35話 内なる力
ティナは基地の様子を伺っていた。
「確かにかなりの数だ。下手に見つかれば一瞬でやられるかもしれない。だけど、不意を突いて1人ずつやれば問題ない。」
すると2、3人の民兵が入り口付近を巡回してきた。
「私が持っている武器はナイフ2本とほとんど使ったことがない、拳銃。だけど拳銃は論外だ。音でばれてしまう。だったらいつも通りナイフしかないか。」
1人の女が単独になった。
「あいつからならやれそうだ。」
ティナはしゃがみながら女に接近した。
手際よく背後に回り、喉元を切り裂いた。
そして2人の後をゆっくりとつけた。
「おい、1人はぐれていないか?」
「あいつはいつも単独で行動することがあるからな。俺が見てくる。」
「まずい。こっちに戻ってきた。やるしかない。」
男は懐中電灯で回りを照らしているとさっき殺した女の死体が視界に入った。
「お、おい!やられてるぞ!」
ティナは男の腹部を殴りそのまま同じように喉元を切り裂いた。
「あぶなかった。叫ばれると非常に厄介だ。死体は常に隠さないといけないかもしれない。」
ティナは死体を物陰に隠そうとした時だった。
何者かが背後から首を絞めてきた。
「ぐっ…。」
「何者だ。お前は。」
さっきいた3人のうちの1人だった。
私よりも一回りも大きかった。
ティナはすかさず、肘うちをした。
だけど全くと言っていいほど効いていなかった。
「やりがったな。全然効かねぇな。それに『ネクサス』か?お前。」
「…。」
「悪いけどあんたの相手をしている暇はない。」
ティナはナイフを両手に構えた。
「ほぉ。物騒なものを持っているな。そこの仲間をやったのはお前だな。」
「そうね。あんたもこれからこうなる。」
「そいつはどうかな?」
男は素手で構えた。
「舐めやがって…。」
「どうした?来いよ。」
ティナは踏み込んだ。
「動きはなかなかいいな。だがな!」
大柄の男はティナの腕を持ち吹き飛ばした。
「くっ…!なんて腕力なんだ…。」
「随分と飛んだな。1人で乗り込んできたのか?」
「そうだ。こんな基地ぐらい私1人で十分潰せると思ってね。」
「笑わせるなよ。ガキが。」
男は拳銃を上空に発砲した。
するとぞろぞろと仲間が集まってきた。
「おい、この音はなんだ?!」
「あいつ仲間を呼ばれたようだな。」
「なにやってんのティナ!」
「行くな。あいつの戦いだ。手出しは許さん。」
「くっ…!」
「さてと、仲間2人を殺した報いを受けてもらおうか。一気にやっちまえ。」
民兵たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「こっちの方がやりやすい。いつも通りって感じでね。」
ティナは華麗な動きで次々と切り刻んだ。
「こいつ素早い…。見かけによらず強いぞ。」
「なかなかやるなお前…。その動き只者ではないな。」
「はぁ…はぁ…。流石にこの数相手だとかなりきつい。能力が使えないというだけでこれほどまでとは…。だけど能力に頼らなくても私はやれる…。」
しかしティナの動きが最初と違い明らかに鈍くなっていた。
「これでもくらえ!!」
ナイフでティナの肩を切りつけた。
「やばい…。まともに受けてしまった…。」
肩を押さえ左腕がまったく使えなくなった。
「ここまでのようだな。俺が止めをさしてやる。」
大柄の男は拳を握りしめ、振りかぶった。
「やられる…。」
するとティナの体が光りだした。
(なにこの感覚は…能力とはまた違う何か…。そういえば前にもこの感覚を味わったことがある。もう無理だってときに急に力がみなぎってくる感覚。」
ティナの目つきが変わった。 その瞬間目の光が消えた。
「何だ…こいつの目は…。」
大柄の男が振りかぶった先には既にティナはいなかった。
背後に回り込み、男の背中を蹴り飛ばしナイフで何度も刺した。
「ぐはっ!こいつなんだ一体…。急に動きが変わったぞ。」
またティナの腕を掴もうとした。
「その手はもう効かない…。」
逆にティナが男の首を掴み地面に叩きつけた。
「90キロの俺を片手で持ち上げただと…どこにそんな力が!」
「死ね。」
「や、やめろ!俺が悪かった!!」
ティナは男の首を掻っ切った。
血しぶきが上がり、周りの民兵は腰を抜かした。
「ば、化け物だ…。」
「誰1人逃がさない。」
ティナは次々と民兵を倒していった。
