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吼えなかった理由

レオちゃんの小屋の中には、大きな檻があり、レオちゃんはその中で眠っていた。


王城の飼育場にいるライオンちゃんより、毛並みがずっとふわふわしている。


……大貴族のライオンちゃんだからかな?


「この子がレオちゃんですか?可愛い〜」


「今は寝ているから大人しいが、リーマ、気をつけてね」


「はい」



私は、眠っているレオちゃんをしばらく眺めていた。



――そのとき。



『ギャン!』



耳障りな金属音が、小屋の中に響き渡った。


驚いて振り向くと、バーバラさんが金属の棒で檻を叩いている。



「「バーバラ!」」



カイテルさんとマーティスさんが、同時に怒鳴った。



……も、もしかして。


レオちゃんが屋敷の者以外を襲うなら、バーバラさんは、私を襲わせようとして……?


……いやいやいや。考えすぎだよね。


だって私は、何もしてないもん……。


それとも、本当に嫌われてるの?


初対面で、こんなに嫌われるなんて……。


村を出てから、初めての経験ばかりだ。




レオちゃんが、金属音で目を覚ました。


いきなり起こされて、かなりご機嫌斜めらしい。



『ぐるうううう……』(ウルさいッ!)



低く唸り、小屋の中の人間を睨む。


――でも。


私と目が合った瞬間、その表情がすっと消えた。


「レオちゃんだよね?こんばんは。こっち来て〜」


私は、そっと手を差し出す。


レオちゃんは近づいてきて、私の手の匂いを嗅ぎ……



『チュッ』とキスをした。



「……!」



「レオちゃん、すごく可愛い!毛もふわふわ〜」



レオちゃんは、照れたようにしっぽを揺らす。


「リーマ嬢、すごいです!私たちでも、こんなに懐かないのに!」


ナディアさんが目を輝かせる。


「まあ、ブラックベアもホワイトウルフも、ドラゴンも手懐けた君だ。ライオンくらい驚かないか」


「……ほ、ホワイトウルフ?ブラックベア……?」


バーバラさんが、かすれた声で呟く。


「そうだ」


カイテルさんが、はっきり言った。


「リーマは、ブラックベアもホワイトウルフも友達にした。

ライオンなんて大したことじゃない」


「すごい……」


ナディアさんが胸の前で手を組み、きらきらした目で私を見る。


「マーティスさん、レオちゃん、檻から出たがってますけど……」



(ココ、ツマラナイ)



レオちゃんが、はっきり訴えてくる。


「危ないから、出せないんだ」


「レオちゃん、人を襲うの?」


(シナイ!)


首をぶんぶん振る。


「……襲わないみたいですよ」


「はぁ……」


マーティスさんは深くため息をついた。


「君が近くにいるなら、まあいいだろう。ちゃんと見ていろよ」


鍵が外され、レオちゃんが檻から出る。


私に近づき、ぺろっと顔を舐めた。


(アリガトウ)


「レオちゃん、人を襲ったことある?」


目を逸らす。


「ふふっ、あるんだね。もうダメだよ?」


(ゴメン)


「もう襲わない?」


(シナイ!)


「約束してくれる?」


(ヤクソク!)


「ほら、こんなに真面目な顔です。大丈夫ですよ」


「……真面目?」


バーバラさんとナディアさんが首を傾げる。


「外に出してもいいですか?」


「……君は離れるなよ」


「はい!」


レオちゃんは、勢いよく外へ飛び出した。


庭を走り回るその姿は、心底楽しそうだった。


「ずっと檻の中だから、相当ストレス溜まってたと思います、マーティスさん」


「……君が言うなら、考えよう」


レオちゃんが庭を走り回るのを、私たちは少し離れたところから眺めていた。


大きな体で駆け回るたび、ふわふわの毛が揺れて、とても楽しそうだ。




――そのとき。



ガンッ!



