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エクストラ ゼロ  作者: at-tky
9/18

失意から立ち上がる戦士

お待たせしました。

更新がないのにアクセスして下さった方がいて嬉しかったです。

ありがとうございました。


今回はギルベルの話です。

「ギルベルは強いですよ、一般の人に比べればの話ですが」

 決闘まがいの出来事から、はや数日。

 学園の訓練場にウォーレンとギルベルの姿はあった。

 時刻はそろそろ日も落ちようかというところか。

 今まで、何も接点のなかった二人だが、その距離は近づいていた。

 ギルベルがウォーレンに拘った結果でもあり、ウォーレンの興味が少しだけギルベルに惹かれた結果でもあった。


「でも、世界はあなたが思う程、狭くはないんです。あなたよりも強い人なら、私はいくらでも知っています」

 汗に塗れて座り込んでいるギルベルにウォーレンの言葉は続く。

 井の中の蛙だとウォーレンは彼に言っているのだ。

 ギルベルは黙って彼の言葉を聞いていた。

 その態度はいつもの彼を知る者ならば、目を疑うような物であった。


「頂点を目指したいなら、もっと貪欲にもっと丁寧に、もっと真摯に物事に向き合うべきです」

 それは、ギルベルに語りかけたものだったのか、それとも彼が自身に語りかけたものだったのか。

 ウォーレン自身には鍛錬を怠ったという自覚はない。

 しかし、自身の実力が師の下を離れてから、それほど大きく成長していないように感じるのも事実だ。


 汗まみれで地に伏しているギルベルとは対象的にウォーレンにはまだまだ余力があった。

 数日前まではほんの僅かだった差が確実に"開いて"いた。


 ウォーレンはギルベルと剣を交えるたびに彼を知っていった。

 足運び、間合いの取り方、呼吸、太刀筋、その心理状況。

 それは、彼が意識せずにやっている習慣の様なものだった。

 情報は何にも勝る武器だと彼の周りにいた大人は全員が口を揃えて言っていた。

 そして、ウォーレンはその認識を忘れたせいで、過去に何度か"死にかけた"。

 だから、周囲を観察する。

 空気の流れ、温度、そんな些細なものでも彼は観察する。

 ただ、今、彼の目の前にはギルベルがいるという事。

 それだけで、特段意識して彼の動きを"見た"訳ではない。


 対するギルベルであるが、数日前とその動きは大して変わっていなかった。

 その理由は単純だ。

 彼は誰よりも才能があった。

 だから、自分よりも強い者に勝つためのプロセスが全く分からなかった。

 ただ、それだけのことだった。


 一昨日にはウォーレンが剣で受けていたはずギルベルの斬撃も、昨日には掠めるぐらいになっており、今日は全く当たる気配すらなかった。

 ここにきてようやく、ギルベルは師や故郷の父が言っていた事を思い出そうとしてみた。

 ……しかし、彼の中の色褪せた記憶は戻る事はなかった。


 ギルベルは恐怖を感じた。

 将来は剣の道で歴史に名を残すのも夢では無いと思っていた青年が同年代の魔術師に剣で負ける。

