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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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余裕余裕の昼休み

私は試験の建物の外に出て、ゆっくり座れるところを探すと、建物の裏側に静かで涼しい場所を見つけた。

そこに腰を下ろし、一息ついて、メイガンさんが準備してくれたお茶を飲む。

ふぅぅ。

さっきまでは、眠くて眠くて眠すぎて、頑張って目を開けるのが大変だった。

セシルさんのおかげで目が覚めたから、本当に助かったわ。

後でお礼を言おうかな。

さっきは試験会場を出られたことが嬉しすぎて、お礼を言うのを忘れちゃった。

私はジョージさんが特別に作ってくれたクッキーの小箱を取り出し、一個を手に取って小さくかじる。

お、お、美味しいーーーーっ!

さすがジョージさんだ!

あれ!?

この香り……。

あっ!

もしかして、イブニングローズも入っていた!?

クッキーは程よく甘く、しっとりしていて、口に入れた瞬間に溶けてしまいそうな柔らかさ!

しかも、イブニングローズの香りのおかげで、いつものクッキーとは違って一段と上品!

香りが漂って、まるでイブニングローズの花園の中でクッキーを食べているみたい!

ふむ!?

よく見ると、イブニングローズの花びらも入っているよ!

茶色のクッキー生地に紫色の花びらが混ざっていて、アクセント抜群!

香りでも見た目でも、イブニングローズが自分の存在を美しく主張している!

素敵!

私はもう一度イブニングローズクッキーを齧った。

ふぅーーむっ!

美味しい!

後四個もあるから、帰りにカイテルさんと一緒に食べようかな〜。

屋敷に戻ったら、ジョージさんに感想を伝えよう〜。


次は、ジョージさんが特別に作ってくれたお弁当を取り出し、ワクワクしながらふたを開けた。

なんとまあ〜。

このお弁当はイブニングローズの花園だったよ〜。

一口サイズにカットされた蒸し魚には、細かく刻まれたイブニングローズの花びらが混ざっていて、すごくきれい〜。

お弁当の周りにもイブニングローズの花びらが飾られていて、香りがほんのり漂い、すごく癒されるぅ〜。

あらぁ〜、卵焼きが小さなホワイトウルフちゃんの形をしているよ〜。

可愛い〜。

しかも八個もあるよぉ〜。

ホワイトウルフちゃんの家族なんだね〜。

素敵〜。

あらあらぁ〜、パンの形はドラゴンちゃんだよ〜。

ガイルちゃんかな〜。

小さなガイルちゃんが可愛らしい〜。

私は小さなガイルちゃんのパンの尻尾を齧った。

あらぁ〜、パンにもイブニングローズの香りがしているぅ〜。

イブニングローズの香りのおかげで、午前の部の試験からの疲れがだんだん消えていくよ〜。

柔らかくてフワフワしていて、美味しい〜。

私はもう一度小さなガイルちゃんのパンの背中を齧り、蒸し魚を口に入れた。

もぅ〜、さすがジョージさんだ〜。

魚が全く臭みなく柔らかく、味付けも優しくて、後何十個食べても飽きない味〜。

今度は小さなホワイトウルフちゃんの卵焼きを口に入れた。

はぅ〜、卵焼きがフワフワしていて口の中で溶けちゃう〜。

あらぁ〜、もしかして薬草も入っているかな〜。

これは、疲労を和らげてくれる薬草だね〜。

だから卵焼きを口に入れた瞬間、なんだか疲れがぶっ飛んで元気になっちゃったんだね〜?