金属がぶつかる、鈍くて硬い音が響いた。


反射的に肩が跳ねる。


音のした方を見ると、警備兵が手にしていた槍を誤って地面に落としたらしい。


次の瞬間だった。


『ぐる……っ』


低く、喉の奥から響く唸り声。


さっきまで楽しそうにしていたレオちゃんが、ぴたりと動きを止めていた。


身体が強張り、金色の瞳が鋭く細められる。


「……レオちゃん?」


私が呼ぶと、レオちゃんは私に振り向く。


けれどその視線は、さっきまでの甘えたものとは違っていた。



――まずいかも。


私は直感的にそう感じた。


レオちゃんが、一歩、前に出る。警備兵へ。


大きな前足が地面を踏みしめ、爪が土を抉った。


「レオ!戻れ!」


マーティスさんの鋭い声が飛ぶ。


周囲の空気が、一気に張り詰める。


警備兵が身構え、息を呑むのが伝わってくる。


槍を拾おうと、ゆっくり身を低くする。


――それが、レオちゃんを刺激してしまう。


唸り声が、さらに低く、強くなる。


――人を襲わない。


さっき、約束してくれた。


でも今のレオちゃんは、約束と本能の間で揺れている。


私は、考えるより先に体が動いていた。


「レオちゃん」


できるだけ、優しく。


できるだけ、まっすぐ。


私はレオちゃんに近づく。


「大丈夫だよ。私は、ここにいるよ」


「リーマ!」


カイテルさんの声が、少しだけ焦りを帯びる。


それでも私は、歩みを止めなかった。


「約束、覚えてる?」


レオちゃんの瞳が、わずかに揺れた。


『……』


唸り声が、ほんの少し弱まる。


「人を襲わないって、言ってくれたよね」


私はそっと、手を伸ばす。


触れるか触れないか、その距離で止める。


「守ってくれようとしたんだよね。でも――大丈夫だよ」


しばらくの沈黙。


レオちゃんの体が、小さく震えた。




そして――



どすん、と。


大きな体が地面に伏せられた。


牙は引っ込み、唸り声も消える。


代わりに聞こえたのは、悔しそうな、低い喉鳴りだった。


『……ウゥ』


「……ありがとう、レオちゃん」


私は、レオちゃんの傍に腰を下ろした。


そして、レオちゃんの頭を撫でる。


レオちゃんは、少しだけ顔を背ける。


(……ゴメンネ)


と深く反省した。




周囲から、ほっとしたような息が一斉に漏れる。


「……未遂、か」


マーティスさんが、小さく呟いた。


「だが……約束を破らなかったな」




レオちゃんは、伏せたまま動かない。


まるで、自分を叱っているみたいに。


「レオちゃん、えらいよ」


私は、優しく撫でながら言った。


「約束を守ってくれて、ありがとうね」


レオちゃんの尻尾が、ほんの少しだけ動いた。





誰かが私の頭を撫でる。


見上げると、カイテルさんだった。


「リーマもえらいよ」


といつもの優しい顔で、静かに褒めてくれた。



レオちゃんを庭に残し、私たちは屋敷へ戻ることになった。


歩くうちに、さっきまでの緊張が、ほどけていく。


「そういえば、ドラゴンちゃんってそんなに簡単に飼える動物ですか?」


私は首を傾げた。


「貴重な動物だっておじいちゃんから聞いたことがありますけど?」


「その通りだ。簡単に手に入らない」


マーティスさんは得意げに話す。


「まあ、どうして俺たちがドラゴンを持っているのかというと……」


「あぁぁ、はいはいはいはい」


今のマーティスさんの顔を見て、理由ははっきり分かった。


「お貴族様だからですよね。わかっていますよ。もう言わなくてもいいです」


「……やはり君は生意気だよな」


「私が村を出たら、貴族の屋敷に住んでいるなんてね。

おじいちゃんに話したら、仰天されちゃうんでしょうね。

森でお兄さんたちに会わなかったら、私は今どんな生活していたでしょうね?」



どんな生活をしていたのか、かなり興味ある。



「ふふふっ。リーマなら、今も森暮らししているんじゃないかな」



カイテルさんが小さく笑った。



「……確かに。それしか思いつきませんね」



「はははっ」



カイテルさんがまた笑った。


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