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記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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名推理、してしまいました。

最近の王宮は、初めて来たときより、なぜかずっと警備が厳しかった。



以前、麻薬団員の毒盛りの件で来たときは、王宮に入る時だけ身元を聞かれる程度だったのに。


でもここ最近は、王宮に入る前に必ず鞄の中身まで確認される。


お父様のいる国防省に入る時も同じで、身元確認と持ち物検査が当たり前になっていた。




不思議に思って、


「最近、ずいぶん厳しいですね。何かあったんですか?」



と、以前カイテルさんに聞いたことがある。


すると、


「うーん、まあ……ちょっとね……」


と、曖昧な返事が返ってきた。




――あ、これは深く知らないほうがいいやつだ。



そう察して、それ以上は聞かないようにした。



知らないほうが、自分の身のため。





「今日もありがとうな。昨日、ほとんど寝てなかったんだろう。早く帰って休むようにしなさい」


私は、いつも通り今日の七人の状況をお父様に報告する。


普段なら、帰る前に少しだけお父様やウィリアムズさんとお話をするのだけれど、

今日はお父様がやけに私を早く下がらせようとした。


きっと、リアの出産に立ち会って、私があまり寝ていなかったことを知っているのだと思う。



……とはいえ、寝ていなかったのは昨日だけなんだけど。



むしろ、お父様のほうが、麻薬事件のせいでほとんど毎日まともに眠れていないはずだ。


お偉方さんって、本当に大変。


そして、その右腕のウィリアムズさんも、きっと同じ。


初めて会った頃より、ずいぶん疲れて見える。




(今日も、疲労回復のハーブティーを用意しよう)



本当は、とっておきの回復薬を調薬して飲んでもらいたい。


でも、裏庭に植えた材料は、まだ十分に育っていない。


(もし私が土の魔法を持っていたらな……)


パパっと成長させられたのに。


魔力皆無なのが、非常に残念だ。



「今日は少し休みをもらいましたから、私は平気です。それより、お父様のほうが顔色が悪い気がしますが……」


「あぁ、麻薬事件だ。また面倒なことが起きてな」


「そう、なんですね……」


その"面倒なこと"が、何なのか。


ものすごく気になる。


でも、聞けない。


これ以上お父様の邪魔をするのはよくない。


そろそろ、大人しく失礼しよう。




『コンコン』


「アーロン大臣、エミール副団長がお見えです」


お父様の秘書のシモーンさんが、そう報告した。


「通せ」


「失礼いたします。アーロン大臣、ルーカス・ブローカスの事件で、至急ご報告が――」


騎士団の副団長さんは、途中で私に気づいて言葉を切り、ちらりとお父様を見る。


……ん?どうした?


あらあら、もしかして?



「リーマは大丈夫だ。報告を続けよ」


やっぱりね。


部外者の私がいるから、話していいか迷ったんだね。


(……でも本当に大丈夫なんですか、お父様?なんだか、かなり大事件っぽいですけど……)



「あぁ、大噂のリーマさんですか?」


エミール副団長は、さっきまでの真剣な表情から一転した。


ニヤニヤしながらカイテルさんをちらっと見て、私に声をかけてくる。


「初めまして。騎士団本部副団長のエミールです。以後お見知り置きを」


「は、はい。よ、よろしくお願いします」



……大噂?


どんな大噂だろうか。


いい大噂だといいな。




「では、ご報告いたします」


エミール副団長は、また一瞬で表情を引き締めた。


「一昨日の朝に発見された焼死体ですが、まだはっきりとルーカス・ブローカス本人と断定はできていません。ただ、遺体の服に付いていたブローチは、間違いなくルーカスのものだそうです」



(しょう……したい?


しょう?死体?


……傷?焼?


……あ、焼・死・体ね)




誰かが焼かれて死んだ、ってこと……?


……うわっ。


さ、さすが街。


めちゃくちゃ物騒だ。



「そのブローチにはブローカス家の紋章が彫られており、一つしか存在しないものです。

ルーカスが四六時中身につけていたと、ブローカス家のメイドが証言しています」


ルーカス・ブローカス……誰だろう。


焼かれて死ぬなんて、かわいそう。



「ブローチ以外に、遺体がルーカス本人だと断定できる要素はない、ということだな?」


「はい。ただし、ルーカスの専属メイドは、その遺体がルーカスで間違いないと強く主張しています」


「なぜ、そこまで言い切れる?」


「三年間専属として仕えていたため、体格や体の傷跡を記憶しているとのことです」


「他の使用人は?」


「遺体の損傷が激しく、はっきりとは分からないが、恐らくルーカスだろう、という態度でした」


……専属メイドと、旦那様。




(ふむ?)


