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【6万PV 感謝感謝!】記憶を失くした少女は、それでも生きていく。  作者: あまね


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知らぬ間に、情けは心に灯る

「リーマちゃん、後で私とお庭でお散歩しましょう。私はここに住んでいないから、たくさんリーマちゃんと話しておきたいわ」


動物と仕事の話が一段落すると、ジョアンナお姉様がお庭の散歩に誘ってくれた。

いつも優しいカイテルさんのお姉さんだし、私はジョアンナお姉様と仲良くなりたい。


「はい!」

「じゃ俺も……」

「女性同士だから、あなたはここにいなさい」


カイテルさんが何か言い終わる前に、ジョアンナお姉様はびしっとカイテルさんの言葉を遮った。

カイテルさんはすぐ黙った。


一言でカイテルさんを黙らせるとは……

さすがお姉様という存在だ。




食事が終わると、みんなが居間へ移動していく中、ジョアンナお姉様は私の腕を自然に組み、そのまま庭へ連れて行ってくれた。

「リーマちゃんは辺境村に三年前から住んでいたと聞いたけれど、本当なの?」

一階の廊下を、二人でゆっくり歩きながら庭へ向かう。

「はい、そうです」

「じゃあ、その前のことはどこに住んでいたの?」

「えーと、私も知らないです……実は私にはその前の記憶がなくて……」


私は俯きながら答えた。

大貴族が、背景も分からない居候をどう思うのか……わからない。


「まあ、そうなのね……。ごめんね、嫌なことを聞いてしまって……」


ジョアンナお姉様は眉を下げ、泣きそうな顔で私の頭を何度も撫でてくれる。

どうやらそんな心配は不要みたいだ。


「私は全然大丈夫ですよ。村の生活は、とても楽しいし、幸せですから」

「ふふっ、そうなのね。それならよかったわ。

それで……いつから動物と仲良くなれるって分かっていたの?

さっき話を聞いていてすごく羨ましいわよ」


私はジョアンナお姉様に、初めて鳥ちゃんと仲良くなった日のことを話した。


「最初は鳥ちゃんでした。あの日、私の肩にとまって……薬草をくれたんです」

「なるほど。薬草をくれたのね。可愛いわ」


ジョアンナお姉様は、くすっと笑いながら相槌を打った。

言葉も仕草もとても上品で、つい見とれてしまう。

そんなお姉様の隣にいると、私は少し緊張してしまった。


田舎育ちの自分の仕草が、失礼に思われないか心配になる。

それから私は、村でのことをいろいろお姉様に話した。

ジョアンナお姉様は目を見開き、楽しそうに話を聞いてくれた。


「そうなのね〜。まったく想像できないわ」

「でも、羨ましい〜」


そんなふうに、嬉しそうに相槌を打ってくれた。

今度は、私が質問をする番だった。


人はどうやったら結婚できるのか、知りたかったのだ。


ジョアンナお姉様の場合は、十七歳の時に社交界でアラートン・レヴィン伯爵に出会い、一目惚れしたという。

その後、何度か社交界で顔を合わせ、お姉様がさりげなく距離を縮めていき……気づけば、結婚していたらしい。

お姉様には、息子さんが二人いる。

五歳のドミニク君と、三歳のドナルド君。

私が子どもに会ったことがないと言うと、「今度、連れてくるわね」と約束してくれた。


そして私は思った。

平民はどこに行けば、結婚相手に出会えるんだろう、と。


おじいちゃんが言っていた「孫を抱きたい」という言葉を思い出して、胸がちくりとした。

……じゃあ私は、結婚して子どもを産まないといけないのかな。

平民の出会いの場はどこだ?


考えが、ぐるぐる回る。


ジョアンナお姉様のおかげで、私は社交界がどんなものか少し知ることができた。


たくさんの貴族がお茶や食事を一緒にしたり、ダンスをしたり、いろいろ話したり、情報を収集・交換する場らしい。

どんな情報を交換するのかは知らない。

でも平民の私にはまったく関係ない世界だから、気にしなくてもいいと思う。


「このドレスはリーマちゃんにとても似合うわね。というより、リーマちゃんはどのドレスでも似合いそうだわ」

「ありがとうございます。これはお姉様のドレスですか?」


私たちは庭を歩きながら話した。

王都の夜の空気は思いのほか涼しかった。

空に星が顔を出している。


「えぇ、結婚前に着ていたものよ。レヴィン家の屋敷に引っ越ししたときに、ここに置いていったの。たくさんあるから、よかったら全部もらってちょうだい」

「こんなきれいなもの……もらっていいんですか?