 それも、それはこの先も死ぬまで塗り替える事の出来ない力関係。


「ギルベル、あなた聞いていますか?」

 その言葉で、はっとギルベルは顔を上げた。

 ウォーレンの双眸はじっとギルベルを見つめていた。

 浅ましい考えすら見抜かれそうで、ギルベルはその目を見る事が出来なかった。


「ウォーレン、俺は剣を取ったら何も残らねぇような人間だ。馬鹿だし、他の事は何にも出来ねぇ。なぁ、俺は剣に……向いていないのか?」

 その言葉を聞いてウォーレンは初めて、ギルベルという才能がこの世から消えかけていることに気がついた。

 しかし、ウォーレンにはなぜギルベルがそんな弱音を吐いたか分からない。

 これだけの才能を持ちながら、なぜそのような話が出てくるか理解出来なかった。

 そこでようやく自分が彼に施している訓練方法に問題があるのではないかと思い当たる。


 ウォーレンの直接の師は剣を使う事は出来ない。

 彼に剣術を叩き込んだのは、師の仲間の内の一人だ。

 今、思えば多少過激な人だったように思える。

 自分も逃げ出したくなった時が確かにあった。

 今、ウォーレンがしている事はその師の教え方を模しているだけだ。

 割りと弟子も多くいたため、有効な方法だと思い込もうとしていたが、"やはり"問題があったらしい。


*************************************


「俺は確かにお前に剣を強要してる。お前が魔術だけを極めたいと思っているにも関わらずだ。……確かに俺の目から見てもお前には魔術のセンスはあると思うぜ。だがな、残念ながら素質がねぇんだ。このまま魔術だけやってるんじゃ、お前はあいつを……一生越えられない」

 そんな事は少年には分かりきっていた。

 彼の師は国内に留まらず、大陸レベルでその名が知られている。

 彼は知っていた。魔力がほとんどない碌でもない弟子を師が持った事が一部の魔術師の中では、笑い草になっている事を。

 それが堪らなく悔しかった。

 師の選択した道が間違いではないと少年は示したかった。


「だから、お前は魔術以外も全部、極めるんだ。文字通り全部だ。そうして、初めてあいつを越えられる可能性が出てくる。そうなりゃあ、誰もあいつの事を笑わねぇよ」

 無骨な手が少年の頭をガシガシと撫でた。

 この男は粗暴で、女癖も悪いという、少年にも分かる程、"ダメ"な大人だ。

 だが、この男に教えを請うために数多くのものが訪れる。

 純粋にこの男がとてつもなく強いからだ。

 本来ならこんなところで、少年なんかの相手をしているような人物ではないのだ。


 この男が今吐いた言葉は、少年の心に火を灯した。

 碌でもない大人だが、この男も戦闘に関しては師に並ぶような大陸レベルの男だ。

 戦闘に関しては間違いは言わない。

 だから、この男の"可能性"という言葉に賭けた。


*************************************


「すみません。ちょっと事を急ぎ過ぎました。ギルベル、あなたは間違いなく、天性の素質を持っています。今、私に敵わないのは、その素質を十分に生かす術を知らないからです。私がその道を示しましょう」