そういえば、恋愛小説でそんな設定、よくあった気がする。


身分違いの恋とか、密かな想いとか……。


……もしかして、その二人も?


私は、エミール副団長の真剣な報告を聞きながら、うっかりそんな妄想を始めてしまった。


「ルーカスの手は見つかったか?」




……うん?


「いいえ、まだ見つかっていません」


「腕は、おそらく適当に森などに投げ捨てられていたのでしょうね~」


ウィリアムズさんは、相変わらずのんびりした口調で言った。


こんな物騒な話の真っ只中でも、まるで世間話でもするかのように、口調が変わらない。




……えっ。


や、焼かれて死んだうえに、そのあと手まで切られたってこと?


あっ、うわ……。


それは……さすがに可哀想すぎるよ。


「そうだろうな。腕はもう期待薄だろう。犯人の目星は?」


「ブローカス家には、執事から庭師まで八人の使用人がいました。現在、七人は屋敷に残っており、取り調べを行っています」


エミール副団長は、淡々と続ける。


「ですが、庭師だけが一昨日から姿を消しています。さらに三日前、その庭師はルーカスにひどく殴られていたそうです」


……殴られて?


ふむふむ。



「ルーカスに怨みを持っていた可能性があります。そして庭師が姿を消したのは、ちょうどルーカスが殺された夜。時間的にも一致しています」


なるほど……。


「ふむ……しかし、あの男が簡単に殺されるような人ではないが……。庭師は、どんな人物だ?」


「五年前からブローカス家で働いていたそうです。最初は道具の修理や家の修理、使い走り、御者など――いわゆる何でも屋でした」


「しかし二年前、屋根の修理中に転落事故を起こし、両手を骨折。大怪我を負ったため、何でも屋の仕事ができなくなりました」



……両手を?



「その後、ちょうどルーカスが庭師を探していたため、庭師として雇われることになったそうです」



……ふむふむ。



三日前に雇い主にぶん殴られて、


怨みを募らせて、


一昨日その雇い主を焼き殺して、


しかも、その手を切り落とした……。




……ふむふむ。


じゃあ犯人、庭師確定じゃない?


私はそう思ったけれど、お父様は、どうにも納得していない様子だった。


――「あの男は、簡単に殺されるような人ではない」


さっきの言葉が、頭に引っかかる。




……どうしてだろう?


死んだ人は誰なんだろう。


気になるね。


まあ、教えてもらっても知らない人だろうから、別にいいけど。




「現在も、その庭師を探していますが、まだ見つかっていません」



ふむふむ。



つまり――現在、絶賛逃亡中、と。



私は完全に他人事のまま話を聞きながら、ふと、ある推理をひらめいた。




(……あ)


そっと手をポンと叩く―――心の中で。


この推理って……


この推理って……



すごくカッコよくない!?


えっ、なにこれ!?


名推理じゃない!?


この短時間で、こんなカッコいい名推理をひらめくなんて……もしかして私……天才?


……あ、なるほどね。


おじいちゃん、私の才能を見抜いてたんだ!


だから村から追い出し……じゃなくて、外の世界に行ってほしかったのね!?


私の才能で、世の謎を解いてほしかったのね!?


……うん、納得~。


我ながら超天才じゃんか~~。


おじいちゃんのお墨付きで~。



ふふふっ。



この名推理、あとで忘れないようにメモしておこう。




そう決めて、私はこっそり心の中で自分を賞賛しながら、再びお父様とエミール副団長の話を聞いていた。


「……リーマ、ニヤニヤしているが、どうした?」



――ビクッ。



え?




……えっ!?




わ、私、ニヤニヤしてた!?




お父様の前で!?



カイテルさんの前で!?



ウィリアムズさんの前で!?



しかも初めましてのエミール副団長の前で!?




みんな真面目な話をしているのに!?




私だけニヤニヤしてるとか最悪じゃない!?



そう気づいた瞬間、顔が一気に熱くなった。


「え、えーと……い、いいえ。何もありません……」


私は小さな声で答えて、俯いた。


今の私の顔、絶対真っ赤だ……。


恥ずか死ぬ……。



「何か思いついたのか?」


カイテルさんは、いつも通りの優しい声で聞いてくる。


でも今回は、聞かないでほしかった……。



違うの。



絶対違うの。



絶対違うから恥ずかしいのーーーっ!



しかも、お父様とウィリアムズさんと、初めましてのエミール副団長の前で……!




そう思うと、私はさらに俯いた。


「さっきの話、リーマはどう考える?」


お父様は微笑んで、温かい目で私を見る。


その優しい眼差しの裏で、私はどう映っているんだろうか。


空気を読めない田舎娘……とか?


