1ー4.ワタシが村長ですにゃ
セスとネリアはピアに連れられて村の広場へとやって来た。
ここへ来るまでの道は舗装されていない地面が続いているだけだったが、広場には黄色のレンガが平たく敷き詰めてある。
南側は露店が並ぶ市場。北側にはこんな田舎には不釣り合いな豪邸が建っている。
ピアはその前で立ち止まると、セスたちへ振り返った。
「こちらが村長さんのお屋敷です」
白くて高い柵に囲まれた区画。玄関ポーチへと続く小道はよく手入れされた植物たちに彩られていて、わずかの距離なのについ歩みを遅くしてしまう。
重厚な両開き扉に取り付けられているのは、金と緑のオッドアイで三角耳の獣を象ったドアノッカー。
ピアがそれをコンコンと鳴らすと、すぐにメイドが3人を邸内へと迎え入れた。
白と黄緑を基調とした爽やかで開放感のあるエントランスホールには、採光窓から降り注ぐ陽が色ガラスの模様を床に伸ばしている。
実に美しい屋敷だ。
ネリアはのんびりと内装を眺めていたが、セスは内心緊張していた。
かつて大陸中を旅する探検家だった村長は、自身で発見した魔石鉱をあちこちに所有しており、その収入でこの村を作ったという噂だ。
どのような人物なのだろうかとセスが思いを巡らせていると、奥の扉がパッと開く。
チリリン♪
「どーも、どーもですにゃ!」
「「⁉︎⁉︎⁉︎」」
部屋から現れた者の姿に、セスだけでなくネリアもギョッとした。
チリンチリンと鈴の音をさせながら、『それ』はピョコピョコした足取りで2人の前までやって来ると、ペコリと一礼する。
「にゃにゃ。ワタシが村長のクリソベリルですにゃ。この度は遠いところからお越しいただき感謝、感謝ですにゃ♪ ピアさんも案内ありがとにゃ~」
「お役に立てて光栄です、村長さん」
それは、とても村長とは信じられないような奇天烈な出で立ちだった。
左右に大きな三角の獣耳がデザインされた、パッチワークの着ぐるみ風ローブ。
子供の落書きのような顔が描かれた、大きな仮面。素肌露出面積0の完全防備。
見た目だけでなく独特な訛りで話す声からも、性別や年齢がよくわからない。
それでもピアから村長と呼ばれているのだから、本当に村長なのだろう。
セスとネリアはそう納得することにした。
「……どうも。火の国から派遣されて来ました、公認魔脈管理士のセスです」
「同じく、火の国公認魔脈管理士のネリアです」
「火の国公認みゃみゃく管理士しゃんっ……やっぱり言いにくいですにゃー。にゃ、とにかくよろしく、よろしくですにゃ〜」
大歓迎モードで握手を求める村長に、セスは困惑しながらも手を差し出した。
長い袖に隠れて見えない村長の大きな両手が、セスの手を挟んでブンブンと上下に振る。
ゴトリ……
突然、村長の袖から何かが床に落ちた。
人の手だ。
「「‼︎⁇‼︎⁇‼︎⁇」」
声にならない悲鳴をあげて凍りつくセスとネリアの前で、村長はサッとしゃがんで落とした手を回収する。
「にゃっ。これは義手ですにゃっ。むか~し旅をしていた頃、いろいろあったのですにゃ~。ビックリさせて申し訳にゃいっ……ええと、2人とも滞在手続きをしに来たのでしたにゃ。先にお家に行ってきたのですにゃ? 気に入ってもらえましたかにゃー?」
「村長さん、実は……」
ピアは事情を説明した。
***
提案はあっさりと了承され、ネリアはピアの家に居候することが決まった。
「わたしは先に帰って、ネリアさんのお部屋とお夕飯の準備をしておきますね。何かリクエストはありますか?」
「ありがとうございます♪ 私はアレルギーとか無いんで、ピアさんにお任せしますね♪ えへへ、楽しみだなぁ〜」
「ふふふ、賑やかそうでわたしも楽しみです。よろしければセスさんもわたしの家で食べませんか?」
「ありがとうございます。でも俺は、情報収集も兼ねて村の酒場に行くつもりなので……また今度誘ってもらえると嬉しいです」
「ええ、きっとまたお誘いしますね。それでは、わたしはこれで失礼します」
「またいつでも来てにゃ〜」
ピアは村長へ一礼すると、一足先に退室した。
***
「滞在中の身分証明書はこちらになりますにゃ~。村の公共施設をご利用の際に提示してくださいにゃ〜」
「はい、ありがとうございますにゃ~」
手続き中にすっかり打ち解けたネリアに、村長の語尾が感染している。
緊張感の無い相棒に呆れながら、セスは「俺がしっかりせねば!」と自身に言い聞かせた。
「では、村の現状について詳しくお聞きしたいと思います。事前に拝見した資料からは時間も経っていることですし、やはり資料だけでは伝わらないことも多いので」
「はいですにゃ。幸い、村に住む若い学者さんや、双子のエルフさんたちのおかげで、大気中や地表近くを観察記録した魔力分布図は最近のもありますにゃ。ただ、地中深くを探るのは難しく、村の外は魔物も出ますからにゃ。魔脈図は曖昧な古いものしか無いのですにゃ~」
そう言って資料を広げる村長を見ながら、セスは首を傾げる。
「この村の財源は、かつて探検家だった村長さん自身が各地で発見した魔石鉱だと聞いています。偶然ではなく複数の魔石鉱を探し当てているということは、村長さん、あなたは国家資格をお取りにならなかっただけで、魔脈を読むこと自体はお得意なはずでは?」
「にゃ。確かに昔はそうでしたにゃ。でも……旅の途中で大怪我をして以来、魔脈のことがわからなくなってしまったのですにゃ……大好きだった探検も、すっかり怖くにゃって……」
村長は俯いて、両手で仮面を押さえた。その肩が震えている。
「辛いことを思い出させてしまい、すみませんでした……」
セスもネリアも、きっと村長の顔には酷い傷が残っているのだろうと思った。
義手のことを含めて考えても、村長の素性を隠す異常な格好や独特の喋り方について、もう何も追求しようとは思えなかった。