 ウォーレンは自身がなぜこのギルベルに興味を惹かれるか少しずつだが理解していった。

 それは、自分の師を超えるという意志と、彼の頂点を目指すと言った言葉がリンクするからだ。

 どちらも傍から見たら夢見がちで現実の見えていない馬鹿げた人間に違いなかった。

 だから、ウォーレンはギルベルと自分とはある意味で同類だと感じた。


 言葉を聞いたギルベルはずるずると身体を起こした。

 自分には天性の才能があるとウォーレンは言った。

 今のギルベルはとても自分の事をそんな風には思えなかった。

 僅か数日で自分を圧倒できるようになったウォーレンの方が、よっぽどその言葉は相応しいように思えた。


 さっきまでボロボロだった身体は少しずつ動くようになっていた。

 虎族は身体の回復能力にも長けている。

 起き上がれなかったのは、精神的なダメージが原因だ。

 それでも、まだ頭は回っていない。

 今はただウォーレンの言葉に縋るだけだ。


「……学園迷宮に行きましょう」

 ウォーレンが口にした場所は鍛錬の場としては珍しくない。

 しかし、ギルベルには些か疑問が残る。

 大して難度の高くない場所だからだ。

 ここで、一方的に打ちのめされている今の状況の方が、修練になるような気がする。


「不満そうですね? まぁ、大丈夫です。メニューはきちんと考えてありますから」

 何も問題が無いかのように歩き出すウォーレンを見て、ギルベルも大人しくそれに続く。


 二人が目指した先は学園迷宮。


 それは、その名の通り学園内にある迷宮を指す。

 学園によってイレギュラー因子が省かれ、管理がされている迷宮だが、中身は外の世界の迷宮と変わらない。

とは言っても、その難易度は非常に低く、よっぽどの事がない限り、この迷宮で大きな怪我を負う事はない。

 ウォーレンもギルベルも1年次の時にこの迷宮の最深部である地下10階層まで、単独で踏破を成し遂げていた。


「学園迷宮の魔物は対して強くないので、基礎訓練にはもってこいなんですよ」

 ギルベルの頭には疑問しか浮かばない。

 彼にとって訓練とは「できるだけ強いものをたくさん倒し、力をつける」というものだった。

 しかし、それは訓練ではない。経験を積むという事だ。

 そして、訓練すらまともにこなしてこなかった人間では、経験を積む方法では、"本当の"経験は得られない。

 そして、もちろん訓練にもならない。


 低級とはいえ魔物が出るため、迷宮への出入りは常駐の管理人によって記録がされている。

 授業のある平日は日をまたいで探索し続ける事は出来ないが、休日や長期休暇などの場合には、野営も含めた探索が可能である。

 ウォーレンが管理人に迷宮への探索許可を求めると、管理人は意外さと興味が入り混じったような顔をした。


 管理人の女性職員は今、自分の目の前に立つ二人の学生の事を良く知っていた。

 学園で起こしている数々の出来事による噂……ではなく、彼女が管理している学園迷宮に関する事で知っていた。

 彼らは1年次でこの学園迷宮を踏破している。

 この事自体はこの学園において珍しい事ではない。

 学園に入学するような人間は大なり小なり、戦闘訓技術は持っているからだ。


 その中でも高いレベルの者ならば、1年次でもこの迷宮は踏破出来る。

 事実、学園創立以来から数えれば、数百人の名前が挙がるだろう。

 なぜ彼女がこの二人を記憶に残していたか。

 それは彼らが"単独踏破者"だったからだ。

 低級に属する学園迷宮も、その条件を単独踏破に限定すれば、難易度は跳ね上がる。


 この迷宮には他の管理された迷宮と同じく、踏破した階まではワープ出来る機能が存在する。

 しかし、この学園はワープを含む踏破を"完全な"踏破と認めていない。

 全体の階層が浅いため、ワープを使用すれば運次第では実力が無くとも最深部まで到達する事が出来るからだ。

 もちろん、最深部に辿り着いた後の帰還にはワープが認められている。


 この迷宮は歩く階層にもよるが、完全にマッピングされた地図を持ち、迷宮探索の最適数の5人の学生を揃えれば、1日で3階層程進むことができる。

 逆に言えば完全踏破のためには、最低3~4日は迷宮内で過ごし続けなければいけないと言う事だ。

 単独でこの迷宮を踏破するという事。

 それは、魔物の脅威の中、少ない睡眠をとり、数日の間、出会う魔物を一人で相手し続け奥へ奥へと進み続けるという事と同義だ。


 学園の最高学年の6年次ですら、単独踏破者を出す事は容易ではない。

 管理人の女性職員は毎年毎年、学園迷宮に挑む学生達を見続けている。

