白き家族が増えた日
翌日の夜。
待ちに待った日が、ついにやってきた。リアが出産するのだ。
リアは自分の出産時期を分かっていたらしく、三日前から私の部屋では寝ず、ずっと小屋に籠っていた。
リオも王城の仕事に行かず、リアと一緒に小屋で過ごしている。
そして今日。
リアが苦しそうに唸り始め、私は照明やタオル、水など、動物の出産に必要なものを小屋に運び込んだ。
リアの近くにいて、リオと一緒に赤ちゃんが生まれるのを待つ。
「リーマ、部屋で休んだほうがいいんじゃないか?」
小屋の壁際で横になり、うとうとしていると、カイテルさんが何枚もの毛布を抱えて入ってきた。
「大丈夫ですよ。リオとリアは心細いですから、一緒にいたいんです。今日、生まれると思います」
「でも、こんなに眠そうじゃないか?」
カイテルさんは心配そうに、私の頭や頬を撫でる。
「明日、また病院に行かないといけないだろう?無理しないで。リオもリアも、リーマに無理をしてほしくないと思うよ」
「今日だけですから、平気ですよ」
安心してもらいたくて、微笑んだ。
「それに、カイテルさんこそ休んでください。カイテルさんも病院に行かないといけませんから」
「俺は絶対に、リーマを一人にさせないよ。俺も一緒にいる。ここで寝る」
「えっ?ほ、本当に平気ですよ。屋敷の中ですし、リオもいますから、私は安全です」
「それでも、俺はリーマと一緒にいたいし、心配なんだ」
「で、でも……」
部屋で寝るほうが、絶対に快適なのに。
でも、私はリアたちのそばにいたい。
どうしよう……。
悩んでいる私の手を、カイテルさんがぎゅっと握った。
「本当に大丈夫だよ。ここは野営よりずっと楽だ。俺だって、ホワイトウルフの出産を見てみたい。
一生に一度見られるかどうか、だからな」
「……本当に、大丈夫ですか……?」
「うん。今日、一緒にいよう」
いつもの優しい笑みを浮かべながら、カイテルさんは私の頭を撫で、一枚の毛布を渡してくれた。
「夜は冷えるから。ちゃんと暖かくしないと」
そう言って、もう一枚の毛布を私の肩にかける。
こうして、リアの出産には、私とカイテルさんが一緒に立ち会うことになった。
カイテルさんは私の隣、壁際に毛布を敷き、静かにその時を待つ。
――未明。
眠っていた私の耳に、リアの唸り声が届き、はっと目を覚ました。
リアは苦しそうに体に力を入れ、リオが顔やお腹を舐めて寄り添う。
そうして――赤ちゃんが、一匹、また一匹と生まれ、
全部で六匹の命が誕生した。
小さくて、真っ白なホワイトウルフ。
六匹も、この世界に生まれてきたのだ。
新しい小さな命を見て、涙がにじんでくる。
カイテルさんは急いで屋敷へ向かい、お湯を持ってきてくれた。
私は赤ちゃんの緒を切り、タオルで体を拭き、リアに牛乳を飲ませる。
今、赤ちゃんたちは母乳を飲んでいる。
「リア、お疲れさま〜。おめでとう〜。
小さくて、白くて……可愛い〜。可愛すぎる〜」
私は、そっと赤ちゃんたちを撫でた。
「ホワイトウルフの出産って、意外と普通の動物の出産と同じなんだな」
カイテルさんは、少し不思議そうな顔で赤ちゃんたちを撫でている。
「ホワイトウルフも動物ですからね〜。ふふ、赤ちゃん可愛い〜。早く抱っこしたいです」
「今日、ファビアンに連絡しておこう。あいつ、たぶん見に来ると思う」
カイテルさんは、ホワイトウルフの赤ちゃんから私へと視線を移した。
「リーマ、出発まで少し時間がある。先に休んできて」
「カイテルさんは?」
「俺も少し休むよ。夕方に戻ってきたら、また赤ちゃんたちと遊ぼう」
「わかりました。一緒にいてくれて、ありがとうございました」
私がお礼を言うと、カイテルさんは微笑んで、私の頭を撫でた。
「リオ、リア。私、行ってくるね。夕方、また遊びに来るから」
私は二匹を撫でながら言う。
「今日は、たくさん休んでね」
リアたちとお別れして、私は寝室に戻り、少しだけ身体を休めることにした。
その後、病院へ向かった。
今日からの仕事は、七人にディル薬を飲ませることだった。
みんな、叫んだり、駄々をこねたり、吐いたりして、すっかりヘロヘロになり、今はベッドで休んでいる。
その間に、私は一人ずつ体調を確認していった。
七人とも、あれほどディル薬を嫌がっていたのに――
しかし、騎士たちが、
「大人しく飲まないと、喉に突っ込んでやるぞ!」
「これ以上、リーマちゃんに仕事を増やすな!」
「俺が直接、胃袋まで入れてやるから覚悟しろ!」
