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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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無臭無色の影

似顔絵を描き終わり、七人に見せると、みんな口を揃えて「こいつだ!」と叫んだ。


似顔絵担当のライアンさん、すごい……。


あの説明だけで絵を描けるなんて、もはや天才かも。



……おっと、そんなことより。




「カイテルさん、あのう、七人が作った薬は麻薬だけですか?他の薬は全くないんですか?」


小声で尋ねると、カイテルさんは即座に七人に質問した。


「おまえらが作った薬は麻薬だけか?他にはなかったのか?」


一瞬前まで優しかったカイテルさんも、瞬時に鬼の形相になった。


……人って、ほんとに一瞬で人格変わっちゃうのね。


「そ、そうだ。麻薬が三種類あった。俺たちが作ったのはそれだけ」


麻薬団のリーダーが、ビクビクしながら答えた。


カイテルさんが私を見て、視線で「どうする?」と問いかけてくる――


たぶんその意味――


カレル森の小屋にはイブニングローズや回復薬の材料もあったけど、回復薬は作らなかったのかな。


普通の回復薬なら気にしないけど、あれは少々訳ありのものだから、服用前に万全の準備をしておかないと危険だ。


「えーと、ほ、他にあるはず……」


また小さな声でカイテルさんに言った。


「リーマ、遠慮しないで。知りたいことがあったら、あいつらに聞いてもいいよ。この取り調べの参加はお父様から許可ももらっているからね」


カイテルさんは私の手を優しく握り、頭をなでてくれる。


「リーマちゃん〜、聞きたいことがあったら全然聞いてもいいよ。なんでも大丈夫だよ〜」


アレックスも相変わらず優しい口調で言った。


人って瞬時に人格変わるのね、ほんとに……。




「はい、えーと、あなたたちは本当に他の薬を作らなかったの?回復薬は?」


「かいふく……やく?」


「そんなのあったっけ……」


七人は首をかしげて考える。


「紫色の薔薇が小屋にあったんじゃない?あれは何に使っていたの?」


「むらさきいろの……ばら」


「あっ、思い出した。あのきれいな花だよな?えーと、あれは何の薬なのか分からんけど、

一か月前、あの商人が材料と説明書を持ってきてさ。俺たちは説明書通り作ったけど、ほとんど失敗した。

一本の小さな瓶だけ作れたけど、あの怪しい商人が持っていったよ」


あの回復薬は、材料は少ないけど、煮たり煎じたりしなければならない。


手順が面倒で、植物や調薬の知識がない人には簡単には作れない。


一本だけ作れたのも奇跡みたいなものだ。


――しかし。

「どうしてそれが成功品だとわかるの?調薬の知識もないし、試してもいないでしょう?」


「俺たちにはわからん。ただ作ったものを全部あいつに見せたら、あの一本が成功品だって言われたからさ」


「なるほど……じゃあ、あの商人には調薬の知識があるの?」


「さあね。無臭無色ならいいんだって言っていた。植物の知識はなさそうだけど」


「なるほど……」


つまり、あの回復薬じゃない可能性もあるのね。



ちょっとホッとした。


あの回復薬はいいものだけれど、放っておくと危険だ。


でも、私が対処できるから、誰が服用したか分かっていれば大丈夫。


「あっ、俺も思い出した。透明な液体のやつだ。無臭無色で、何の薬か全くわからん」


「そうなの?何に使うか言ってた?」


「いや、全然。一本しか作れないのかって俺たちに怒鳴って、その一本を持って行った」


「もっと作れって言ってたけど、何度やっても成功品は出なかったよ」


「そうなのね。わかった。ありがとう」


七人は本当に何も知らなさそう。あの一本の回復薬は一体どこにあるのやら。


私はジルさんたちに頷き、ジルさんはそのまま取り調べを続けた。


しばらくして取り調べは終了した。





「リーマ、あの回復薬はどうしたのか?」


カイテルさんが尋ねた。


騎士たちが七人を会議室から勾留場に連れていった。


会議室にはジルさん、カイテルさん、アレックスさん、ザインさんと私が残っている。


「あの回復薬はとてもいいものなんですけど、使う前にしっかり事前準備しておかないと、逆に危険なんです。誰の手にも渡っていなければいいんですが……」


「そうなのか?でも回復薬だから、害はなさそうだな。一応、アーロン大臣に報告しておくよ」


