プロローグ
人生初の小説です!
いたらないところだらけではございますが、読んでいただけたら嬉しいです(^-^)
ご意見ご感想お待ちしております。
―20XX年ー
アフガニスタン東南部 シャヒコト溪谷
切立った断崖が並ぶ険しい山岳地帯、やがて夜の終わりを告げるように山岳の間から朝日が昇ろうとしていた。
その険しい溪谷を徒歩で移動する4人の男達がいた。
男達の顔は日に焼け、口元は無精髭が蓄えられている。
重い背嚢を担ぎ、手には小銃が握られていた。
彼等の瞳は鷹の眼のように鋭く、戦闘服の袖から覗く腕は太く引き締まっている。
その鍛え上げられた肉体は身につけた重い装備をもろともせず、険しく岩だらけの斜面を悠々と歩くことができる。
彼らは兵士だ。
だが、只の兵士ではない。
米国海軍特殊作戦部隊ネイビー・シールズ(Navy SEALs)
彼らは米国海軍、米国沿岸警備隊の中から募い厳しい選抜試験をクリアし、選ばれた精鋭中の精鋭である。
SEALsとは、SEA(海)、AIR(空)、LAND(陸)と、陸海空の頭文字から構成されており、
その名の通り、陸海空と戦場を選ばない。
その主な任務は敵支配地域に潜入し、偵察、監視、不正規戦(破壊工作、空爆誘導)などの特殊任務を行い、時には味方部隊の先導や後方支援なども行う。
誰よりも先に誰よりも危険な場所に、そして誰よりも優れた技術と戦術、あらゆる武器や兵器を駆使して任務を遂行する彼らはまさにヒーローである。
しかし、彼らは自分達をヒーローと思うことはない。
現実は漫画や映画に出てくる英雄的な活躍をする特殊部隊のイメージとはかけ離れている。
泥にまみれ、常に命の危険に犯されながら死ととなり合わせの日々を送る。
その上、一般兵士と給与はあまり変わらない。
シールズの選抜試験、訓練は米軍の中でも最も厳しく、訓練中に死亡するものや厳しさに耐えれずリタイアする者も多い。
そんな厳しい訓練を乗り越え技術を身につけていても、決して戦場で生き残れるわけではない。
今まで戦場で散っていった仲間は少なくはなかった。
この戦火の絶えない地、"アフガニスタン"
ここでも多くの戦友が命を落としていった。
2000年代から始まった対テロ戦争。
9.11以降アメリカは国際テロ組織「アルカイダ」の拠点であるアフガニスタンとその支援を行っているタリバン政権に対し、報復攻撃を開始した。
そこに真っ先に投入されたのが特殊部隊である。
不正規戦(ゲリラ戦術)を得意とするテロリストたちは、米軍の大規模な軍事攻撃では一掃することが難しかった。
過去にアメリカはベトナム戦争でのベトコンの奇襲攻撃で苦い経験をしていた。
その時、対抗策として裏で活躍した特殊部隊による不正規戦を用いた戦術に注目した。
対テロ訓練を受けた彼らはテロの時代には打って付けの存在である。
この戦争はテロリストと特殊部隊の戦いといっても過言ではない。
時代は対テロ戦争へと移行していった
アフガニスタン東南部に位置するシャヒコト溪谷、現地のパシュトゥー語で「王家の谷」を意味するこの地はアフガン人にとって神聖な地であり、またタリバンとアルカイダの活動拠点でもあった。
まるで外界の人々を拒むかのように立ちはだかる切立った断崖が並ぶ険しい山岳地帯、草木は少なく高所には雪が積もっていることがある。
その山岳にある"タクル・ガル山"
ここは数年前、米軍率いるタスクフォースが400人のタリバン兵と死闘を繰り広げた場所だ。
米軍はこのタクル・ガル山山頂に監視所を設営するために、先遣隊として海軍特殊部隊シールズを投入した。
事前のAC-130ガンシップによる赤外線監視装置による夜間航空偵察でタクル・ガルには敵影の存在は皆無と判断されていたのだが、タリバン兵は雪の下に洞窟を掘ってその中に潜んでいた。
当初の予想では200名程の敵兵が潜伏していると思われていたが、実際はそれを上回る400名の敵が潜んでいた。
しかし、米軍のハイテク兵器はそれを完全に見逃してしまったのだ。
最初の計画では山頂から離れた尾根に効果する予定だったが、シールズは当初の予定を変更し、山頂にCH-47チヌークヘリで直接降下することを決断した。
しかし、山頂に近づくと敵が一斉に攻撃を仕掛けてきた。チヌークヘリはロケット弾の攻撃により墜落。
生き残ったシールズ隊員は敵地のど真ん中で孤立してしまった。
シールズを救出するために即応待機していた陸軍第75レンジャー大隊の二個小隊がヘリで駆けつけたが、敵の奇襲攻撃でレンジャーの乗ったヘリ1機が撃墜されてしまったのだ。
墜落したヘリを盾に生き残ったシールズとレンジャー部隊は敵の猛攻を受けながらも反撃し、ヘリや戦闘機による近接航空支援などのあらゆる方法で山頂を制圧するのに成功した。
しかし、米軍の損失は大きく死傷者も多数出すという最悪な結果となった。
そんな散っていった仲間の魂が眠るタクルガル山を遠くの尾根から眺めながら1人のシールズ隊員が口を開いた。
「タクルガルだ」
山頂を指さしながら彼が仲間たちに言った。
後の3人は静かに頷き、山頂に向かって簡単な敬礼をした。
それに続き、彼も敬礼した。
彼の名はリョウ・ナガヒラ中尉
海軍特殊部隊ネイビー・シールズチーム6の隊員でこの班のリーダーである彼は、シールズには珍しい日本人である。
数年前にアメリカに留学した彼は、世界を知るためと海軍に入隊しアメリカの市民権を得た。
同期の勧めでシールズに志願し、見事選抜試験をクリアした。
実戦も何度か経験しており、功績を認められ小隊の指揮を任されたのは最近である。
「リョウ、目的地まであと二時間くらいだ。少しここで休息を取ろう」
と、彼の肩を叩いたのはハンクだ。
一際立派な髭を生やし、スポーツサングラスをかけたガッシリとした体格の隊員である。
彼の副官であるハンク・デイビス兵曹長はベテランのシールズ隊員だ。
中東、東南アジア、アフリカと、数多くの任務に従事してきた彼は、あの史上最悪のテロリストの掃討作戦にも参加している 小隊の中でも一番のベテラン隊員だ。
そして、リョウや他のメンバーを訓練した教官でもある。
「ああ、チェックポイントまではまだ少し余裕がある、朝飯にしよう」
リョウは後方の2人の隊員、ジョーとキースに目を向けた。
2人は周囲を警戒し、異常がないことを確認したら背嚢を下ろした。
後方を警戒していた狙撃手のキース・オルソン一等兵曹と支援火器担当のジョー・ガルシア二等兵曹は班の支援担当である。
2人とも若く優秀な兵士で、狙撃手のキースは狙撃のみならず近接射撃(CQB)に長け、小型UAV(無人偵察機)による
偵察などの技術も持ち合わせている。
支援火器担当のジョーはあらゆる武器を使いこなす能力があり、装甲車等の戦闘車両も扱うことが出来る。
最小人数での潜入偵察任務ではキースと組むことが多く、狙撃時には観測手を担当する。
さらにジョーはチームの医療担当でもあるので重要な役割を担っている。
4人は周囲が確認できる斜面の大きな岩陰に移動し、休憩をとることにした。