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なにもない六日の日  作者: 水無月旬
三日の日
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三日の日 2

 俺はずいぶんと嫌な事を思い出していた。

 最近そういう事が多い。寝ているときも、起きているときも、嫌な昔の記憶が俺を呼び起こして引きずり込もうとしているようだった。

 俺は直感で良くない雰囲気を感じていたが、もう自分の中で引けるようなものではなかった。

一昨日来たダムについた。そう数日で何か変わるものでもなく、そのダムはこないだと同様頻りに水が上部から下で流れる川へと流れていた。

 その音は壮大で遠くで見ているこちら側にもしびれるような音が聞こえてきて俺は左の手で右腕をつかんで少し身震いした。

 少しだけ彼女の死にざまを想像してしまったからだ。

 俺は頭を左右に振ってくらくらするくらいまで振って、気を紛らわした。

 そして俺はそのダムから周りを見渡した。すると俺の目的としていた場所を見つけることが出来た。

 父親から、このダムの近くに大きな公園があることを聞いていた。俺はその公園を見つけて歩き出した。

 遠くから見ても分かるようにそこの公園は広大な芝生が広がっていて、そこに誰一人として人がいない事に俺は気が付いた。

 俺はその中に一人だけぽつんと立ち尽くし、木製の茶色い手作りのようなベンチを見つけて腰をおろした。

 鞄を膝の上へと持ってきて、その中に入っているクリアファイルを取り出した。

 中から一枚のコピー紙を取り出して、俺はそこに書いてある文を読んだ。

 東條美月のあとがき文であった。



 わたしは書きたい本がそのまま書ければ本望だと思っている作家です。

 たしかに私は最近、思い悩むことがあるのです。

 しゅかんてきに書いた物語は必ずしも万人うけのするものではありません。

 はたから見ると私達作家を職業にしたい者は万人うけのする作品を書くのが一番だと、いま本を書いている私は思います。けれども私は主観的に本を書きたいとおもう志が、ちょうせんしたいという気持ちが拭えません。私は片田舎出身の都会生まれじゃないですので、昔から自由に生きてきました。だからこそ自分が感じる普段のちょっとした、かんせいを表現したいと常々思うのです。今でも自分が書いている本がうれるか気になってしかたがありません。私が、作家を目指して一番よかったと思うひは、自分の書いていたかず少ない作品が完成する日だけです。私は今作も自分のかろうを押しのけて、自分自身がやりたいと思った作品が書けて良かったと思いこの本を出版させていただきます。この本を手に取って頂いた皆様、この本の出版のごきょうりょくをしてくださった皆様、本当にありがとうございます。私の本を少しでもごらんなった事のある方、一度も読んだ事のない方、様々な方々に私のほぼ趣味からかんこうした私のこの本が、読まれて頂けると想像したら、それもまた幸せです。表現で言葉は華やかになり、それを感じる人は豊かになって文学を楽しみます。

いつの日かまた私の書いた本を読んでいただけたら幸いです。

たいせつに今の気持ちを閉まっておこうと思います。  



 俺は流れる水の音をそっちのけで、頭を悩ませていた。

 この文がどうしたというのだろうか。

俺が最初に思ったことは読みにくい、という点だった。あとがきにしては行替えも少ないし、何より不可思議なひらがなが多い事に気が付いた。

それがわかっても俺は何も考え付くことが出来ずに、このあとがき文の文字が見えなくなってしまうくらいの黄昏時になって、ようやくこんな時間までここに居たことを築かされた。

ダムはもう機能していなく、流れる水の音もやみ、微かに聞こえるせせらぎのような穏やかな波の音が聞こえていた。

近くにある、ダムの管理事務所は明かりがまだついていて、職員が幾人かいるようだった。

俺はそんなのにも目に止めず、駐車しておいた白いワゴン車に乗ってダムを後にした。

今日はもう帰ることにした。どうしても東條美月が残したというあとがき文の意味がよく解らず、片腹痛い事だが、明日東條美星の家に尋ねることにした。でも今日は時が遅いし、彼女がまだ家に帰っていないという線もあった。

車のライトをつけて、俺は家に向かって、山の樹海へと車を走らせた。






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