表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーティフィシャル・2nd・ライフ  作者: ジョウ
第Ⅰ章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/46

二一.潜入捜査Ⅱ

※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません※※

 「あいつ、遅ぇな。」と、一美(ひとみ)海運の社員がつぶやいた。


 ダイニングルームには、アスカとその男しかいなかった。

「そういや一服しに行った奴らも、帰ってこねぇな。」男が言うと、アスカは目配せして後方デッキにいたハヤトを呼んだ。ハヤトがダイニングルームへ入って来ると、アスカは「デッキの人にドリンクラストオーダーですけど飲み物要りますか、って聞いてきて。」とハヤトに告げた。


「兄ちゃんちょっと待ってて。」

 社員が地下一階へ行こうとすると、アスカは「俺も行きます」と言い、後に続いた。


 社員とアスカが階段を下りて地下一階のプレイルームへ着くと、麻雀をしていたはずの4名と、倉庫へ向かった1名を加えた5名の社員全員がその場で頭から血を流し、死んでいた。


 一美海運の社員は「なんだこれ!おい!どうなってんだよ!」と叫び、咄嗟(とっさ)に壁に飾られていた脇差(わきざし)を手に取ると、慌てた様子で階段を上って行った。


 その時、

 ――――ガタン!


 と音がし、船内の明かりが一斉に落ちた。クルーズ船はみるみるうちに暗闇の中に吸い込まれた。


 アスカは視界が真っ暗になった途端、テーブルに身を隠した。するとハヤトから音声通信が来た。



「アスカさん、一階のフロントデッキに出ていた4名、ならびに操縦席にいた1名の一美の社員が撃たれて死んでます。」


 アスカは了解、と言うと続けて「こちらも地下一階で社員5名が射殺されています。キリコさん、無事ですか?」と発信した。ピアスを二回タップする音がした。

 キリコ、ハヤト、アスカの耳の軟骨に着けられたピアスは軟骨伝導タイプの通信機だった。声を発することが出来ない状況では、はいの場合は2回、いいえの場合は1回ピアスをタップすれば、返答の代わりとなった。


「データ収集のほうは?」アスカが尋ねると、ダブルタップの音がした。


「了解す。おそらく一美が襲撃に遭っています。的になるからライトは付けないで。各自、身の安全を確保しつつ、応戦せずすぐに退避してください。有生(ゆい)さんの待つボートに集合。各自ただちに退避してください。」

 アスカは早口でそう伝えた。



 ハヤトが了解、と答えると、最後に一人だけ残っていた一美海運の社員が後部デッキから船縁(ふなべり)を通りこちらへ向かって走って来るのが見えた。男は片手に持った携帯から、ライトをかざしていた。


「おいやられてんのかよ!生きてるやついるかー?」

男はデッキに横たわる他の社員に声をかけたが、全員死んでいると分かると「ちっくしょう!ちっくしょう!」と叫んだ。続けて社長…、とつぶやき二階へ向かおうとした。そして暗闇の中で「おい!てめぇ!ぶっ殺して…」と凄んだ声を発した後、ドスン、と床に倒れる音がした。


 ハヤトは明かりが落ちてすぐに、一階のフロントデッキにある操縦席に身を潜めていた。

 デッキで5人、地下で5人、今の1人で11人、これで残るは一美社長だとすると、襲撃しているのは一美の社員ではない人物、それも単独あるいは少数での襲撃だと思われた。


 やがて暗闇の中でカン、カン、カン、と襲撃犯が階段を上がっていく音がした。ハヤトは咄嗟(とっさ)にキリコを助けなければ、という予感がし、光を放ったまま床に転がっている携帯と、そのすぐ近くに見えた脇差を手に取った。



 キリコがクローゼットの隙間から一美(ひとみ)の死亡を目撃したところで、船内の明かりが一斉に落ちた。キリコは再びクローゼットの中に身を潜め、周囲の様子を(うかが)った。

 ちょうどアスカからクルーズ船が襲撃されているようだから速やかに退避せよとの指示が来た。キリコはそっとクローゼットから出て、ドアに手を伸ばした。

 キリコが取っ手に手をかけたその時、足元に転がっていたらしい鉄パイプに足を取られ、思わず(つまづ)いた。キリコは転ぶように前のめりになって膝をつき、その姿勢でドアを開けた。

 するとその瞬間、暗闇の中で誰かが真正面からサイレント銃を撃ってきたような音と共に、ガラスが割れる音がした。

 部屋の奥の壁に掛かっていた額縁に弾が当たったようだった。立ったままでいたら、撃たれているところだった。キリコの全身に緊張が走った。


 狙撃手は、明らかに二階フロントデッキ、つまりキリコの真正面にいるようだが、辺りは真っ暗で何も見えなかった。キリコが身を低くしたまま素早くドアを出ると、階段の下から「姉さん!」とハヤトの声がした。


「来るな!」とキリコが叫ぶのと同時に、後方デッキでドン!と大きな爆発音がし、船が大きく揺れた。


 すると船尾から火柱が立ち上がり、辺りを明るく照らした。ハヤトは階段の下から顔を出し、キリコへ向かって床の上から脇差を滑らせた。キリコが目の前を見ると、前身黒ずくめの人間が揺れに足を取られよろけているのが見えた。


 キリコは素早く、脇差を拾い上げる動作につなげて低い体勢のまま円を描くように二回転し、狙撃手の足首を切りつけた。狙撃手はぎゃあああ!と断末魔のごとく悲鳴を上げた。そしてどこかわからない外国の言葉で何かを叫び、慌てて海に飛び込んだ。


 キリコは追いかけようと立ち上がったが、ハヤトが後ろからキリコの手を引っ張り「姉さん、行きましょう!」と叫んだ。

 二人は走り、船の左舷から同時に海へ飛び込んだ。船はさらに勢いよく燃え上がり、火の粉をまき散らしながら沈んでいった。




 有生(ゆい)は、一美海運のクルーズ船から西の方角に400メートルほど離れたところで小型ボートを待機させていた。


 先ほどの緊急退避の指令から20分が経過していた。そろそろ誰か到着するかもしれない、と思い、ペンライトを手に持って海へ向かって点灯、消灯を繰り返した。

 やがて真っ暗な水面からアスカが顔を出した。有生は「お疲れ様です」と言い、ボートに上がったアスカにバスタオルを差し出した。

 アスカはあっす、と短く礼を言うと、めずらしく神妙な面持ちでハヤトとキリコを待った。

 十分ほど経って、ハヤトが到着した。アスカはほっとした表情でハヤトを引き上げた。「キリコ姉さんももう来ます」とハヤトが言うと、アスカはようやく笑顔になった。

 ほどなくしてキリコが到着すると、有生がバスタオルの他にTシャツとチノパン、それから事前に各自で用意してもらっていた下着の着替えを渡した。三人は周囲をまったく気にする様子もなく、その場で全裸になって着替え始めた。


 有生はペンライトを消灯し、暗闇で良かった、と心底思った。自分が赤面していることも、バレなくて良かった、とも思った。


式呉島しぐれじままでは、2時間くらいです。」有生はボートのエンジンをオンにした。


アーティフィシャル・2nd・ライフ©2025 ジョウ

本作品の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