それにここに泊まらせてもらったうえにドレスまで……

私はもらってばかりで……」

「気にしないで〜。むしろ、リーマちゃんがここに来てくれて嬉しいのよ」


優しい声だった。

私と腕を組んだジョアンナお姉様の腕も柔らかくて、心地がいい。


「……そうなんですか?」

「ええ。本当よ。お父様も、お母様も、カイテルも、みんなリーマちゃんに会えてとても嬉しいのよ」

「……そう言ってもらえると嬉しいです」

「もしドレスが好みじゃなかったら、無理にもらわなくてもいいわ。古いものばかりだし……

後でカイテルに新しいのを買ってもらえばいいから」


「……い、いいえ、お姉様のドレスをお借りします。全部新品みたいにきれいですから」

「あげるわよ。足りなかったらカイテルに言えばいいからね」

「私は四、五着くらいあれば十分です。それに、お金もないので、連れて行ってもらっても何も買えません」


「ふふっ、四、五着じゃ全然足りないわよ。それにカイテルはリーマちゃんにお金を払わせないから、安心して」

「それなら、なおさら買えません。初めて会ったときからカイテルさんからもらってばかりで……

私は何もしてあげられないし、返せません……

カイテルさんがずっと優しくしてくれるんです」


「じゃあ、リーマちゃんはカイテルに幸せになってほしい?」

「はい!もちろんです!いつも優しくしてくれるカイテルさんが幸せなら、私も幸せです」

「ふふっ、そうなのね~。じゃあ、リーマちゃんがずっとここにいてくれるだけで、カイテルは幸せよ」


ジョアンナお姉様はそう言って、私の頭を優しく撫でた。


「だから、“もらってばかり”、なんて考えなくてもいいの。

欲しいものがあればカイテルに言ってね。

あの男、喜ぶから」


ジョアンナお嬢様は意味ありげに笑った。


「赤の他人の私に優しすぎます……どうしてですか?」

「みんなリーマちゃんのことが好きだからよ。本当に会えて嬉しいわ。特にカイテルはね」

お姉様が優しい手つきで、私の手をギュッと握りしめた。

「リーマちゃんは、私たちの家族みたいな存在だからね」


その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


でも――

どうして、今日会ったばかりの私を、こんなにも大切にしてくれるんだろう。

今日会ったばかりなのに。

不思議で、少しだけ怖くて、それ以上に、嬉しかった。




そんなふうに話していたとき。


「きゃあっ!」

ジョアンナお姉様は悲鳴をあげた。

「ちょ、ちょっと!フクロウちゃん。落ち着いて!」


一匹のフクロウちゃんは私のほうへ飛んできた。

そのとき、ジョアンナお姉様の頭にぶつかったのだ。


「お姉様、大丈夫ですか!?」

私はフクロウちゃんの興奮を止めるように抱きしめながら、ジョアンナお姉様に尋ねた。


「だ、大丈夫よ」

ジョアンナお姉様は目を見開いて、フクロウちゃんを見つめた。


「ご、ごめんなさい……この子、わざとじゃないんです」


私はフクロウちゃんの頭を撫でながら言った。

フクロウちゃんは話しかけるようにずっと鳴いている。


(……ゴメンナサイ)

(ウレシくて……)


いい子だな。


「どうしてフクロウがいきなり?」

「……私を見たから……それで、挨拶に来てくれたみたいです……」

「リーマちゃんに……挨拶?」


ジョアンナお姉様は少し首を傾げた。


「まあ。さすがだわ」


ジョアンナお姉様はおずおずとフクロウちゃんの頭を撫でた。


「まあ、いい子なのね。フクロウってこんなに大人しいのね」

そしてふっと微笑んだ。


「みんなのところにこの子を連れて行こうかしら」



こうして私たちは、フクロウちゃんを連れて屋敷へ戻った。


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