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1ー5.自称天使とお嬢様

村長との話し合いが終わり、セスとネリアは再び屋敷のエントランスへ戻ってきた。


「ねぇ、セス。これから村の教会に行ってみない? 実は私、パパから届け物を頼まれてて。ここの神父様、昔は火の国の教会に居たんだって」


「へぇ。先生の知り合いなら、俺もどんな人か気になるな。酒場に行くには早いし、付き合うよ」


「うんっ♪ あ、でも道がわかんないよね。まずは地図……地図……」


「教会なら目立つからいらないだろ。さっさと行くぞ」


もたもたと鞄から地図を出そうとするネリアを置いて、さっさと外へ出ようとするセス。そのとき……


「アルティメットエンジェルキィーーック‼︎‼︎」


「ぅおわっ⁉︎」


シュッターーン‼︎


突如、吹き抜けからセス目掛けて飛び降りてきた人影。

掛け声に反応して数歩後退したセスは、辛うじてその直撃を免れた。


「フッ……ギリギリ躱したか。まあ及第点ということにしてやろう。勿論、ボクが絶妙に手加減してやったおかげだがな。人間よ、今日も最高にカッコいい天使であるこのボク、アリス様に感謝するがいい! ハーーハッハッハッハーー‼︎」


両拳を腰に当てて高笑いをするのは、水色のワンピースに白いフリルエプロンを着たメイドのアリス。

さっき派手に翻ったスカートの内部は無駄に高密度なフリルに埋めつくされていて、残念ながら白タイツより内にある布の情報は得られない仕様である。


そのイカれた言動に反して、容姿は正に天使のような奇跡的超絶美少女。

セスの人生史上出会った中で、もっともやべー奴であると同時に、もっとも美しい少女でもあった。


眩く光る長い金髪を両耳の下で束ね、そこからグルグルに巻いた縦ロールの髪束を更に前後に分けているので、前後左右4ロール。ゴージャスなクアトロドリルヘアー。

頭のてっぺんには、ピョンと伸びた長い耳のような、大きなリボンを揺らしている。


そしてその本当の耳は、純白の翼のような見た目をしていた。


「半獣人……⁇」


「フン。まあボクのこの圧倒的な身体能力を説明するのに、その誤った認識が都合のいいときもあるのは認めよう。だが正しくはボクは天使だ。それこそが正しい認識だ。まあ心の広いボクは、下々に合わせてやるけどな。喜べ、人間であるセスとネリア。天使であるこのボクを『アリス様』と呼ばせてやろう! ハーーハッハッハッハーー‼︎」


再び高笑いを始めたアリスを、セスは興味深く観察した。


魔獣、つまりは動物系魔物の血が混ざっている人間たちを、その特質や割合で区別しない場合、広く『半獣人』と呼ぶ。


その多くは非常に高い身体能力と繊細すぎる感覚を持ち、普通の人間たちの生活には馴染みにくいとされている。

故に、魔物の出る区間を担当する配達人や、強い力と危機察知能力がいる鉱夫など、街の外で働く者が多い。

そもそもの個体数も少ないため、都会で見かける機会はほぼ無い。


「おい、人間。お前たちはこれから教会へ行くのだろう? ボクはな、思慮深いお嬢から、よそ者のお前たちを案内してやるようにと仰せつかったのだ。お嬢のお心遣いに感謝し、ボクに案内されるがいい!」


「お嬢⁇……村長の娘さんってことか?」


「いいや、クリソベリルの娘ではない。クリソベリルの取引相手の親戚で、この屋敷で療養中なのだ」


「クリソベリル……って、村長かつ屋敷の主だろ。メイドが呼び捨てにしていいのか?」


セスが眉をひそめると、アリスも眉をひそめる。


「いいに決まっているだろう。ボクは天使なんだぞ。クリソベリルに仕えているわけではない。下らないことを聞くな」


「じゃあ、なんでここでメイドなんてやってるんだ? 天使がすることじゃないだろ」


「ボクは天使だが、教会にいらっしゃる御方とは違って、天命を受けていないんだ。天使だが無職。強いて言うなら『常に自由であれ』というのがボクの天命だったのか。それならボクは自ら仕えるべきボクの神を選んでも、それもまた自由だからな。ボクは自分の主を選ぶことにした」


どうやらアリスの設定には拘りがあるらしい。それならもう天使を自称させておこうとセスは諦めた。


「で、その主は?」


「天命も寿命も無いボクの今の主は、サーシャお嬢様だ」


そう言いながらアリスは階段の上を見た。

セスとネリアがその視線を追うと、ヌイグルミを抱いた小柄な少女が3人をじっと見下ろしている。


服装自体は田舎のお嬢様らしい清楚なパフスリーブワンピースだが、ふわふわの青いウェーブ髪の後ろについた特大リボンが目を引く。

前髪を短くカットしているので、ぱっちりとした丸いツリ目がよく見える。

大切そうに腕に抱かれたヌイグルミは、フリルに埋もれるようなドレスを着ている。


「あちらがサーシャお嬢様だ! お前たち、くれぐれも失礼のないようにな!」


アリスがそう言うと、サーシャは片手でしっかりとヌイグルミを抱いたまま、もう片方の手でスカートの裾を軽くつまみながら片足を引いて挨拶の動作をした。


「…………」


「どうも、サーシャお嬢様。魔脈管理士のセスです……」


無言無表情のサーシャの目力に困惑しながら、セスは頭を下げた。

その横でネリアが「あっ!」と小さく手を打つ。


「サーシャちゃんって、あのサーシャちゃん⁉︎ 私、ネリア! わかる⁇」


「……」


ネリアが興奮気味に尋ねると、サーシャは無言のままコクリと頷く。


「ん? ネリア、知り合いなのか?」


「うんっ。遠縁の親戚で、小さい頃にちょっと顔を合わせたことがある程度だけどね。私と同い年のはずだよ。懐かし〜!」


「へぇ……」


セスは内心2人の発育差に驚きながら、サーシャをじっくり観察しようとした。

ところが、そんなセスの視線から逃げるように、サーシャはそろ〜っと奥へ引っ込んでしまう。


「あ……」


「無礼者め‼︎」


バシィッ‼︎


「いでっ⁉︎」


サーシャが去った直後、セスの尻をアリスの回し蹴りが襲った。


「何すんだよ⁉︎」


「見過ぎだ! お嬢はとても繊細なのだ。あんな卑しい視線に晒されて、耐えられるものか!」


「そうだよセス。隙あらば可愛い女の子をイヤらしい目で見ようとする、セスが悪いんだよっ」


アリスだけでなくネリアからも難癖をつけられてしまうセス。

まあ実のところ、ムッツリではあるが。


「今のはそういうつもりじゃなかったっての!」


「うるさい人間め! 表へ出ろ‼︎」


「1番うるさいのアリスだろ……」



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