ジョージさん天才〜〜。

しばらくジョージさんの特別なお弁当を味わっていたら、いつの間にか完食してしまった。

お腹はいっぱいだけど、気持ちはまだ終わっていない。

もっとジョージさんのお弁当を味わいたいなぁ〜。

しばらく保健省の樹々を眺め、持ってきた紙に絵を描く。

だんだん眠くなってきたので、絵を描くのをやめ、お弁当やクッキーの小箱、紙とペンを片付け、鞄を持って立ち上がった。


建物の前の入り口から、人々の話し声が聞こえてくる。

午前の部の試験はもう終わったのかな。

私は前の入り口の方へ歩いて行き、食後の散歩をすることにした。

受験者たちは、

グループでお喋りしたり、

一人でご飯をもくもく食べたり、

二人で本を持って試験問題を答え合わせしたり、

三人で次の調薬試験の勉強をしたりしている。


私はその光景を眺めながら、今いる場所の反対側へぶらぶら歩く。

お腹がいっぱいで眠く、簡単には目覚めそうにない。

午後の部の試験、楽しみだな〜。

久しぶりに調薬したいのよね。

午前の部の筆記試験はあんなに簡単だったから、もしかしたら調薬も簡単かも。

でも油断は禁物。

いくら私がショーン大臣に仕事を保証されていても、いい点数を取ってお父様とお母様とカイテルさんに喜んでもらいたいんだもん。

どんな薬を調薬するのかな〜。

下剤かな?

睡眠薬かな?

回復薬かな?

吐き気を起こす毒かな?

それとも二度と目覚めない薬かな?


看病と手当てはどんな試験だろう。

毒を盛られた人の看病かな?

それとも木から落ちて両足を骨折した人の手当てかな?


昔、ニックお兄ちゃんが木に登って滑っちゃって、派手に地面に落ちたことがあったんだよね〜。

両足を骨折しちゃって、おじいちゃんが木を四角く切ってニックお兄ちゃんの足を固定したんだよね。

完治するまで三ヶ月もかかったんだっけ。懐かしいなぁ。

「君、ちょっと待って」

ぶらぶら歩きながら試験のことを考えていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと、男が二人立っている。

(どちら様ですか?)

一人は、カイテルさんが時々着ているような服装だ。

貴族……かな?

でも私は服の知識がほとんどないから、違うかもしれない。

それにしても、この人たち、私に何の用かしら。

「……」

男に話しかけられたら無視して、とカイテルさんに言いつけられている。

でも、本当に無視したら、逆に失礼じゃないかな。

どうしよう。

「えーと、その……今朝から君を見てたんだ。もしよければ、私たちとご飯を食べない?午後の試験の勉強も一緒にしない?」

今朝から……?

あの正門の時のことを思い出す。ちょっと嫌な感じだったあのときと関係あるのかな……?

赤面しながら、昼ごはんに誘ってくるこの男は、ぼっちの私に同情しているだけかもしれない。

しかしご飯は、知らない人より知っている人と食べるほうが美味しいよ。

この男に、そんな気遣いをしてもらっても、一緒には行かない。

カイテルさんに「男についていくな」って言われてるし、お腹もいっぱいだし。

ジョージさんのお弁当以外、もう食べたくない。

それに、ここで勉強なんて始めたら、私は確実にどこかの道端で眠ってしまう。

――うん。

怖いし、まったく魅力を感じない誘いだ。

「誘ってくれてありがとうございます。でも、さっきご飯を食べましたし、勉強も済んでいますので大丈夫です。では」

微笑みながら断り、ぶらぶらと歩こうとする私。

「えっ、えーと……じゃあ、一緒に座らない?あっちは涼しいんだ。一緒に座って話そうよ」

ああ、やっぱり同情されているのね〜。

この男、優しいかもね〜。

でも、さっきまで座っていて眠くなったから、今歩いているんだよね〜。

これも、まったく魅力を感じない誘いだな。

「さっきまで座っていましたから、大丈夫ですよ」

私は微笑みながら断った。

「え、えーと……じゃあ、名前を教えてくれない?私はアンドレ・ゼダム。ドラウネのゼダム辺境伯の息子だ。知ってる?ゼダム辺境伯だ。君はどこの貴族のご令嬢かな?」

ドラウネか〜。

私には、まったく縁のない場所だねぇ。

トレストじゃないのは、ちょっと残念。

そもそも、トレストに「トレスト辺境伯」なんていたっけ?

