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十四話 不屈


「――――よぉ、無敵。また煙草か?」


 これは……。走馬灯って奴か? それとも俺は葉巻の効果が切れて寝ちまったんだろうか。

 いずれにせよ、これが現実じゃない事は定かだ。


「ガイヤ……」


 五十年前。共に旅をした戦士ガイヤの名を呟く。

 俺より一回り以上ゴツイたっぱに、プロレスラー見たいな体型。

 そんな屈強でゴツゴツしい大男が、俺へと目を向けて暑苦しくはにかんでいる。


「相変わらず煙てーな。俺には合わなかったよ。煙草。それにリベルが言ってたぞ。かなり身体に悪いんだって? 長生きしねえとイディアが悲しむぜ?」


「ハハッ! 余計なお世話だっての! 男の人生にゃ、酒と煙草は欠かせねえのさ」


 だが、俺の疑問に反し、口は勝手に言葉を漏らす。

 ……これは、俺の記憶だ。


「後、女も。だろ?」

「ばっきゃろ! そんなもん男を磨くのに邪魔に成るんだっての!」

「あーあー。素直じゃねえな。早くイディアに伝えてやれよ。好きなんだろ?」


 僧侶イディア。勇者の俺。そして戦士のガイヤと魔法使いのリベル。

 今は亡き、遠い昔の仲間達と暖かな旅路の追憶。

 こいつらとなら、絶対に世界を救えると思っていた。

 

 若い頃は、怖いもん何て無かった。

 強さは永遠に続くと思っていた。

 ……今思えば、永遠の強さなんて、老いを知らないガキの幻想だったのさ。


――――――――。


 ――唐突に。

 ゆっくりと瞬きをしたように視界が一瞬暗くなり、目を開けると別の景色が広がる。


「嫌あああああ! ガイヤ! お願いだから正気に戻って!」

 

 ……リベルが叫んでいる。

 ああ、そうか。思い出した。これは魔王四天王、最後の一人と戦ってる時か。


「あ……が……。う……あ。あ……あ……」

「おいガイヤ! てめえ、いつからそんなヤワになりやがった! しっかりしろ!」

「ガイヤさん! ポーションの多量摂取で意識が……!」


 四天王の一人。バリウスの止まぬ猛攻で、常に矢面へと立つ戦士ガイヤは、イディアの回復が間に合わず多量のポーションを摂取していたんだ。


 きっと……ラックのクソガキのせいで、こんな走馬灯を見る様になっちまったんだ。


 畜生、最悪の気分だ。


「あり……あ。と……な」

「ガイヤ! ダメ! 行かないで!」

「わら。え。リベル。じゃ……な」


 その後、俺はリベルを抱えてイディアと共に、態勢を立て直すべく一時撤退した。

 精力を養いつつ、魔族領土内で息を潜めていた数日後。

 戦士ガイヤがバリウスと刺し違えたと言う話を、領内の魔族から聞いた……。


 そして……。それを聞いたリベルは……自ら死を選んだ。


「無敵ち! 起きて! 無敵ちぃ!」


 ハッ。と目を覚ます。やっぱり意識を失っていたようだ。

 意識が戻った瞬間、割れる様に頭が痛み、俺は自身の後頭部へ手を回すと生暖かい感触が手を濡らした。これも豪運の力って奴だろうか。

 狙ったかのように丁度よく後頭部に瓦礫が落ちているのに気が付く。


「がああああああああああああ!」

「わわわっ! 危なっ! 早く起きて! 無敵ち!」


 身体が重い。目がショボショボする。若返りの効果は消えちまったようだ。

 身体を起こそうにも起き上がれねえ。声も出ねえ。首も動かせねえ。

 若い頃は、これくらいの傷屁でも無かっただろうにな。


「エ……メ……」


 エメの名を呼ぶ。だが、もう虫の息と声だ。きっと届く訳が無い。

 不甲斐ないもんだ。……歳なんて取りたくなかったよ。

 叶うもんなら、あの時に戻りたい。何も考えなくてよかったあの頃に。


 酒飲んで、戦って、笑って、泣いて、怒って、旅して、歩いて。

 若いってだけで、生きる価値があったあの頃に……。


 すまねえ。イディア。結局俺は、何も変えられなかった。


「無敵ち! ほら! 起きたんでしょ! 拾ってきたからね!」

 

