第38話「レッド学校に行く」
レッドが学校に行く事になりました。
わたし、イジメられないかすごく心配です。
レッドは仔キツネでしっぽもあるから、きっとイジメられちゃいます。
わたし、先輩として、先生に一言言わねばなりません。
そ、そしたら先生がとんでもない事を…
朝ごはんの準備をしていると、なにかにぶつかりましたよ。
なんにもないはずなんだけど……って、レッドです。
「わ、レッド、どうしたんです」
「ぶつかった~」
「ごめんごめん、ごはんもうちょっとしてからだから」
「らじゃー」
行っちゃいました。
って、今度はコンちゃんにぶつかって転びましたよ。
さ、さらに店長さんにもぶつかりました。
店長さんびっくりした顔でわたしの方に来て、
「いや、レッドにぶつかったよ」
「わたしもさっきぶつかりました」
「小さすぎて目に入らないから」
「ちょろちょろ動いていますね」
「ポンちゃんお店でぶつかった事とかない?」
「そ、それは……」
思い返してみると、そんな事、ちょっとあったような気がします。
「ああ、確かにパンをひっくり返しそうになった事があったような」
「そうなんだ……」
店長さん難しい顔で、
「ただでさえお客さん少ないのに、パンがダメになっても困るなぁ」
「でもでも、レッドは子供だから、じっとしていられませんよ」
「それはそうだね……」
店長さんしばらくレッドを見て考えていましたが、思い出したように奥に引っ込んじゃいます。
戻ってきたら、真っ先にレッドのところに行ってなにかしてますよ。
って、首に鈴をつけました。
レッドがトテトテ歩くと、チリチリ鳴ります。
あの音がすれば、目に入らなくてもわかりますね。
店長さんわたしのところにやってきて、
「でも、まぁ、学校に行ったら関係ないかな」
「店長さん、レッド、学校に行かせるんですか?」
「まぁ、あのくらいだと幼稚園なんだろうけど、村には学校しかないしね」
「そうなんですか……学校……」
わたし、言いながら、山で読んでいた不法投棄を思い出します。
「店長さん、レッドを学校に通わせるんですか!」
「う、うん、だからこの間、村長さんにも来てもらったんだけど」
「あの熟女っ!」
「まだ言ってる……」
「あの時はレッドを見に来てたんですか?」
「うん……で、OKもらったんだ」
「レッド、大丈夫でしょうか?」
って、もう店長さん行っちゃいました。
最後のは聞いてなかったような気がするけど……
本当にレッドを学校に通わせて大丈夫なのかなぁ……
学校はイジメとかあるんですよ。
レッドはしっぽがあるから、きっとイジメられちゃうんです。
ああ、どんどん心配になってきちゃいました。
レッド、本当に大丈夫かな?
「行って来ま~す」
わたしは配達。
「ま~す」
レッドも一緒です。
学校に通う事になったんだけど、一人で通わせるとカラスに襲われるので、しばらくは配達ついでに一緒に行く事になったんです。
帰りは学校の子が一緒になって帰って来る……だって。
わたしが給食で食べるパンを持って歩いている間、レッドはしっぽをつかまえて着いて来ます。
「ねぇねぇ、レッド」
「なに、ポン姉~」
「学校に行くの、こわくないんですか?」
「がっこうってなに~」
「学校知らないんですね」
「ですね~」
ちらっと後ろを見たら、レッドはまったく解ってない様子。
話したものか、考えちゃいますね。
わたしの知識では、学校ではイジメとかあるんです。
レッドはしっぽがあるから、余計にイジメられそうな気がするの。
わたしは配達したら終わりだし、一応体も大きいからイジメられないけど……パンを配っている時にしっぽを触られる事があるもん。
まぁ、でも、わたしが不法投棄で読んだ雑誌みたいに、とんでもない感じじゃないですね。
でもでも、わたし、しっぽを触られるの、嫌なんですよ。
レッドはきっと、しっぽ触られまくりのはず。
なんだか触りたくなるように、ピコピコよく動くんですよもう。
あの赤いフサフサなしっぽは。
って、あれこれ考えているうちに学校です。
「ポンちゃ~ん」
あ、あれは千代ちゃんの声。
って、レッドがしっぽを痛いくらいににぎってきます。
「れ、レッド痛いよ!」
「あわわ……あわわ……」
なんだか慌ててますね。
って、千代ちゃん目の前までやって来て、
「あ、その子がレッドですね」
「うん、今日から学校に通うの」
「村長さんが朝来て説明してたから、知ってる、キツネさんなんでしょ」
「千代ちゃんよろしくね」
わたし、おしりを振って、レッドを前に出します。
レッド、わたしのしっぽを握ったまま、千代ちゃん見て固まってます。
やっぱりイジメとか、心配してるのかも……
「はわわ……あのあの!」
「こんにちは、レッド」
「そ、そう、ぼく、レッド」
「わたしは千代でいいよ」
「ちよちゃ!」
レッド、わたしのしっぽを放して千代ちゃんに抱きつきます。
うわ、なんだかレッド、心配とか不安で慌てたわけじゃなさそう。
「レッド、どうしたんですか?」
「ちよちゃ、めがね、すてき」
そうでした、千代ちゃんは眼鏡をしてます。
レッド、本当に眼鏡フェチですね~
「ひさしぶりに、静かになったわね」
お客さんもはけちゃったので、お店でおやつです。
「ねぇ、ミコちゃん」
「なに、ポンちゃん」
