。

この繰り返しで、あっという間に最後のページまでたどり着いた。

(あらまあ〜、もう終わっちゃうのね〜?)

最後の回答を書き終え、解答用紙をもう一度チェックした。

ふむふむ。

全問正解のはずだ。

超簡単だったもん。

おじいちゃんの試験のほうが、

ずーーーーっと難しくて。

ずーーーーっと意地悪だったもん。

例えば、この試験では、

風邪の症状は?

鎮痛剤を作る材料は?

この植物の効果は?

あの症状を抑える一番手軽な方法は?

……などなど。

うん、受験者全員が全問正解って可能性もあるかも。

おじいちゃんに話したら、きっと驚いて面白い顔をしてくれるだろうな。

……あっ。

日記に今日の試験のことも書かなくちゃ!

――でも。

ひとつ気になることがあった。

(この解答用紙、どうやって私のものだってわかるんだろう?)

名前の欄かな?

それとも魔法?

私はゆーーーっくり、丁寧に表紙から裏表紙まで確認した。

特に何も書かれていない。

……うーん、やっぱり魔法かな?

表紙に戻ってじっくり見てみると、表紙の一番下に名前を書く欄があった。

……小さくて気付かなかったわ。

ふぅぅぅ……。

危うく、名前を書かない情けない理由で試験に落ちるところだった。

まあ、仕事は保証されているから余裕余裕だけどね。

私は丁寧に名前を書き込み、もう一度回答に目を通した。

ふむふむ。

完璧だ。

しかし、なかなか終了時間にならないわね。

あとどのくらい残っているのかしら。

私はやることもないし、外に出てご飯を食べる場所を探して、ジョージさんが試験の応援のために特別に作ってくれたクッキーと昼ごはんを食べたいのよね……。

「昼ご飯は秘密ですから、楽しみにしてくださいね。絶対喜んでくれると思いますよ。試験頑張ってください」

朝からどんな昼ごはんなのか楽しみで仕方ない。

お腹もぺこぺこだし、喉も乾いたし、メイガンさんが準備してくれたお茶も飲みたいよ……。

やることがなくて退屈になってきた私は、両手で頬杖をつきながら、あちこち見回した。

みんなまだ真剣に回答を書いているみたいだけど、そろそろ終わるんじゃないかな。

……

はぁーーーっ!

もうーーーーっ!

私を解放してください、お願いします!

やることなくてつまらないです!

もう眠くなってきました!

時間はあとどのくらいなんですか!?

また両手で頬杖をついてあちこち見回した瞬間、試験官のセシルさんと目が合った。

眉をひそめて私をじっと見ていた。

なぜそんなに私を見ているのかな……?

――欠伸をひとつ。

「問題が難しくても、頑張ってみてください。今ここで諦めたら次の試験は来年ですから。

もう少し頑張ってくださいよ。自分の可能性を信じてください」

突然の大声に、私は思わず顔を上げた。

ほかの受験者たちも、誰に向けた言葉なのかと周囲を見回していた。

みんなも、セシルさんが誰に話しているのか気になっているみたい。

うーん、見つからないなぁ。

まあ、百人以上いるんだもの。

また両手で頬杖をつき、欠伸しながら受験者たちを眺めた。

一秒が一時間のように感じる静かな試験会場で、だんだん眠くなり――

うとうと……。

私は素直に机に伏せ、夢の世界へ。

そのとき、『トントン』と肩を軽く叩かれた。

目をこすって後ろを向くと、セシルさんが立っていた。

おかげでぱっちり目が覚めた。

「問題が難しすぎですか?もう少し試験に集中してください。ここは貴族の遊び場じゃないですよ。周りを見て。みんな真剣に試験に向き合っていますよ」

……なぜか、

当たり前のことを言われてしまった。

ちょっと首を傾げた。

セシルさんが声を抑えずに言ったせいで、他の受験者も振り向いた。

……うわぁ。

突然注目の的になっちゃった。

恥ずかしいなぁ。

――でも。

私は無言で貫くことにした。

「聞いていますか?やる気がないなら、この部屋を出て行ってください」

思わず目を大きく見開いた。

なんと!

セシルさんが素敵な情報を教えてくれたよ!

「えっ!?まだ終了時間じゃないですけど、もう試験会場を出ても大丈夫なんですか!?

もっともっと早く教えて欲しかったんです。

まあ、教えてくれないよりマシですから大丈夫です。怒っていませんからね。心配しないでくださいね。

では、こちらをお返しします。また午後の部、よろしくお願いします」

笑顔で問題用紙と解答用紙をセシルさんに渡した。

セシルさんは首をひねり、ぼーっと私を眺めながら受け取った。

鞄を手に取り、席を立って平民風のお辞儀をした。

試験会場を、ちょっと得意げな気分で出ていった。

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