「うわああああ!!」
「く、来るなっ!」
一方ミナたちはビルの屋上から見ていた。
「おい。ミナ。すごい叫び声がするが、ティナ1人でやってるんだよな?」
「大体想像できる。あれは恐らく五十嵐と戦っていたときのティナだと思う。」
「ってことは能力を使っているんじゃないのか?」
マナカは双眼鏡で覗きこんだ。
「いや、それはないだろう。あいつは能力を一切使わず自分の力だけで戦っている。あんな状態でも約束は守っているようだな。お前らも見てみろ。」
ミナとリクも覗き込んだ。
「まじかよ。あれがティナか?強すぎる…。」
「そう。あれがティナの本来の力。ああなったら止まらないし、止められない。痛みも感情も何もかもを捨てている状態。」
「あの力をコントロールできるようになればあいつが欲しがっているものに近づけるだろう。さてここからが見物だ。」
「見物?もう勝ったも同然だろ?後は爆弾を仕掛けて終わりだ。」
「黙っていたがあの基地にはな、組織の幹部がいる。」
「え…?幹部だと…?」
「ああ。我々でもなかなか踏み込めずにいた基地だ。」
「おい!そんなとこにティナを1人で行かせたのか?!そういうことなら俺は助太刀に行くぞ。」
「いやだめだ。言っただろ?これはあいつを強くするためでもある。それに国に勝ちたいんだろ?それなら幹部クラスを1人でも倒せないようではこの先、生き残れはしない。」
「だけど、ティナはまだ幹部とやり合えるほどじゃない!」
「ティナは五十嵐という幹部と戦って互角まで持ち込んだと言っていたな?」
「ええ。五十嵐は能力を使っていないとはいえティナは追い込んでいた。まさに今のような状況で。」
「それなら大丈夫だろう。五十嵐は我々でも知っている強敵だ。そいつに比べたらあの基地にいる幹部は遥かに格下だろう。それでも強いことには変わりはないがな。」
「だからって黙って見てろっていうのか?」
「あいつの強さを信じているのなら黙って見ていろ。」
「くっ…。」
「大丈夫だよ。リク。ティナはどんな状況でも今まで乗り越えてきた。きっとやれる。」
「ミナがそう言うのなら俺はもう何も言わないよ。だが、ティナ気をつけろよ…。」
「200…250…あと少し…。」
襲い来る者たちを次々と倒していった。
そして最後の1人を倒したその時だった。
背後から鎖のような音が聞こえた。
ゆっくりとティナは振り返った。
そこには明らかに雰囲気が違う。男が立っていた。
「騒がしいと思って駆けつけてみればなんだこれは?お前が全部やったのか?」
ティナはなにも言わず男に向かって攻撃を仕掛けてた。
男は鎖をティナの足に絡め地面に叩きつけた。
「っ…。」
「おい、あいつか…?」
「ああ。あれが幹部だ。」
「いきなりなんだよテメェ。俺の基地を滅茶苦茶にした挙句、俺に攻撃をしてくるとはいい度胸だな。」
男はティナの胸ぐらを掴んだ。
そしてティナはクロスするようにナイフを男の胸を切った。
「あー痛ぇ…。真正面から俺に突っ込んでくるとはな。だがこんな攻撃まったく効かねぇよ。」
「はぁ…はぁ…。確かに…普通なら死んでるはずなのによく耐えられたわね…。」
「こんな生ぬるい攻撃で倒せると思うなよ。それにお前は誰に戦いを挑んでるのかわかっているのか?俺は国の幹部だぞ?お前みたいなやつを何人も殺してきてるんだ。あんまり舐めんなよ。」
「幹部…?!」
「なんだ?知らずにこの基地に乗り込んできたのか?馬鹿かお前は?」
「どおりで民兵とは違うと思った…。」
「安心しろ。もうお前はここから生きて帰れねぇからな。この鎖で絞め殺してやる。」
男は鎖でティナの足に絡め、引っ張った。
「どうした?起き上がることすらできねぇだろ?」
「こんな鎖切ってやる。」
何度も鎖をナイフで叩いた。
「考えることがまだまだガキだな。切れるわけねぇだろ。ほら来い。」
男の目の前まで引っ張られ蹴り飛ばされた。
「くっ…。」
「痛いか?痛いだろうな。お前がさっきナイフで切りつけた分を身をもって受けろや。」
何回も蹴り上げた。
「あー最高だ。もっと泣き叫べ。許してください黒田様ってな。」
「黒田…。お前の名前は…黒田って言うのか…。」
「なんか言ったか?」
「私も言わせてもらうけど、本気でやってる…?まったく効かないんだけど。幹部っていうからにはもっと強いと思ってた。見掛け倒しだね。」
