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終章 みち

ここから、ホークとその仲間達の話が始まります……。

 騒動から、八日ほど経った早朝。

 薄い横雲がただよう青い空に、朱の線が走る。

 頬を撫でる科戸の風は暖かく、かの山頂で感じた春の気配と同じであった。

 今はかぶり物を取っているソフィアの新緑を思わす髪が、その風でわずかに揺れる。

 見ているだけで、木々のざわめきが聞こえてきそうだった。

 その横では、やはりかぶり物をとったリエが、自慢の金髪を風に揺らしている。

 紅日に照らされるその髪は、きらびやかでどんな装飾品でも敵わない美しさが感じられた。

 その中で、出会ったときと同じ、真っ黒の尖った帽子に、真っ黒の外套を羽織ったホークは、微妙に雰囲気にあわない。

 まったく、奇妙な組合せだなと、光斗は自分の姿を改めて見た。

 陰陽龍紋のついた、地仙が着る緑の長袍。

 それに、多くの荷物をつめた、光斗の胴よりも長い紺色の雑嚢を背負っている。

(まあ、自分もその仲間か……)

 その事実が、妙にこそばゆい。

「光斗様……」

 豊都の城壁にある、小さな裏門前。

 ここまで見送りに来てくれた順天は、身を縮めて自分自身の手を強く握っていた。

「本当に、お行きになるのですか……」

 潤んだ双眸を伏せ気味にした順天に、光斗は黙ってうなずく。

 もう彼は、行くと決心していた。

 騒動のあと、蘭白、そして角行の証言もあり、すべての企みが貴先のものだと明らかにされた。手を貸していた夜真も、いとも簡単に捕らえることができた。

 もちろん、光斗の罪も冤罪とわかったが、光斗は自ら王位を辞退した。

 理由は、いくつかある。

 まず、すでに自分は、国民に不帰の者であると告知されていたということ。

 もし、自分が生きていたとするなら、国民に本当のことを告知しなければならない。そして、なぜそのような嘘をついたのかも、晒すことになる。王家の内情は、少なからずばれてしまうだろう。

 それに国全体が、すでに白斗を王にするという流れで動いている。

 王が登仙し、英雄的軍長が裏切り処分され、王の弟まで謀反で獄中。この状態で、さらに王位の継承権の問題まで起きては、国はまとまらないだろう。

 そしてなにより、光斗には守りたい約束があった。

 だが、それには今、目の前で自分を想ってくれている人との約束を破らなくてはならない。

「すまん……」

 光斗は、深々と頭をさげる。

「順天殿には、感謝しきれない恩と、詫びきれない……ことをした」

「そ、そんな……」

「せめて……幸せになって欲しい」

 順天の瞳から、耐えきれなかった恋水が流れだす。

「わたくしの……わたくしの幸せは、光斗様と……」

 そんな順天に、光斗はやはり「すまぬ」としか言えずにいた。

 晴天の下、目の前で流れる、空知らぬ雨に彼は、自らも濡れそうになる。

 自分の中で順天が、どのような存在だったのか。このとき、光斗は初めて実感していたのかもしれない。

「も、申し訳ございません。わがままを言っていますね……わたくし」

 そんな光斗に、助け船をだしたのは順天自身であった。

「こ、光斗様。あのぉ……お、覚えてらっしゃい……ますか?」

 むせび泣きそうになるのを我慢して、順天は笑顔を作ろうとする。

「昔、語ってくださった夢……。まだ見ぬ世界を見てみたいという」

「……覚えている」

「では、その夢を……わたくしの分も、まだ知らない世界を……見てきてください。そして、いつか……」

「ああ……」

 その健気さに衝かれて、光斗は思わず順天の肩に手をまわした。

 順天の小さな体を引きよせて、自分の胸に包みこむ。

 すぐに桃を思わす香が、頭の奥まで刺激する。

 初めて味わう柔らかさ、その甘い香りに、彼は理性を失いそうになる。

(このまま一緒に……)