 だから、その異常性がしっかりと認識出来ていた。


 学園ではこの迷宮の踏破記録は公開していない。

 特に成績にも加味されるわけでもない。

 それは、この迷宮が学園にとって自己鍛錬の場の意味を持っているからだ。

 だから、彼らがこの迷宮の単独踏破者である事は、一部の熱心な職員と、迷宮の管理人である職員しか知らない。


「1階層からでお願いします」

 ウォーレンの指定した階層は職員の疑問を煽るものだった。

 ギルベルは完全踏破以降、この迷宮を利用していない。

 彼にとって一度達成したものは、興味の対象外となるからだ。

 対するウォーレンは最深部の10階層を指定し、たまに迷宮へと入る事がある。


 今日は平日だ。だから、最深部まで潜り続けるという行為はあり得ない。

 単独踏破者を二人揃えて、1階層へ行くのは、あまりにメリットが少ないように感じた。


「分かりました。22時までにはお戻りください。それ以降も、探索を続けていますと救援部隊が動く事になります」

 しかし、管理人である職員はそんな疑問を顔には出さず、ただ淡々と処理を進める。


「どうぞ、お気をつけて」


*************************************


「おい、ウォーレン。……なんで10階層からじゃねぇんだ?」

 管理人が感じたものと同様の疑問をギルベルも感じていた。

 ここに来る以上、上限の10階層で訓練を行うものだと思い込んでいたからだ。


「がむしゃらに強い魔物と戦う事が、強くなる事とイコールであるとは限らないんですよ」

 淡々と先を進むウォーレンの足取りに迷いはない。

 釈然としない想いを抱きながらも、ギルベルは彼に続いた。


 しばらく歩いていくと、二人は魔物に遭遇する。

 彼らの間に緊張感は欠片もない。

 遭遇した魔物は迷宮最弱のワイルド・ドッグ。

 群れではなく、単体との遭遇のため、本当にこの迷宮の最弱レベルの相手だ。


「では、ギルベル。一太刀でお願いします」

 ウォーレンの言葉に苛つきながらも、ギルベルは前へと足を進め、背中の鞘から大剣を抜き、そのまま上段から叩きつけた。

 ワイルド・ドッグは抵抗する間もなく、その生命を散らす。

 特に意識をしなくてもこれぐらいは息を吸うように出来る。

 ギルベルは不満を宿した目線をウォーレンへとやる。


「……ギルベル。あなたの剣は大雑把過ぎるんですよ。ワイルド・ドッグという格下相手にすら、満足に剣を振れてはいない」

 ギルベルが言葉を口にするよりも早く、ウォーレンがその戦闘を評価する。

 ギルベルは何を言われたのか良くわからなかった。

 戦闘の結果は剣一振りでの勝利。

 それ以上の結果があるとは彼には思えなかった。


「……意味がわかんねぇよ」

 ギルベルは力なく言葉を返した。

 確かに彼には自身の剣が雑であるとの自覚はあった。

 特にここ数日はウォーレンと剣を合わせているため、その事を否応なしに感じさせられる。

 しかし、そんな事が戦闘に大きく影響するとは思えなかった。


「次の獲物がやってきたら、あなたへ補助魔術をかけます。少しだけ力を抜いて剣を振ってみて下さい」

 それだけで何かが分かるなら、苦労はしないとギルベルは思った。

 魔術の知識に疎い戦士科の生徒でも補助魔術に関する知識はある。

 それがPT戦で最もよく彼らに対して使われる魔術だからだ。

 ギルベルは補助魔術があまり好きではなかった。


 1年次に科を越えてPTを組み実習に当たるという授業があった。

 そのPTで前衛を務めたギルベルには補助魔術がかけられたが、とにかく相性が悪かった。

 自分が動きたい方向とは違う方向に力がかかったり、予想外の勢いで身体が動いたりと、散々だった。

 ギルベルのような感想を抱く者は少なくない。

 実力が高ければ高いほど、自分の感覚に"異物"が紛れるのが分かるようになるのだ。


「……分かった」

 だが、ギルベルはそんな事をここでは口にはしなかった。

 何より目の前の男は自分より強い。

 そして、おそらく補助魔術に特化した魔術師なのだろう。

 でなければ、細い体躯で彼を圧倒する動きは出来ない。

 ギルベルは補助魔術ではなく、目の前の男――ウォーレンを信じた。


*************************************


 血の匂いに惹かれたのか、獲物はすぐにやってきた。

 それは、先ほどと同じワイルド・ドッグ。


 ギルベルは、少しだけ息を吐き、ウォーレンの言葉に従い、脱力した状態で剣を振るう。

 その剣に勢いはあまりない。