「わたし、レッドが心配」
「……なんで?」
「レッドはキツネだから、きっとイジメられてるよ」
「そんな事、ないと思うんだけど……あの学校の雰囲気からして」
「いや、きっとしっぽを触られまくられて、泣いてます」
「そんな事、するかしら……私も配達に行くけど、そんな感じじゃ……」
「ミコちゃんは人間だから、しっぽがないからそんな事が言えるんです」
「……」
「わたし、たまにパンを配っててしっぽ触られるもん」
「そうなの……」
「ミコちゃんは心配じゃないの?」
「いや……考えもしなかったから」
って、今まで黙っていたコンちゃんがお茶をすすりながら、
「ポン、おぬし、そんなに心配なら様子を見てきたらよいではないか」
「だ、だってお店もあるし」
本当は行きたいくらいです。
なんでみんな、平気な顔してるんでしょうか。
イジメられてるかもしれないのに……
店長さんが、
「ポンちゃん行きたい?」
「できたら、行きたい……」
「大丈夫とは思うけど……それなら……」
店長さんがお店の窓をじっと見ています。
駐車場が明るかったのが、急に暗くなりました。
そしてすごい音をさせて雨が降り始めましたよ。
「ちょうどいい感じで雨が降ってきた」
「店長さん店長さん、雨が降ったらお客さんが……」
「いや……ポンちゃんお迎え行きたいんだよね」
「う……」
「レッド、傘持ってないから、お迎え行ってあげてよ」
店長さんの命令です。
わたし、すぐに傘を持って学校に行きました。
って、学校に到着したら、雨上がっちゃいました。
でも、せっかく店長さんが行っていいって言ったんだから行くんです。
レッド、泣いてないといいけどな~
わたしが配達の時みたいに靴箱の所から入ろうとしていると、
「あれ、パン屋じゃねーか」
声をかけてきたのは、担任の吉田先生。
髭もじゃの先生なの。
「なんか用か?」
「雨が降っていたから、レッドを迎えに」
「雨なんて上がってるじゃねーか……ま、いいか」
「あのあの、先生」
「うん?」
「今日、レッド、イジメられてませんでした?」
「うーん、別にそんな感じじゃなかったけどなぁ~」
「本当ですか? 学校はイジメを隠しますよ!」
「ここの子、田舎の子だから、そんな事しねーよ」
「だ、だってわたしもしっぽを触られる事が!」
「しっぽを触られるとイジメなの……なら触られてたかも……」
ああ、吉田先生思い出しながら言います。
わたし、一緒になって教室まで行きます。
そして吉田先生と、そっと中を見ました。
レッドの回りには人だかり。
みんなしっぽを触りまくりです。
「ああっ! レッド、しっぽ触られてますよ」
「まぁ、珍しいから、触るだろうなぁ~」
「な、泣いちゃうかも……」
「いや、それは……」
吉田先生苦笑い。
わたし、心配で見たら、レッドなんだか嬉しそう。
「あいつ、しっぽ触られえると喜んでるけど」
「えー!」
「パン屋はしっぽ触られたくないのか?」
「わたしは嫌!」
「そうか~」
「先生、みんなにいイジメないように言ってくださいっ!」
「言わなくても……イジメたりしないと思うんだが」
「言ってくださいっ!」
わたし、おもいきりにらみます。
吉田先生、面倒くさそうな顔をしましたが、
「まぁ、そこまで言うなら、釘をさすけどさ……」
そしてホームルーム。
わたし、レッドの横に座って吉田先生がちゃんと言ってくれるのを監視。
吉田先生うんざりした顔で、
「おら、今日から入った新入りの名前はなんだ!」
「レッドで~す」
先生のお言葉に、みんな元気にこたえます。
「レッドはパン屋の子供だ、わかるか~」
「は~い、しっぽあるも~ん」
みんな言ってから、大爆笑。
わたしもついつい笑っちゃった。
でも、はっきりイジメられないように言ってもらわないと心配です。
吉田先生をしっかりにらんじゃいますよ。
「で、キツネだからってイジメるんじゃねーぞ!」
「は~い」
「もしもレッドをイジメたら、どーなるかわかってるか~」
って、みんな静かになっちゃいました。
やっぱり罰とかこわいのかも。
吉田先生髭もじゃでこわそうな先生だもん。
「レッドはパン屋の子供で……あんたは母親か? 姉か?」
「わたし、お姉さんって設定です」
「じゃ、お姉さんは知ってるな~」
「は~い」
吉田先生、黙っちゃいました。
生徒のみんなも、きょとんとして先生を見つめています。
そんな先生が、じっとわたしを見てます。
なにかな?
「もしもレッドをイジメたら~」
「イジメたら?」
「女子プロレスのお姉さんが、仕返しに来るからな~」
途端に生徒全員がわたしを注目します。
ちょ、村祭りの神楽の事をまだ言いますか!
って、生徒の中には泣き出す子もいますよ。
「あのお姉ちゃんこわい」とか「バリこわ」とか聞こえます。
わ、わたしってそんなにこわかったの!
「だから、ぜったいイジメんじゃねーぞ」
「はいっ!」
なんだか最後の返事、すごいキッチリはもってます。
わたしを見つめるみんなの目は、尊敬だったり恐怖だったりするの、よーくわかりました。
なんだかすごく傷付きましたよ……とほほ~
「ててててんちょー!」
「あ、レッド、お帰り~」
「そ、それは?」
「あ、これ、食べちゃった」
あ、店長さん、最後のはレッドにあげないと、とんでもない事になっちゃうのに!