【スピンオフ・恋愛編】Ⅵ.温泉にて
*スピンオフは恋愛ストーリーのみ、アクションはありません。(本編の続きはスピンオフ・恋愛編のあとに順次掲載していく予定です)*
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません
昌磨、スカイとは、凛がアスカと岩山へ出かけてから約8時間後に温泉付近で待ち合わせしよう、と約束していた。凛は車いすに戻り、アスカと並んで歩いていた。
昌磨たちは先に到着しており、スカイの隣には、目鼻立ちが整った美しい女性が立っていた。女性はアスカに気づくと笑顔になり、大きく手を振った。
「あーアスカ先輩だーやっぱり!どこにいたんですかぁ?探したんですよー」
「お、小辻さん、お疲れ。」アスカは笑顔で声を掛けた。
「こちら、アリーさん。アスカ君に会いたいって言うから、連れてきたよ!」
スカイは連日、主として女性参加者に声を掛けて回り、宝探しを手伝ってあげていた。アリーと知り合ったのはつい数時間前のようだった。
「そう、この外人さんから、シェフみたいなミリタリーガイと友達になったよーって聞いて、きっとそうだと思ってたんです。あぁ来てよかったー!」
アスカの後輩である小辻アリーは、アスカに再会できて大層浮かれているようだった。
「あのー、アスカ先輩にお願いがあるんですよぉ。すぐそこの岸から手漕ぎボートで30分くらい行った離れ小島に、お宝があるそうなんですよー。」
「私行ってみたいんですけど、先輩、一緒に付いて来てもらえませんかー?」アリーは一方的に用件を伝えた。
アスカは「ひとりで行けないの?」と、凛とは全く正反対の態度を見せていた。後輩相手に、ずいぶんな塩対応だなと昌磨は思った。
「日没までには、戻って来られると思いますんでー」アリーは手を合わせ、甘えるように懇願した。
アスカはちらりと凛を見た。凛は「行ってきなよ。ごはん、作って待ってるよ。」とまるで家族と会話でもしているかのような口ぶりで返した。
「よし。今日は最後の夜だし、アスカ君みたいには出来んが、どうですか、みんなで食事でもしませんか。」
昌磨はアスカとアリーを交互に見ながら言葉を掛けた。
「あ、私は遠慮しておきます。ほら、最後の夜なんで。」
アリーは昌磨の誘いを良く分からない理由、且つ事務的な態度で断った。
「そうですか、では良い夜を過ごしてください」
昌磨が笑顔でアリーに告げると、すかさず「あ、昌磨さん、俺は後で行きますんで。」とアスカが真面目な顔で答えた。アリーは少しいじけるような表情を見せた。
「あは!じゃあ、まずはみんなで仲良く温泉につかろうよ!」
スカイが場の空気を変えるかのように明るい声で提案した。
「あー、車いすの女性ですよね、私が入浴介助しましょうか?こう見えて自衛隊員なんで、慣れてますよー」
アリーが凛に向かって声を掛けた。
「ありがとう、お願いします」凛はお言葉に甘えることにした。
一同は水着になり、男女それぞれ離れた場所で湯に浸かった。
アリーは引き締まった肉体美を強調するかのようなビキニを着ていた。スカイはアリーの水着姿を離れた位置から眺めると、わぉーと声を出さずに言った。
凛は簡単に脱着できるタイプのワンピース水着を着用していた。凛が滞在中ずっと履いていたチノパンを脱ぐと、細く湾曲した足が露わになった。
「足、隠しますか?」アリーは凛に尋ねた。
「ううん、大丈夫。『あるがままを見る』のが、自然科学。」凛は堂々と答えた。
「メンタルつよーい」と言ってアリーが笑うと、凜は「うん、わたしは強いよ。」と笑顔で返した。
温泉は視界の開けた岩場に子供用プールのような浅い外湯が広範囲にわたって広がっていた。
ちょうど他のサバイバル参加者も居合わせていたが、アリーと凛に気を使ってか、離れた場所で視線を逸らしながら入浴していた。
アリーは凛に向かって、「アスカ先輩、優しかったんじゃないですかー?あの人、障がい者には特に親切なんですよー。」と言葉を掛けた。凛はそうなんだ、とつぶやき、「ねぇ。アスカ君と、キスしたことある?」と唐突に質問をした。
アリーは一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに「やだぁーなんで聞くんですかー?私たち、そんなにお似合いですかー?」と照れてみせた。そして、「ここだけの話、まだなんですけどぉ、多分、間もなくだと思いますー。」と小さな声で耳打ちした。
凛は(誰にでも親切だけど、誰とでもキスをするような人ではないんだ)と思った。
―
(さっきは大事なシーンを邪魔しちゃったから、少し遠巻きに観察することにしましょ。)
クロエはドローンからの映像を眺めながら思った。そのとき、コンコンコン、と誰かが船のドアをノックした。
「天城さま、お休み中のところすみません。…先ほどから、やはり携帯電話に何度もお電話が入って来ているようでして、お知らせに参りました。」道端の声がした。
「あーごめんなさい、いま行くわー」とクロエは返事をし、ん?とパソコン画面を覗いた。
そこには、アスカがアリーと一緒に手漕ぎボートに乗り込んでいく姿が見えた。
(なによこの子、凛にモーション掛けておきながら他の子とお出かけ?プレイボーイなの?)
「…悪いけど確認させてもらうわよ。」
クロエはドローンの追跡対象をアスカの顔に設定し、パソコンを閉じた。
クロエがボートハウスに戻り携帯を確認すると、50件以上の着信が入っていた。IKGのエージェントからだった。
(あら、緊急だったのかしら?)クロエは折り返した。
「あー!クロエさん、やっと繋がった!助かります!」声の主はほっとした様子だった。
「ごめんなさいね、ちょっと取り込んでまして。どうしたの?」
クロエはゲストハウスのポーチまで歩いて出ると、会話を続けた。
「実は、昨晩ハンター・プロフェッショナルという会社に潜入したんですけど…用意していたカードキーが突然反応しなくなって、閉じ込められてしまったんです。」
「カードキーって、社員証?」
「はい、深夜の清掃担当者のIDカードです。」
「ああー、きっとそれ、利用できる時間に制限が掛けられていたのね。」
「今は清掃しているフリをしてカードが無くても入れるところを行ったり来たりしているんですが…怪しまれるのも時間の問題かと。」
エージェントは焦燥しきっていた。クロエは落ち着いて、大丈夫よ、と言った。
「誰でもいいんだけど、社員の名前とID番号を入手してくれない?カードキーに紐づけされてる社員情報を書き換えてみるわよ。」
社員は了解です、と答えた。
「ところであなた、何しにそこに行ったの?」クロエはそれとなしに尋ねた。
「クライアントから武器デザインを盗用されたと相談があって、証拠確保のために設計課に侵入したんです。」
「武器?…もう一度、なんていう会社?」
「ハンター・プロフェッショナル・インスティテュートです。」
クロエは振り返り、ゲストハウスのリビングに目を向けた。
そこでは道端が役員たちと談笑しており、着ている黒いTシャツには、大きく「HPI」とロゴが入っていた。
「あら、ちょうどよかった。社員情報は入手しなくても良くなったわよ。」とクロエは言った。
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