 先程は一太刀でその身体を断ち切ることが出来たが、この勢いではそれすらもままならないとギルベルは思った。

 補助魔術の効果はあまり現れているようには思えない。

 剣は鈍さを残しながら、ワイルド・ドッグと接触をする。

 瞬間、ギルベルはかつてない手応えを自身の剣から感じとった。

 いや、正確に言えばワイルド・ドッグを斬ったにしてはあまりにも手応えが"なかった"。

 刀身はそのままワイルド・ドッグの身体をすっと通り抜け、文字通り一刀両断した。


 大剣という武器はそもそも、切ることについてはあまり主眼を置かれていない。

 それはその質量を武器に相手に叩きつけるような使い方をする事が多いからだ。

 だから、ギルベルは想像したことすらなかった。

 自身の持つ大剣が抵抗なく物を斬り裂ける程度の性能を持っている事に。


「おい、どんな魔法をかけたんだ……?」

 ギルベルが普段振るうよりも、剣速はむしろ遅かった。

 しかし、剣に鋭さを持たせるような、そういった性能を付加する類の魔術は施されていないと直感で分かった。

 自身の手には紛れもなく、自身が斬り裂いたという感覚が残っていた。

 まるで、キツネに化かされているかの様な気分だった。


「剣先の当たる角度や、その他もろもろを切り裂きやすい方向へと微調整しました。まぁ、ほんとど感じなかったとは思いますが」

 事も無げに言われたその言葉を頭の中で反芻する。

 今まで何千、何万と剣を振り魔物を切り裂いてきたが、あんな感覚は初めてだった。

 おそらく闇雲に剣を振っていても、辿りつけない事が今その身に起きた。


「魔物には当たり前の話ですが、骨格があります。その脆い部分や、硬い部分が当然存在します。その周りを覆う筋肉や表皮、それらも多角的な視点から見れば様々な性質を持っています」

 ギルベルはウォーレンのその一言一言を真剣に聞いていた。


「効率よく相手を倒すためには、結局はそれらの要素を把握して、自身の持っている手札を上手くぶつけていくしかないんです。大剣だから叩き潰すに近い形で剣を使わなくてはいけないと言う事はないです。剣なのですから当然、切り裂くや突き刺すといった選択肢もあって良いはずです」

 確かにギルベルは初めの一匹を斬った時、ただ漠然と殺す事だけ出来れば良いと考えていた。


「言っていることはなんとなく分かる。今回、取った選択肢が切り裂くだったとして、なんであんなにもすんなりと斬れたんだ?」

 彼はその具体的な内容が知りたかった。


「斬るという事を考える時、効率の良い斬り方というものがまず存在します。筋肉であるなら繊維を横断するように切り裂くよりも、筋に逆らわず切ったほうが良い。この辺りは植物の繊維なんかと概念は一緒です。さて、一番固い骨ですが、逆に言えばこの骨を断ち切る瞬間にさえ力を使えば、割りと上手く行くんですよ。つまり、筋肉を断ち切った後、骨に達した瞬間に僅かに剣を引くんです。後は剣に加わった慣性がそのまま切り裂いてくれます」

 この話を聞いた時にギルベルが思った事は、自身の認識の甘さだった。

 今まで、たかが剣の一振りにそこまで考慮した事はなかった。

 目の前の男とギルベルでは世界の認識の仕方がそもそも違った。


「この考え方は上位の似たような個体に遭遇した時に非常に役に立ちます。ワイルド・ドッグの似たような上位の個体でしたらブラッディ・ドッグでしょうか。それぞれ個体を別々のものとして認識するのではなく、ブラッディ・ドッグはワイルド・ドッグの延長で、様々な別の特性が加わっていると考えるんです。そうすれば、今ここで相手にしている低級のワイルド・ドッグも立派な練習材料になります。なので、まずは1階層の魔物から特性を把握して行きましょう。あなたが認識できる限界の深さまで」

 ウォーレンが示した道は途方もない道のその一端。誰もが常識を疑うような話のほんの末端。

 しかし、彼はその常識を疑うような話の体現者だ。

 おそらく、この迷宮にいる全ての魔物について、その外見から内部骨格、筋肉の質や動きの特性、果ては血の流れまで把握しているのだろう。

 ……自身の魔術とは、あまり関連性がないものまで把握している事が、彼にとっての当たり前なのだ。


「もちろん、今話したのは基本的な技術であって、あなたの学ぶことはまだまだ山ほどあります。……もしも、頂点を目指すのであれば」


 その言葉にギルベルはウォーレンを見据えて、深く頷いた。

ヒロイン達はフェードアウト、ずっとギルベルのターン。

このままこの二人で、どこまでも行けそうで怖い。

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