瀑流旋昇 ◆メリー視点◆
「はぁ…………はぁ…………ふーー…………」
白光を帯びて蒼炎に照らされるベルフリーデンは乱れた息を整えようとしている様が見て取れる。負荷がかかっているのだろうと察しがつく。
「……ちょっとアンタ、大丈…………」
ベルフリーデンの身体を気遣う言葉が出かけて止まる。
「ーーって、そんなのあるなら最初からしなさいよねアンタ!ーー」
代わりに文句を言ってやった。
「う、うるさいな!こっちだって〈事情〉があるんだよ色々と!あぁそれと!俺より〈前〉に出るなよっ絶対に!火傷じゃすまないからな!」
悪態をつきながら注意を促すベルフリーデン。
『…………モウ……アキタ……コザイクハ……コレデ……シマイジャ……』
水妖妃は次の動きを見せる。手掌で水を操るような所作を止め、両の手の平を上に向け、前に突きだした腕を腹の位置までゆっくり下ろした。すると、半透明で鱗のような物を次々と生成していく。人の頭程の大きさのその鱗は光に反射し虹色に輝いて水の玉の中を無数に漂う。その鱗達は水妖妃の前方に渦を巻きながら水流と共に縦に並んでいく。
『……ウズニ……ノマレテ……チリトナルガイイ……』
《ーービゥゥゥゥウウウウウウッッッッ!!ーー》
瞬く間に〈水流の竜巻〉が出来上がる。視界を遮って水妖妃の姿を見えなくなる程の大きさと高さでその一帯を強い風と水しぶきが覆う。
「ーーなっ!!何だあれっ!?」
「【瀑流旋昇、上級の水魔法よ……でも、魔導院で教わったものとは規模も威力も全くの別物だわ……それになんなのよ、あの【鱗】は……」
「俺……アレ見たことあるわ。鋼叉魚っていうバカでかい怪魚で、めちゃくちゃ硬くて〈鋭利〉な鱗は加工屋に持って行くとそこそこ良い金になるらしい……まあ、つまりーー
「ーーあの激流の渦に飲まれたら
【全身ズタズタに引き裂かれて骨すら形を残すか怪しい】
ってことね?ーー」
要は【死ぬ】ってことをベルフリーデンの言葉を遮ってまでやや具体的に口にした。
「……まあ、そうゆうこった。……ん?はぁっ!?ーー」
「なっ!ちょっ!ーー」
2人のやり取りの最中に狼狽したのは、目の前の瀑流旋昇の1本が〈3本〉に増えるところを目の当たりしたからだ。崖の幅を埋めるように横並びになるそれは人が小走りするくらいの速さでこっちに来る。
「ーーどんっっだけ魔力あるのよっ!ーー」
(ーーこんなの多段結界で防げるの?ーー)
焦り不安でとりあえず魔導杖を構える。手が震え、飛沫に濡れる顔に緊張の汗が混じる。
「……ふぅっ……やれる…、やれるわ……アタシなら……」
(……本当にやれるの?……アタシ……)
小さく呟く。
こんな時……師匠ならどうするだろう……。
こんな時……どんな魔法を使うだろう……。
いろんな考えが巡る中、ふと……ある声が頭の中で再生される。
【ーーメリー・ザルクレア……
あなたはアタシを超える魔術師になります
私が保証しますーー】
不思議と手の震えが止まる。
「はい。……師匠っ」
頭がスッと冷めてくる。
アタシは難しく考え過ぎていた。
逃げられたらいけない。
気を引かないと逃げられる。
相手の出方を見よう。
同時にベルフリーデンも守らないといけない。
魔法戦での明らかな格上相手に対して、実践経験の浅さが【守る】を免罪符にした〈雑念〉をこれでもかと生み出している。
そうじゃない。
怖がるな…………もう1歩先へ……
…………勝つんだ、アタシは!
「ーーぉおおいっ!これどうすんだ!?来るぞっっ!?メリーっっ!!?ーー」
ベルフリーデンが狼狽する。
「ーー見てなさい!ベルフリーデン!
こうするのよっ!!
【神弓魔法ディルアンク・ガ・トロン】っっ!!ーー」
《ーーゴォォオオオオオオオオゥゥッッ!!ーー》
最上位の雷魔法を水妖妃と瀑流旋昇の間に落とす。水妖妃はとっさに多段結界を再び真似して自身を守り、そのせいで瀑流旋昇の魔力が不安定になり雷撃の威力と相殺するように消滅。
「ーーまだよ!もう一発食らわせてやるわっ!ーー神弓魔法ディルくっっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……くっ……反動か……」
(……無理に連続で打とうしたら……目眩が……)
「ーーメリーっ!!ーー
残ってるっ!!あの〈鱗の竜巻〉が
……【1本残ってるっ!!】ーー」




