十九話 予兆
「本当に、あっという間の五十年だわ」
営業時間を過ぎ、エディアはイディアの腕輪とスキャビオーサに向かって独白する。
「姉さんが好きなスキャビオーサ。あたしは嫌いだったな。好きになるのに理由は要らないって、姉さんは良く言ってたけどね……」
ゆっくりとグラスを傾けてエディアは酒を飲み、哀愁の眼を華へと向け続けた。
「だって、スキャビオーサの華言葉は……」
『不幸な愛』『私はすべてを失った』『悲しみの花嫁』
翌朝。年甲斐も無く飲み過ぎたせいか、頭が痛てえ……。
「昨晩はお楽しみでしたか? 師匠」
すると、俺が目覚めたのを見計らったようにラックが朝食を運んでくる。
「そんな訳ねえだろ」
昔の俺は酒場の酒が空になるまで飲んだもんだ。それでも翌朝にはケロっとしてた。
歳を取った今は、酒は残るは、夜更かししても朝早くに目が覚めるは、いい事なんて何一つねえ。
「そんな事よりラッキー。円卓の勇者の一人に、たいそう冷たい眼をした……。分厚い魔導書を常に腰にぶら下げてる男は居たか?」
「ああ、それは知恵の勇者インツさんですね。それがどうかしました? 後、僕の名前はラックですよ」
「……昨晩、古い馴染みの酒場で会ってな」
「アッチィイ!?」
ガシャン。とラックが紅茶を注いでいたカップを滑らせ、熱湯の掛かった手を大げさに振るわせていた。こいつの豪運って奴の効果もそろそろ薄れてきたか?
「し、師匠!? 知恵の勇者に会ったんですか!?」
「心配するな。こっちの素性は明かしてねえし、お前の事も聞かれちゃいねえよ」
ほっ。とした様子でラックは胸を撫でおろし、息を整えている。
……相当小心者だなこいつは。けど、そんな奴が生き残って来たもんだ。
「俺の事をひっきりなしに探ってたみたいだぜ。なぁ、インツってのはどんな奴だ」
「インツさんを一言で説明するなら、そうですね……。強運の生まれです」
「いい加減にしやがれ! 今は運とかどうとかどーでもいいんだよコラッ!」
相変わらず運に囚われているラックに苛立ちを覚えてフォークを投げつけるが、手元が狂ったのか全く違う方向へ飛んでいく。畜生、豪運め。
「い、いや。しかし……。人間はだれしもが生まれた星の位置によって運命が大きく支配されているんですよ。幸せもどん底も、元々決まっていて……」
もう一本、ナイフが有ったな……。次こそ当ててやろう。
「ま、待ってください! インツさんは頭脳と持ち前の魔力でこの国の経済や医療の大きな要を作り上げ、知恵の勇者としてブレイバー抜擢後も、メキメキと頭角を現していったようです。序列としては三位ですが、実質的に二位と言っても過言ではありません。これを強運と言わずして何と言いましょうか……ヒィッ!?」
投げたナイフがラックの鼻の先をかする。惜しい。
「じ、時間をください!? このラック。必ずや有益な情報を掴んでまいります!」
用意周到に変えのナイフとフォークをテーブルへ置くと、ラックは慌ただしく部屋を後にしていく。
二日酔いのせいもあるが、歳を取るとどうも短気になって行けねえ。
「……しっかりやれよ」
「はい! お任せください!」
取り合えず、飯食って寝直すか。




