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アーティフィシャル・2nd・ライフ  作者: ジョウ
第Ⅰ章

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十三.エージェント試験Ⅱ

※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません※※

 「第四試合は薩摩(さつま)ハヤト社員 対 宇良野(うらの)アスカ社員、種目は射撃です。」とアナウンスが流れた。射撃はジムの壁寄りのスペースを競技エリアとしていた。

 てっきりハヤトが二種目に柔道を選ぶと思っていたクロエは、心に暗雲が垂れ込めたような気がした。


(ちょっとぉ…ハヤト…大丈夫なの?)


(アスカ、元自衛官だけど?)


 ハヤトは実技試験を少しでも有利に運べるよう、あらゆる種目を一通り試してみた。結果、自分は射撃で最もハイスコアを狙えそうだということが分かり、選択することにした。



 愛脳警護(IKG)は民間企業につき、社員が銃や刀などの武器を所持して業務にあたることは違法となり不可とされていた。また人間を殺傷した場合、民間人と同様に傷害や殺人などの罪がそのまま本人に課せられた。

 そのため、警察官や自衛官と同じ場所に居合わせたとしても彼らの武器に触ることは決して許されず、正当防衛が成立しやすい徒手(としゅ)での格闘が基本となっていた。

 ただしオフレコではあるが、万が一紛争に巻き込まれた場合は()()武器を使用して応戦することが暗黙のルールとなっていた。

 その流れを汲み、社内では海外で多用されている拳銃とその性能を模したレーザーピストルを用いて射撃訓練を行っていた。ちなみにレーザーピストルは、銃の構造をはじめ重さや弾道、発砲した際の衝撃まで本物と同じになるよう造られていた。


 射撃は10メートル先にある的を狙ってレーザーピストルを5秒以内に10発打ちこみ、的の中心か弾着点までの距離の平均値で勝敗が決定した。

 ハヤトとアスカは開始位置に立ち、G19とテプラが貼ってあるレーザーピストルを構えた。審判はおらず、機械音のカウントダウンがピッ、ピッ、ピッ、ポーンと響いた。

 音はしなかったが、二人が引き金を引くたびに銃がぴくっと揺れた。ハヤトが先に撃ち終わり、用意されていたテーブルの上に銃を置いた。ほどなくアスカも撃ち終わりテーブルに銃を置いた。結果を告げるアナウンスが流れ始めた。


「ターゲットからの距離平均値は薩摩ハヤト社員1.0センチ、宇良野アスカ社員0.8センチ。宇良野アスカ社員の勝利です。」


 会場内が、ざわついた。会場にいた誰もが、ハヤトが三敗して失格となるであろうと予想した。ジム内に用意されているリングからして、ハヤトとアスカの最終試合はムエタイだろうと容易に想像がついたからだった。

 ハヤトはそんな会場の雰囲気を肌で感じ取っていたが、(まだあと一戦ある。最後まで諦めずに戦わなきゃ。)と自分に言い聞かせた。



「第五試合は薩摩キリコ社員 対 永栖(えいす) 青空(ブルースカイ)社員、種目は総合格闘技です。」とアナウンスが流れると、またしてもギャラリーがざわついた。この試合はスカイからの指定種目だった。キリコとスカイはリングに上がり、審判からルールの説明を受けていた。

 説明の途中、スカイがキリコと審判に「キリコさんのお顔を傷つける訳にはいきませんので、僕は彼女の顔への攻撃は一切行いません。」と言うと、審判はそれがいいでしょう、と(うなず)いた。

 するとそれを聞いていたキリコも「分かりもした、そいでは(あたい)も、おはんを殴らないこちしもんそ!」と威勢よく言った。

「ということは、寝技で20秒間相手の動きを止めたほうが勝ちですね!」とスカイが明るく言うと、キリコは「そやすずらん先生に教わったばっかいですよ!」と笑った。スカイは「あは!」と相槌を打ったが、何のことだかよく分かっていなかった。


 審判が一歩下がり、「はじめ!」と声を発するとスカイはレスリング選手のように、手を広げ肩の少し前に出して構えていた。キリコも、同じように構えていた。キリコとスカイは向き合って少し距離を取ったまま、しばらくけん制し合っていた。

 やがてスカイが手を伸ばし、キリコ両手のひらを自分の両手のひらで握り合うように掴んだ。スカイは力を込めてそのままキリコと押し合いながら間合いを詰め、足へタックルを入れようと考えていた。


 キリコは掴みあっていたスカイの両手を外側からくるっと裏返しててのひらを上向きにすると、腕の下に体をくぐらせて向きを変えた。両腕が捻じれた状態でキリコに引っ張られたスカイは、痛みに耐えきれず「アウッ!」と叫びながら体を反転させ、仰向けでマットに倒れ込んだ。合気道の転回小手返しという技だった。


 キリコが抑え込み技をかけようと近づくと、スカイは床に寝転がった体勢で足を延ばし、キリコの正面からキリコの腰を両足で挟み込んで柔術のクローズドガードのポジションになった。そこから三角絞めなどの絞め技へ展開し、20秒間キープできれば勝ちが見えた、はずだった。


 キリコはマットの上に座り込み、顔を向かい合わせた状態でスカイの両脚の間に閉じ込められていた。やがてスカイの目を見つめながら、にっこりと笑った。スカイはキリコに(うる)んだ瞳で微笑みかけられ、思わずドキッとした。この角度から拝むキリコの顔も、相変わらず美しいと思った。

 キリコは何を思ったか髪を結っていたゴムを外し長い髪を下ろすと、上体を前に倒してスカイの顔に自分の顔を近づけていった。キリコの髪からほのかに甘いシャンプ―の香りが漂うと同時に、スカイは迫って来るキリコが自分の意識の中で対戦相手から妖艶な女へ変わっていくのをはっきりと感じた。


 キリコはそのまま覆いかぶさるように上半身を前に折り、スカイの首に手を回して抱きつきながら耳元で何かをささやくと、耳の中に舌を入れて舐め回した。スカイは一気に表情が緩み、火が付いたように顔を赤らめた。そして顔と同様に身体の力が抜けた一瞬の隙に、キリコはスカイの足からするりと抜け出し、スカイの足を取ってアキレス腱固めをした。


 スカイはさらに顔を赤らめ、自分の()()()抵抗できる状態にないと分かるとマットをタップした。審判がサブミッションの判定を下し、キリコの勝利を言い渡した。スカイは紅潮した顔で大きくため息をつきながら「オー、ボーイ…(やれやれ)」と力なくつぶやいた。


 「色」が戦闘に与える効果を初めて目のあたりにしたギャラリーの社員たちはただただ驚き、感心する声を上げていた。



 キリコは愛脳警護(IKG)始まって以来、格闘実技試験に「色」を使って勝利した初めてのコンバットとなった。

アーティフィシャル・2nd・ライフ©2025 ジョウ

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