ああ、逃げたい……。




どうして私、ニヤニヤしたの……。


調子に乗る癖、ほんと直さないと……。



「……ちょっと、面白い仮説を思いついただけで……」


「そんなに面白いのか?どんな仮説だ?」


お父様は、やっぱり優しい目をしている。


……呆れられている気もするけど。


……まあ、いいか。


仮に間違っていても、


お父様もカイテルさんも、きっと温かい目で見てくれる……はず。


たぶん。


おそらく。



就職できていないから、屋敷から追い出されないといいな……。


私は小さく息を吸って、覚悟を決めた。



「えーと……例えばですが……」



「その死んだ男は、実は――

自分が殺されたように見せかけるために、

庭師を殺して、その手を切断して、死体を焼いて……

そして、その死体に自分のブローチを付けた……とか……?」



――――――――――――――――



シーーーーーーーーーーーーーーン。



……




お父様もカイテルさんも、ウィリアムズさんも、エミール副団長も――


四人そろって硬直し、誰一人として口を開かない。


は、恥ずかしいっ!


誰かっ!


誰か反応してくださいっ!



「……ど、どういうことだ?」


しばらくの沈黙のあと、お父様がようやく言葉を探しながら口を開いた。


"何とか言わなきゃ"、という気配がすごい。



「死体が誰だったのかを隠すために、焼き殺したんだと思うんです。

でも、その庭師は二年前に手を大怪我していましたよね?

ただ焼いただけだと、あとで『これ本当に本人?』って疑われるかもしれません。

だから、誰にも気づかれないように手首も切ったんじゃないでしょうか!?」



話しているうちに、だんだん楽しくなってきてしまう。



やっぱりこの名推理、結構カッコよくない?


私、薬師より小説家のほうが向いてるかもしれない。


それとも探偵?


おじいちゃんもここにいたら、きっと喜んでくれたのにな〜、ふふふ。


「……なるほど……」


お父様は眉間に皺を寄せ、何かを考え込んでいる。



「つまり、死んだのは庭師で、実際に行方不明――というか逃げているのは、あの男のほうです!

この仮説、どうですか!?面白いと思いませんか!?

庭師が逃亡しているって聞いた瞬間、私、すぐこの名すい……仮説を思いついちゃって!」



「「「「…………」」」」



四人とも、じろりと私を見る。



「庭師を殴った事件も、計画の一部だったのかもしれませんね〜。庭師に動機があるように見せるために!つまり、計画的殺人ですっ!」




「「「「…………」」」」





……全然ウケてない。




悲しい……。




「なるほど……そういう見方もあるんだな。確かに……面白い……」



おっ。



お父様、面白いって言ってくれた!



よかった!



「あと、あの専属メイドも怪しいと思います〜。

焼死体だと、本当に自分だって誰かに証明してもらわないと困りますよね?

だから、共犯のメイドに『これはご主人様です』って言わせたんじゃないでしょうか。

利害関係者とか……?愛人とか……?」



小説だと、旦那様と美人メイドの禁断の恋、よくあるし。



つまり、その二人の関係はあり得なくもないのだ!



私はいつも通り、聞かれてもいないことをペラペラ話し続ける。



もう完全に、自分の中で盛り上がりすぎて止まらない。



「……なるほど……なるほど……」



お父様は何度も頷く。



「その男を捕まえるには、どうすればいい?」



カイテルさんが尋ねた。



「うーん……専属メイドを尾行するのはどうでしょうか?もし協力しているなら、あとでどこかで落ち合うかもしれませんし。国外とか、海の向こうとか……一緒に逃げる可能性もありそうです〜」



身分差の恋愛といえば、駆け落ちが定番だもんね〜。



「なるほど……」



カイテルさんも頷く。


お父様はエミール副団長に視線を送り、静かに頷いた。


エミール副団長も真剣な顔で頷き、執務室を出ていく。



……今の視線と頷き、どういう意味?



まさか、私の仮説、採用されちゃう?




「リーマ、ありがとう。参考になった。もう帰って休んでいいよ」



本当に参考になったかは分からないけれど、素直に帰ろう。




これ以上、お父様の大事な時間を取るわけにはいかない。




「はい、お父様。お邪魔しました。失礼します」



私は、メイドさんのお辞儀を思い出しながら真似をして、お父様に頭を下げた。



そしてカイテルさんと一緒に、執務室を後にする。




今日はホワイトウルフの赤ちゃんたちと遊んで、裏庭の植物も見て、


それから――



さっきの名推理も、お土産話リストに追加しないと。


……最近、私、意外と忙しいわね。



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