 わきだす恋慕は、胸を焼くようで抑えがたかった。

「おやおや。女性を泣かすのは感心しませんよ、光斗殿」

 しかし、冷やかしをいれられて、慌てて光斗は身を離す。

 おかげで理性を保てたものの、無粋な声の主を睨まずにはいられなかった。

「風龍殿!」

「おお、すまんすまん。邪魔したな」

 青い長袍を身にまとった風龍が、いつの間にかそこにいた。

 まったくもって、神出鬼没である。

「それよりも、鷹龍」

 そして、切り替えも早い。

 風龍は、真っ黒なホークを指さした。

「お前、早く蓬莱に来い」

「なんでです?」

「なんでです、じゃない! お前が盗んだ龍魄についてだ」

「ああ。そんな昔のこと……」

「この前だ! 金龍様が、直々に話を聞きたいと言っているんだよ」

「いやですよ」

「あっさり断るな! お前のせいで、金龍様にオレまで大目玉くらったんだぞ」

「じゃあ、これあげますから」

 そう言って、ホークはソフィアに眼で合図した。

 すると、ソフィアが腰に巻いていた袋から、呪符で巻かれた龍魄を取りだす。

 しかし、それはあの風龍に渡された物とは、大きさが違った。

 こちらの方が、一回り大きい。

「おい、これは?」

「貴先が持っていた物です。四聖道から受けとったのでしょう。これを渡しますから、金龍様にも適当にごまかしておいてくださいよ」

「……ったく!」

 どうやら、それで風龍は手を打ったようだった。

 ソフィアから受け取ると、大事そうに腰袋の中にしまい込んだ。

「でも、鷹龍。お前、結局は【神の廊下】を登るんだろう?」

 風龍の目が、光斗を指す。

「仙人の修行やらせないといけないし」

 そのとおりだった。光斗は、これから地仙居に行き、仙人の修行をするのだ。

 どちらにしろ、泰山へ向かわなければならない。

 だが、ホークは、首を横にふる。

「え? 行かないのですか?」

 驚く光斗に、ホークは「ええ」と答える。

「では、どこに?」

「エンジェラにでも、おいしい物を食べに行きましょうか」

「おいしい物って……山向こうにですか? 天仙になるための修行は、どうするのです?」

「しますよ」

「では、【神の廊下】に……」

「光斗。【神の廊下】などという、決まった道を歩く必要はないのですよ。今の貴方も、道を外れた先に在るのでしょう」

 鍔の下に覗くホークの慧眼に、光斗は光が灯るのを感じた。

 時折見せるホークのそんな表情は、年齢を無視した高みを感じさせる。

「私が教える仙道という【道の歩き方】は、速い歩き方でも、空の歩き方でもありません」

「では、なにを……」

「【未知・・の歩き方】……ですよ」

「未知……」

「順天殿とも約束したのでしょう。知らない世界を観てくると」

「…………」

 光斗は、順天とかるく目を合わせる。

 順天がうなずく。

 光斗も深くうなずく。

「ならば、未知の歩き方、その一です」

 ホークが、リエとソフィア、そして光斗をそれぞれ一見する。

「とりあえず、進みますよ」

「はい!」

 光斗は、新たな道のりを歩み始めた。



   完

すべて読んでくださった方、本当にありがとうございます。

一言でも感想等、足跡を残していただけると嬉しいです。


なろうだと、今時の作品が多い中、少しレトロテイストなお話しだったかもしれません。

ただ、だからこそ、今ならば新鮮に感じるかもしれないと思い掲載させていただきました(笑)。


気がついた方もいらっしゃるかもしれませんが、タイトルの「神の廊下」は黒部峡谷の「上廊下」が元ネタです。黒部ダム等に行った時、地名のネタを思いつきました。

それに、「丈夫過ぎて死ねない男」というネタと、私が昔から育てていた「ホーク」というキャラを合流させて、この話ができました。


ホークの話は、このほかにも色々と書いていたのですが、今となっては見られたものではありませんし、元原稿もほとんどなくしてしまいました。

機会があれば、5人の魔女の話、エンジェラ王国の姫と英雄女騎士の話、竜使いの話など、リメイクして掲載できればと思います。

ただ、今の時代、あまりこういうファンタジーは求められないのかもしれませんねぇ。(^^;

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