と脅かすと、みんな大人しく薬を飲んでくれた。
麻薬を作っていた人たちだけれど……
根は、真面目な人たちなんだと思う……ということにした。
七人にディル薬を飲ませ終えると、急に足元がふらついた。
私は近くの椅子まで行き、腰を下ろす。
すると、リオがすぐ隣に寄ってきた。
今日も護衛としてついてきてくれている。
今朝、六匹も子どもが生まれたから、「今日は来なくていいよ」と言ったのに――
リオにも、リアにも、頑なに(ダメだ)と言われてしまった。
本当に、過保護な保護者だな。
まるで、お父ちゃんとお母ちゃんみたい。
「リーマ、今はあいつら寝ている。少し休んで。調薬の小屋で少し眠って」
昨日、ほとんど眠れていなかったせいで、頭がぼーっとしている。
椅子に座ったまま動かずにいると、カイテルさんがすぐに気付いた。
「……はい」
私は素直に頷いた。
無理をしても、今の状態では長く持たない。
いつ、どこで、眠ってしまってもおかしくない。
カイテルさんは私を調薬の小屋まで連れていき、壁際に長椅子を並べて簡易的な寝床を作った。
そのまま私を寝かせ、そっと毛布をかけてくれる。
「この長椅子……もともと、ありましたっけ……?」
うとうとしながら、ぼんやりと聞いた。
もう、目を開けているのもつらい。
私はもともと早寝早起きの体質だ。
一晩ほとんど眠らないと、体の時計がすぐに狂ってしまう。
「リーマがほとんど寝ていなかったからさ。長椅子を用意しろってアレックスたちに言ったら、あいつら、すぐ病棟から何脚か持ってきたんだよ」
カイテルさんが、私の頭を優しく撫でながら言う。
なでなでされると、気持ちがよくて、ますます意識が沈んでいく。
「あとで……おれいを……」
自分で何か言った気がするけれど、何を言ったのかはもうわからない。
もう、限界だ。頭がまったく回らない。
おでこに、柔らかい感触。
「おやすみ」
そんな声が遠くに聞こえた気がして、そこで意識が途切れた。
目が覚めると、太陽が西に傾いていた。
……えっ?
ね、寝坊した!?
なんでおじいちゃん、起こしてくれなかったのよ!?
やばい、やば――
……
……あっ、今は王都の病院の小屋だった。
びっくりしたぁ……。
また寝ぼけて変なこと言ってたら、恥ずかしいよね。
……
あれ?
お昼のディル薬と、お昼ご飯は……?
騎士たちが代わりに用意してくれたのかな……?
もしそうなら、この小屋で作っていたはずなのに……全然気付かなかった。
……私、相当爆睡してたみたい。
でも、そのおかげで頭はすっきりしている。
私は少しふらつきながら長椅子から立ち上がり、大きく背伸びをした。
私が寝ていた場所には間仕切りが張られていて、調薬場とこちらがお互いに見えないようになっていた。
……カイテルさんがやってくれたのかな。
さすがの面倒見だ。
二百万点満点。文句なし。
だって、自分のアホ面の寝顔を誰かに見られるなんて、恥ずかしすぎるもん。
長椅子の隣でリオが眠っているのに気づき、私はそっと小屋の外に出た。
カイテルさんはどこだろう。七人の小屋かな、と思ったそのとき――
小屋の前で椅子に座っているカイテルさんの姿が、すぐ目に入った。
「カイテルさん、ずっとここにいたんですか?カイテルさんも休めましたか?」
「リーマ、もう大丈夫なのか?まだ時間はあるから、もう少し寝ててもいいよ」
「ありがとうございます。もう大丈夫です。おかげで頭もすっきりしました。中で休んでもよかったのに」
そう言うと、カイテルさんは少し困ったように笑った。
「リーマが寝てる間に、あいつらが『うっかり』中に入って、リーマを見られると思うと我慢できなくてな」
……さすがカイテルさん。
私と同じ気持ちだ。
騎士たちに自分のアホ面の寝顔を見られるなんて、私だって耐えられない。恥ずかしいもん。
「ふふっ、ありがとうございます。おかげで安心して休めました」
「それならよかった。昼の薬を作ったついでに、夜の分も作っておいた。
今日は早めに帰ろう。王宮にも行かないといけないし」
「本当ですか?なんだか……すみません」
「謝らなくていい。みんな、喜んで作ってたからな」
「皆さんにお礼をしないと……」
私が気持ちよく眠っている間に、みんなが私の仕事をしてくれていたんだ。
帰る前に七人の体調を確認したけれど、特に異常はなかった。
よし。これで今日も、お父様にいい報告ができる。
私は騎士たちにお礼を言い、カイテルさんと一緒に王宮へ向かった。