ジルさんは特に気にしない様子だった。


「そうですね。何のためにあの七人に作らせたのかはわかりませんが……。おそらく、たぶん、大丈夫です。すぐに死なせるようなものじゃないですし……」


「回復薬のことはあの男から聞き出すから、心配しないで。屋敷に送るね。これから勉強するだろう?」


カイテルさんは優しい笑みを浮かべ、私を安心させてくれる。


「は――」


「俺も一緒にリーマちゃんを送るね〜。心配しないでね〜」


「私も送るね〜。リーマちゃんは安心して勉強してね〜。なんなら私も一緒に勉強しようか?」


私はまだ返事を終えていないうちに、アレックスさんとザインさんに遮られてしまった。


「アレックス、ザイン。おまえら、そろそろ諦めろ。どうせ一生叶わない。俺が絶対におまえらに渡さねぇから」


カイテルさんがジロリと二人を睨む。


「はぁぁぁぁッ!?おまえ何様だ?叶うかどうかまだわからんだろうが!そもそも決めるのはおまえじゃねぇ!」


「そうだそうだ!決めるのはおまえじゃねぇよ!俺が絶対におまえなんかに負けねぇ!」


アレックスさんもザインさんも、カイテルさんを睨み返す。



私はジルさんに近づき、袖口をちょんちょんと引っ張って小声で聞いた。



「じ、ジルさん……どうしてカイテルさんとアレックスさん、ザインさんが急に喧嘩してるんですか?

やっぱり元々仲が悪いんですか?」


カレル森で一緒に捜査したときから、そんな雰囲気だったもんね。




「ははははっ!」



ジルさんは突然爆笑し始めた。


「いやいや、別に仲悪くないよ〜。むしろ仲良いよ〜。最近はあいつらの狙い者が同じ者になっちゃっただけだよ〜」


「なるほど……その狙い物って何ですか?喧嘩させちゃうぐらい、そんなにすごい物なんですか?見てみたいです。どんなものなんですか?」



私は言いながら、カイテルさんとアレックスさん、ザインさんを温かい目で見守る。



お三方とも、頑張ってくださいね。




「はははははははっ!」



ジルさんは何も答えず、長机をぱんぱんぱんと叩きながら爆笑し続ける。



どうしたの、いきなり?



麻薬でも吸っちゃったのかしら?





取り調べが終わったその夜。


お父様が小さな麻袋を私に渡した。


受け取った瞬間、どこかで触ったことのあるような感触がする。


不思議に思って、そっと振ってみると――



『ちゃりん〜』



という聞いたことがあるような、ないような音がした。


中身を確認したら、数枚の硬貨が入っていた。


「……お金……?どうしたのですか?」


思わず首を傾げる。


今から買い物でも頼まれるのだろうか。



「今回の仕事の報酬だ。受け取りなさい」


お父様は、いつもの優しい笑みを浮かべている。



「……えっ?あっ、だい、大丈夫ですよ!私はただお手伝いをしただけで……」



「仕事をしたら、報酬がもらえる。これは当たり前なことだ。慣れなさい。ただで働かせるわけにはいかないだろう?」



「えーと……でも……」



……報酬?



私にとって今回の仕事は、お父様たちへの恩返しのつもりだった。


お金をもらえるなんて、考えたこともなかった。


本当に受け取ってもいいのかな……?



今まで、メイソン家のみんなには、もらってばかりだった。


ほんの少し手伝っただけで、お金までもらうなんて……なんだか厚かましい気がする。



「リーマ、受け取って」


カイテルさんが、そっと私の手を包み、麻袋を握らせる。


「お父様の言う通りだよ。仕事をしたなら、報酬をもらうのは当然なんだ」


そう言ってから、少し楽しそうに続けた。




「じゃあさ。今度の休みに、中央街に行こうか。リーマが“初めて稼いだお金”で、買い物してみない?」



自分で稼いだお金で、買い物をする――?



……それって、なんだか。



ちょっと、カッコいいかも。



ぜひしてみたい!



……あっ、そうだ!



今度は、私はカイテルさんにお菓子を奢って、アクセサリーも買ってあげよう!



今までもらったばかりだしね!



麻袋の中をそっと確認すると、ざっと三百セルくらい入っている。



どこまでカイテルさんに奢れるかわからないけど、そうしよう!




「は、はい!行きます!自分で稼いだお金で、買い物してみたいです!」



「ふふっ、了解〜」




カイテルさんは相変わらず優しい笑みを浮かべて、私の頭を、そっと撫でてくれた。


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