水妖妃
海岸のそそり立つ崖の上、灯台がある方向を見つめるメリー。
「あそこに術者がいるわ」
老体もその方向を見上げる。崖の際、よーく見ると僅かに蜃気楼のようなモヤモヤがかかっている箇所がある。
「……ふむ、魔力を他に割いているせいか潜伏が雑になっとるのぅ、あのモヤモヤは……もしや……
『もしかして……
【水妖妃】ってやつか?』
老体に話しかけるベルフリーデンは遮るように割って入る。戦闘中にも関わらず、しっかり黒豹蛇と距離を取ってわざわざ会話に混じりに帰ってきた。黒豹蛇は疲労の色を見せ、また回復のため距離をあけたまま佇むが……トドメを差しに来ないことを不審に思っているようにも見える。
「おや?若いのに知っとるのか?」
「いや……ここ(シシレン)に来る前に事前報告で聞いてただけで知ってたってわけじゃないけど……なんでも、えらく〈美人〉な人型のモンスターらしいってね」
「ホッホッホ……〈美人〉ほど怖いものはないぞぅ?」
「アッハッハ!おじいさん、面白いねー」
《ーーぎゅむっーー》
「ーーぁ痛っ!ーー」
メリーが老体の腰の僅かな肉を、爪を立ててつまむ。
老体は声を上げる。
「ーーなに和んでるのよ!あのトカゲがドンドン回復してるのよ今!この瞬間にも!」
「ああ、そうじゃったのぅ……いてて」
「で?水妖妃ってなによ!?」
ただ会話に交じりたかっただけのメリーは痛がる老体を余所に淡々と続ける。
「水棲モンスターじゃよ……長髪で若く美しい女性の容姿に角が特徴的な大型魚類の頭蓋を被っていて、腰から下が巨大な蛇の尾のようになっておる。他にも海洋生物の特徴が体の所々にみられるが個体によって様々あるようじゃ。知能が高く、魔法に長け、特殊なフェロモンを使って他種族のモンスターをも統率する力がある厄介な特級モンスターじゃ」
「ふーん……で?美人なんだ……」
含んだような言い方をするメリー。
「そうじゃ、美人じゃ」
肯定する老体。
ほんのり眉間を寄せるメリー。
《ーーぎゅむっーー》
「ーーぁ痛っ!ーー」(え?なに?なんで?)
理不尽に再度、肉をつねられ声をあげる老体。
「良し!じゃあぶっ倒してくるわ」
少しトーンの下がった声で意気込むメリー。
「待て待てメリー、それなら若い2人で行くと良いのう」
「え?」
「は?」
不意の提案にメリーとベルフリーデンは同時に抜けた返事が出る。
「水妖妃の魔法に対抗できるのは現状メリーだけじゃ……そのメリーを守ってほしいんじゃよベルフリーデンさんに」
「俺は別にいいけど……おじいさんじゃダメな理由でもあるのかい?」
そうよ!そうよ!と言いたそうに首を縦にブンブン振って老体を睨みつけるメリー。
「ワシじゃとメリーが集中出来んじゃろ……ワシが少しでも傷を負えばメリーはすぐ守りに魔力を割くじゃろう……そんな半端なことでは水妖妃を逃がしてしまいかねん」
老体の回答後、ほんの少し間を置いてベルフリーデンが疑問を投げる。
「俺なら守らなくてもいいってこと?」
「あーいやいや、そういう意味ではーー
「ーーそうね!アンタだったら助けないわっ!!〈騎士〉なんだし死ぬ気でアタシを守りなさいっ!!ーー」
ベルフリーデンの疑問を否定する老体の言葉を〈やや食い気味〉でメリーの声が割って入る。
「……結構ひどくないか?」
真顔で言葉を零すベルフリーデン。
「う、嘘よ。……い……言ってなかったけど、さっきは助けてくれて……あ、あ……あ……ありがと……ね……」
さすがに言い過ぎたか、と口ごもりながらも礼を伝えるメリー。するとベルフリーデンはこれまでにないくらいの笑顔を見せる。まるで、主人に褒められた飼い犬のように。
「まあそうゆうことじゃからここはワシに任せて……ーー
「ーー待って!1人にさせるのは反対よっ!ーー」
異を唱えるメリー。
「メリーや、イズとダンキュリーさんをこのままにはしておけん……早く安全な場所で療養させたいんじゃ……それには一刻も早い水妖妃の撃破が必須。聞き分けてくれんか」
「……むむむむ……」
イズとダンキュリー、2人を引き合いに出されて言葉が出てこないメリー。
ーーすると……
『ーーあらあら……なんだかお困りのご様子ですね?ーー』
……声が聞こえ、街の方向から歩いてくる
【見知らぬ女性】が1人。
「ーーなっ!!ね、姉さんっ!!ーー」
『あら?〈ベル〉じゃないの、偶然ね』