「俺が手加減してやってることを忘れんなよ?いつでもお前を喋れなくすることだって出来るんだ。」
「じゃあやったら?あんたらは情けなんてないはず。そうでしょ…?」
「そうだな。だが、俺にも人情はある。女には手加減するタチでな。じっくりいたぶって殺すのが趣味なんだよ。」
「私が『tears』のティナって知っても手加減してくれるの?」
「なんだと…?」
「あんたが仕えてるトップ…須藤を倒そうとしている『tears』の星咲ティナだ。」
「そうか…。お前がそうなのか。まさか大阪に来ていたとはな。それなら話は変わってくるな。」
黒田はティナの顔を鷲掴みにした。
「握りつぶしてやる。お前と五十嵐さんが戦ったのはよく知っている。こんな雑魚に手こずっていたなんて信じられねぇな。あと少し力を入れたら潰れちまいそうなのによ。」
「そんな力では私は倒せない。見せかけの力って感じだね…。」
「こんのクソガキが!」
黒田は何度も地面に叩きつけた。
そしてティナはうつ伏せになりピクリとも動かなくなった。
「はぁ…はぁ…しぶとい奴だ…。口ばかりの雑魚が強がりやがって。だがようやく死んだか。」
「おい、ミナ…ティナが…」
「ティナ!!」
「まさか…そんな…リーダーの読みとは違う…。なんであいつは手を出さなかったんだ?!十分攻撃の機機会はあっただろ!」
「何言ってんだ?!ブツブツと!もういくぞ!俺は!」
「いや…だめだ。」
「だめってなんだ?!このままだと本当に死んでしまうだろ!」
「いや…残念だがもう…。能力をまったく使わずにあれほどのダメージ…。流石に無理だ。」
「黙れ…。」
「ミナ…?!」
「お、落ち着け。」
ミナの体からオーラが溢れ出した。
(なんだ…?この禍々しい力は…。まさかこいつも…?)
「1人でもティナを連れ戻す。」
(もう止められないか…。これは私の責任だ。私も行かねばならない…。)
「わかった。私も行こう。これは私の責任だ。」
『いいや、その必要はないだろう。』
後ろの方から男の声がした。
「誰だ?!」
振り返ると周りにいた民兵が一斉に敬礼をした。
「リーダー!何故ここへ?」
「実際にこの目で見たくてな。」
(こいつがリーダー…?ツカサ…?」
「いやですが…もうあの娘…ティナは…。」
「本当に死んでいると思うか?」
「どう見てもあの攻撃を食らって生きているはずが…。」
するとティナの体が動いたように見えた。
「おい、ティナの体が一瞬、動いたように見えたぞ…。」
【ふっ。さあここからだ。本当の戦いは。】
(ここからって…。あの体でこれ以上何ができる…?)
すると突然、大雨が降ってきた。
「さてと首でもはねてトップの元へ献上するとしよう。」
黒田がティナを見たその時だった。
「なっ…お前…。」
ティナは涙を流しゆっくり起き上がろうとしていた。
「生きていただと…?」
(それに何故こいつは泣いているんだ?何か嫌な予感がする…。なんだこの悪寒は…。)
「これはもしかして…いやそんなまさかな…だがこの前兆はまずい気がする。早く止めを刺さなくては。」
「ティナが生きてるぞ!・・・いや、でも何だか様子が変だ。」
「なんで俺が基地に1人で行かせるように命令をしたのか今にわかる。マナカ、お前もしっかりみておくんだな。」
「私と戦ったときの感じではまったくありません…。なんというか一気に力が跳ね上がったというか。だけど何故か隙だらけにも感じる。本当にいつでも殺せるような状況。なのに手を出すことが出来ないそんな感じ。よくわからなくなります。」
「これは俺の推測だが、あの女は力を抑えていたって感じだ。あまりにも強力すぎるが故に。それが今、解き放たれた。」
「あの【涙】に意味があるってことですか?」
「それはわからん。だが、あの幹部はもう終わったな。」
「ですが、何故リーダーはあの女についてそんなに詳しいのですか?前から知ってるような言い方に聞こえましたが…。」
「…。」
「とりあえず俺たちも近くまで行こう。」
ミナたちは何が起こっているのか全く理解できていない状態のままティナの元へ向かった。
「お前が何を企んでるのかしらんが、近づかなければなんてことはない。全力で鎖をぶち込んでやる。」
黒田は鎖を大きく振り回し、涙を流しているティナの顔を目掛けて振り落とした。
するとその瞬間ティナの周りが光った…。




