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ポーション(紫色)







 助けてもらった恩を老体に感じているとはいえ、こんな若い子に施しを受けるだけで、お返しも出来ないというのは年配の男性としてはどうにも気が引けるもので……。



「お嬢さんは……甘いものは好きかの?」

「はい、好きですよ?」

「おお、それは良い……ちょっとそこで待ってくれるかい?」



 行く道の先に手頃な座るところがあったのでそこで待ってもらい、老体は露店の通りにあった氷菓子の店へ買いに行った。時間をかけず、すぐ戻って受付嬢に渡すと大変喜んでくれた。



「ウフフ、とっても美味しいです。おじ様」

「ホッホッホ、それは良かった」

「おじ様も一口どうですか?……はい、あーん……」

「あ、いやワシは……えーっと……」

「ーーあーーん……」

「……あの…………」

(この子……グイグイ来る……)

「ーーあーーーーん……」

「……その……」

(……圧が凄い!全然諦めてくれん!)

「ーーあーーーーーーん……」





《ーーパクっ……》



 根負けしてアーンしてしまった老体。……人通りのある所でこれは……とても恥ずかしい。



「ウフフフフフ!!美味しいでしょ?おじ様」

「そ、そ、そそ、そうじゃのう……ホッホッホ……」



 老体の照れと動揺を見る受付嬢が、【笑み】とは違う笑顔……【ニヤつく】ような笑顔に一瞬見せる。

 老体は静かに冷やっとした。(氷菓子のせい……?)



「………………」

(いかん!この受付嬢と2人きりで長くおると呑まれる……メリーとおるようなサバサバした感じの方が落ち着く……た、助けてくれ!メリー!メリィイイイイイイ!)



「……あ、今……【他のひとの事考えました?】」



 真顔降臨。

 老体は明確に恐怖した。



「お嬢さんや!」



 老体は受付嬢の独特の雰囲気に呑まれまいと、行動に出る。しっかり目を見つめ、肩をガシっと掴んだ。



「キャ!そんな!こんなところで強引に……」



 ニヤつきを含む照れで視線を逸らす受付嬢。



「そろそろ【決闘】の時間じゃ、広場に案内してくれんかの?」



 受付嬢は一瞬、ピタリと止まる。すぐさま、自然なニッコリ顔に戻る。……と、思いきや……目の奥に憂いのようなものを宿していた。



「はい。おじ様、行きましょうか」

「うむ」(……怖かったぁ)








 中央市場のど真ん中にあるシシレンの商会本部、その真後ろが広場になっているそうで、受付嬢の案内でそこへ向かう。道中……街の人とは別に騎士を何人か見かけた、商会本部を拠点にでもしているのだろうか……。



「着きました、おじ様」



 この広場は露店の出店を禁止しているので人の集まりがまばらで、ごくたまに国や街の重要な告知や掲示板の張り出しなどに使われるそうだ。



「ふむ、ちょっと早かったか?あれ(クソ貴族)の姿が見当たらんのう」

「おじ様、終わったら……デートの続きをしましょうね」

「……ホッホッホ……元気じゃのう。ワシはもう歳じゃから疲れが取れんくて……悪いが早々に休ませてほしいのぅ……」

「……ごめんなさい、そうですよねぇ」



 しゅんとする受付嬢。

 老体はつくづくこうゆうのに弱い。また乱される始めるは不意にあることに気づく。



「あ、そうじゃ。これを買っておったのを忘れておったわ」



 露店で買ったポーション(紫色)を取り出した。



「それ、今飲むんですか?」

「うーーん、どうしようかのう……」



 正直、怪しい。だが商売人は自分で試したらしいし、肩凝りが治ったらしいし、おまけに魔力も回復するとかなんとか……。



「……………………」(……まあ、ええか)



《ーーグビッ……グビ……》



「ーーーーっぇ!?」



 前置きなく黙っまま急に飲んだので受付嬢はギョッとした表情で老体の顔を伺った。



「……お……おじ様?」

「………………」(……まっず)



 決して、美味しくないそれを飲み切った直後、老体は違和感を感じる。





「…………これは……凄いのう」

(……なんじゃこれは……旅で痛めた箇所も旅に出る前の腰痛も他に色々……全てなくなっとる)



 歳を取ると普段から何かしらの痛みが身体に現れる。それと付き合っていくのが【老い】だとして常態化していた。わざわざ口に出さず、周りに悟らせない痛みなどいくらでもある。それが今は…………1つもない。


 そこにさらに魔力の回復。体内に潜在している魔力量の許容目一杯までみなぎっているのを感じる。



「……おじ様。顔色がさっきより良くなっていません?」

「そうか?ホッホッホ、こりゃあえええ買い物をしたのう……ホッホッホ!」(凄すぎて……なんか副作用がありそうでちょっと怖いくらいじゃわぃ)





 飛んだり、跳ねたり、身体を捻ってみたりと、逆に痛い箇所を探ってみたり……ポーション(紫色)のあまりの効き目に年甲斐もなくはしゃいでいると……。





『ーー居たなっ!クソジジイ!』



 騎士(クソ貴族)が登場。もう勝ち誇ったようなニヤけた面で声をかけてきた。



 受付嬢は嫌悪感をあらわにして、老体に背中に隠れるようにくっつく。……ついでに老体の身体(筋肉)を服越しに撫で回す。



「……あ、やだ……私ったら……でも、グヘヘ……」

「…………」(お嬢さんや……聞こえとるぞぃ)



「【オレの女】を返してもらうぞクソジジイ!……じゃあ……オイッ!【頼んだぞっ!!】」



 騎士(クソ騎士)が気持ち悪い言葉を放った後、目線を老体の後ろの【誰か】に向かってを声を張り上げた。





『オイオイオイ、なんだよ……誰かと思えば……ジイさんじゃねぇか?思ったより早い再会だったなっ』





 老体は聞き覚えのある【しゃがれた声】のする方へ振り返る。



「…………ほほぅ、これは……本気でやらんといかんようだのう……」





 ゴクリと息を飲む老体。その後ろでクソ貴族が声を上げる。





「【ーーっ代理決闘だっ!】」

 




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