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アーティフィシャル・2nd・ライフ  作者: 藍瑳
第Ⅱ章

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二五.物流倉庫

※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません※※

 クロエと珂糸(かいと)は、カリスマジェンジーの行方が途絶えた絹田(きぬた)公園の噴水に来ていた。

 広大な敷地を持つ絹田公園は昼下がりの時間帯もあってか、子供連れの親やスーツを着た会社員、公園の管理職員など多くの人が行き交っていた。

 クロエはベンチに腰掛け、携帯電話を閲覧するフリをして辺りの様子を窺っていた。珂糸はクロエからすこし離れた場所で缶コーヒーを手にし、休憩中のサラリーマンを装った。


 やがて噴水の北側に若い男が現れ、誰かを待つように立ちつくした。


(あ、ちょっと、あれじゃない?)クロエは珂糸に視線を送った。


 男は現場作業員のような作業服を着用した、褐色のアジア系外国人だった。その首元にはクモの巣のタトゥーが大きく入っていた。

 アースタイガーらしき男は10分ほど噴水付近で待機したのち、ポーションセブンが待ち合わせに現れないものと判断したらしく、公園を出て行った。


 クロエは珂糸に目配せし、距離を置いてその男を追った。男は公園の外に出ると道路を公園の外周フェンスに沿うように歩きながら半周し、再び元の場所、つまり噴水から公園のフェンスを挟んでちょうど真裏に位置する広い敷地に入って行った。

 敷地は資材置き場のように至るところに角材が積み上げられ、少し奥にプレハブで出来た仮設事務所らしき小さな建物が建っていた。

 絹田公園と地続きの敷地を隔てるフェンスには非常用の門扉が付いており、事務所のある()()()から南京錠が掛けられていた。


(なるほどね。この非常用フェンスから資材置き場を経由して公園の外に連れ出したわけね。…セキュリティカメラに写っていないはずだわ。)


――クロエがそう思った時、携帯の呼び出し音が鳴った。ハンドウからだった。


一美(ひとみ)のメモを解析しましたところ、どうやら輸送に使用する海上コンテナの識別番号のようでした。データベースによると、当該コンテナは現在大黒ふ頭付近の物流倉庫にあり、明日早朝からの船積み作業に向けて、今夜バンニング(荷積み)が行われるものと思われます。」

「そのため、現在健をリーダーにアスカ、キリコ、ハヤト、有生(ゆい)の5名にコンテナの調査および倉庫周辺の張り込みに向かってもらっています。」


「ああそうなの。わかったわ。珂糸さんとの用事が済んだらすぐラボに戻るわね。」

 クロエがそう言うとハンドウは了解しました、と答えた。続けて、あ、それからと言って付け足した。


「一美海運について、新たな事実が判明しました。彼らは2か月前、ダルカ産業という外資系企業と資本提携を行い、事業を合併していたようです。そのため、一美の事業はダルカ産業が引き継ぐことが予想されますが…ただ…この会社、犯罪とは無縁の()()()な一般企業のようです。」


「…え?なんていう会社?もう一度言って?」


「――ダルカ産業株式会社です。」


クロエは敷地内のプレハブ事務所に目をやった。その壁面には「ダルカ産業株式会社」と手書きで書かれた看板が建て付けられていた。




「情報を整理するわね。」

 クロエと珂糸はIKGへ戻るハイヤーの中にいた。


「うちが兼ねてから人身売買の調査で追っている一美海運という会社が、2か月前に事実上合併した会社があった。それが、ダルカ産業株式会社。そして、ダルカ産業の社員とみられる男『アースタイガー』が、珂糸さんが探している『カリスマジェンジー』の失踪に関与していた、ということね。」

 珂糸は真面目にクロエの話を聞いていた。


「ところが当の一美海運はつい先日、外国の言葉を話す何者かに襲撃されて壊滅したのよ。」

「…ダルカ産業の仕業だったと?」珂糸が口を開いた。

「いいえ、その線は薄いわね。一美社長は、超がつくほど人を信用しない男よ。ダルカ産業のことは、表と裏の顔までしっかり調べ尽くして、裏切りなんてさせないはず。」


「海運のヤミを仕切っている一美がカタギのダルカ産業と合併したっていうことは、きっと何か目的があったに違いないわ。それをよく思わない連中が一美を消したとして…。」

「このタイミングであの犯罪組織に何らかの形で関係しているってことは…カリスマジェンジーは、公安が追ってる()()()か何か?」

「いいえ、違います。」珂糸ははっきりとした口調で明言し、少し黙り込んだ。


「…カリスマジェンジーが犯罪に関与していたとしたら…実行側であるよりも…むしろ()()()()である可能性が非常に高いです。」

 珂糸は注意深く言葉を発しながら、上目遣いでクロエを見つめた。


「…例えば人身売買だとしたら、その()()()がある人だ。」


 クロエはまさか…と言いかけて、止めた。




 健、キリコ、ハヤト、アスカは、大黒ふ頭にある物流倉庫の近くに駐車した中型トラックの荷台の中にいた。有生(ゆい)は運転席に座っていた。

 トラックの荷台部分は作業部屋のような造りに改造されており、テーブルといくつかのテレビモニターが設置してあった。モニターには、傍受された物流倉庫の監視カメラ映像が映し出されている。


 倉庫正面にある大きなシャッターは下りていて、倉庫内では車寄せ用の高床式プラットフォームにスチール製の海上コンテナを積んだトラックが1台停車していた。コンテナの扉は閉じられていた。幹線道路を走行しているとよく目にする、なんの変哲もない海上コンテナトラックのように見えた。


「車が来ました。」

 付近の道路画像を監視していたハヤトが告げた。

 やがて倉庫の前に黒塗りのセダンが3台到着し、中から黒いスーツを着用した強面の男たちが総勢6名降りてくると、シャッター脇のアルミドアから倉庫の中へ入っていった。時刻は午前0時を回っていた。


 クロエと珂糸、ハンドウはクロエのラボから同じ倉庫内の映像を視聴していた。


 監視カメラの映像では、6名のスーツ集団がトラックの横に立っていた。そのうち一人が何かを言うと、プラットフォームの奥のほうから作業服を着た5名のアジア系外国人と思しき男たちがやって来た。

 スーツ集団の先頭に立っていた男は外国人らに向かって、何やら一方的に言葉を発していた。

 すると、外国人の一人が胸元からおもむろに銃を取り出しかと思うと、前置きもなくスーツの男を撃った。


 スーツ姿の男たちは慌てたように何かを叫びながら散らばったあと、各々の上着から銃を取り出し、外国人らに応戦し始めた。

 

 突然、倉庫内で撃ち合いが始まる様子をモニターで見ていたクロエは「なあに?これ。…何が始まったの?」とつぶやいた。


 作業服姿の外国人たちはみな、サイレントガンを使用していたが、スーツの男たちは拳銃をミュートせずそのまま使用していたため、健たちのいるトラックまで乾いた銃声が聴こえていた。


「おそらく通報される。その前にコンテナの中身を確認しよう。アスカ、有生は俺と一緒に裏口から、キリコとハヤトはそのままモニターと正面を監視。」

 健が素早く指示を出すと、キリコとハヤトは了解、と返した。


 健はアスカと有生を連れてトラックの外へ出ていった。


アーティフィシャル・2nd・ライフ©2025

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