うーん、ゼダム辺境伯ね〜。

「知ってるか?」って聞かれても、知らないなぁ。

私が知っているお貴族様は、メイソン伯爵家に関係する人たちだけだし。

それに――

「どこの貴族のご令嬢か」、だって?

トレストのド田舎のご令嬢ですが?

「ごめんなさい。知りません。では失礼します」

軽くお辞儀をして、その場を立ち去ろうとした。

――けれど。

手を掴まれて、前に進めない。

「……?」

まだ何か用事?

「おい!人が優しくしてやったのに調子に乗るなよ!俺は辺境伯の息子だぞ!無視できる立場じゃねぇ!」

何度も、同じことを怒鳴る。

「??だから、なに?私は聞かれたことには全部答えましたし、無視もしていませんよね?

それに、手を離してくれません?気軽に手を掴むほどの仲じゃないでしょう。私はあなたを知りません」

当たり前のことを言っただけなんだけど……理解できるかな。

知らない人に手を掴まれるの、すごく嫌なんだよね。

カイテルさんみたいに、温かくて優しい手でもないし。

近くにリオとリアがいなくて、この人は幸運だ。

あの子たちがいたら、間違いなく向こうの立派な木まで吹き飛ばされてたよ。

はぁ……。

午後の試験が始まるまで、ただ散歩したいだけなのに。

「き、君……俺が一言お父様に頼めば、君をこの試験から簡単に落とせるんだぞ」

真剣な顔で、とてもかっこ悪いことを言う。

でもまあ〜、偶然だね〜。

私もお父様とショーン大臣に一言頼めば、試験結果に関係なく、王城の仕事に就けちゃうんだよね〜。

だから今日の私は、ずっと余裕なんだよね〜。

「つまりあなたは、自分の力で私をこの試験に落とせないというのね?たくさんの人の前で堂々と言いふらすほど、それのどこがすごいの?」

自分の力でどうにかするって言うほうが、よっぽどかっこいいと思うけど。

「お、お坊ちゃま……やめましょう。かなり注目されています」

隣にいた男が、周囲を見回しながら小声で言った。

お坊ちゃま?

……ああ、執事さんかな。

大変だね、こんな主を持つと。

私も周りを見る。

受験者らしき人たちが、こそこそ話したり、戸惑ったり、

中には保健省の建物へ走っていく人もいる。

……あ、これ完全に注目の的だ。

恥ずかしいなぁ。

全部この人のせいだ。

「俺はドラウネのゼダム辺境伯の息子だ!文句があるなら出て来い!」

ヒステリックに叫びながら、周囲を睨みつける。

「もう一度言いますけど、そろそろ手を離してくれません?離さないなら、もう遠慮しませんよ?」

「君は何ができる!?俺と来い!」

腕を強く掴まれ、引っ張られる。

――カチン。

リオとリアがいなくて、この人は本当に幸運だと思う。

でもね、私だって、か弱いだけの女の子じゃないんだから。

私は、カイテルさんが買ってくれた鞄を、丁寧に地面に置いた。

そして空いた手を強く握りしめ――

男の顔面に、華麗なパンチを叩き込んだ。

「あぁぁっ!」

この男が叫び、やっと私の手を離した。

私は少し距離を取り、顔面を狙ってためらいなく蹴り付ける。

おじいちゃんの弟子で、

国の騎士のお兄さんたちと手合わせしてきた私を舐めないでほしいわね。

もちろん、おじいちゃんやお兄さんたちには勝てたことはないけど!

「て、てめぇ!」

この男が地面にかっこ悪く寝転がって叫ぶ。

「お、お坊ちゃま!」


私は男に近づき、もう一度顔面を蹴ろうとした瞬間――






「あなたたち、何をしてる!?やめなさい!」


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