 ――――俺が目を閉じようとしたその時。

 口に何かを押し込まれ、閉じかけていた瞼を開ける。


「――――!?」

「えへへ、盗賊は耳も良いんだ――――――――」


 エメの澄んだ青色の瞳が、イディアと同じ優しい眼差しが……。

 ――そのままゆっくりと真横へズレだし、豪運のクソガキがけたたましく咆哮する。


「がああああああああああああああああああ!」


 畜生。――――――――畜生畜生畜生畜生畜生!


「うおおおおおおおおおおおお! エメえええぇぇぇぇぇぇええええ!」


 ―――瞬。


 ラックの土手っ腹に鋭い拳を叩き込み――――ぶっ飛ばす!


「グガアアアアアアアアア!?」


 ラックをぶっ飛ばした直ぐ、俺は目もくれずにエメの方へ駆けつけた。


「この野郎! 無茶しやがって!」


 綺麗な銀髪を乱れさせ、瓦礫同様地へ伏したエメを抱きかかえる。口元からは鮮血が滴るが、エメは静かに口角を上げて、か細く喉を鳴らす。


「ね……? エメも……役に立つ……でしょ?」

「喋るんじゃねえ! 直ぐに医者を呼んでやるからな!」


 あの時と同じだ。あの時と同じ、イディアも同じ顔で微笑んで逝った。

 また……。また俺は、諦めようとしていた……!


「グ……グググ……。イダイ……イダイヨ……」


 俺とエメの後方。ラックが覚束ない足取りで立ち上がるとフラフラと呻吟している。

 そろそろ奴の中毒効果も切れ始めた様だ。


「エメ、休んでろ」

「……ん。負けない……でね……」


 内臓が傷ついているかもしれない。早々に魔法医療を施して貰わないと危険な状態だ。

 なら、王の居所や、残りの葉巻がどうこう言ってられねえ。


「おいクソガキ。てめえは女に手を挙げた……」


 ゆっくりとエメを寝かせ、俺はラックを睨みつける。


「女と弱い奴に手を挙げる外道は! この安村無敵が許さねえ!!」

「女? 弱い? 無敵? あ……あああ……頭が……。早く……返して……」


 こみ上げてくる怒りと、信念。この怒りは、あのガキに対して半分。

 そして残りは俺自身に対してだ。

 俺は、糞見たいな過ちをもう一度繰り返そうとした。その事が許せねえ。


「お前がどういう理由でその石を返して欲しいのか分からねえ。だけど、その異常な執着心はどうも気がかりでな。後でたっぷり聞いてやる」


「く、るな……来るな! くるなああああ!」


 俺がラックと距離を詰めるべく歩き出すと、酷く怯えた様子で手足を激しく揺らしていた。ああ、これもガイヤの時と同じだ。胸糞悪いったりゃありゃしねえ。


「だが、エメをぶっ飛ばした件はしっかりとケジメつけて貰う。死ぬなよ!」


 一気に距離を詰めるべく大地を一蹴り、俺は拳を振り上げて走り出す。


「来るな! くるなあああああ!」


 刹那。まだ原型を保っていた近くの建物が、一気に崩れ始める。

 こいつなりの自衛か、それとも豪運の力って奴が作用したのか……。


 けど、そんなの関係ねえ。


 ――――瓦礫ごとぶっ飛ばす!


「運ってのは、てめぇの手で掴みやがれええええええい!」 


 今後の事もあるのでなるべく手加減して殴り飛ばしたつもりだが、ラックは宙を何度も回転し、地面へと鈍い音を立てながら叩きつけられていた。その間もガラガラと音を轟かせ、幾数もの瓦礫が俺を避ける様にして地へと散らばって行く。


 すると……コロコロと。ラックの元から小瓶が転がってくるので、俺は何気なくそれを拾い上げた。一見、小瓶は空かと思ったが、まだ底の方に数滴分真赤な液体が残っていた。


「ッヘ。俺だって運の良さは負けちゃいねえぜ」


 ◇

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