プレゼント
「おう!ジイさん!アンタも気になるのかい?このポーション」
「本当に【紫色】じゃのう、ちなみにどうな効果があるんじゃ?」
「え?効果?……あー、そう言えば姉妹の【妹】の方が言ってたなぁ。普通のポーションの何倍も効果があって、おまけに魔力も回復する。って」
「ほぉ、……魔力が回復とはのう」
老体は思案する。
歳のせいかシンプルに旅の疲れが残っていて、この後すぐ決闘が控えている手前、ろくに休めてもいない。魔力も全快とはほど遠い。駄目もとで良いので何かに頼りたいとは思っていたところだ。
ちなみに魔力が回復するなら尚のことありがたい。
「まあ、オレは魔力とか良く分かんねぇけど……試しに飲んでみたら肩凝りがスッカリ治っちまった。ってことくらいだな」
「肩凝りか……ホッホッホ、【賢者の雫】を語るにしては使い方がもったいないのう」
「なんだよ聞いてたのか、ジイさん」
「聞こえてしまってのう……ところで手にとって見ても良いかのう?」
「お?やけに食いつくじゃねぇの、いいぜ!好きなだけ見てってくれ!」
紫色のポーションを手に取る。
色を近くで眺めたり、振ったりしてみる。
「…………ふむ。やっぱり分からんのう。メリーがおったら何か気づいたかも知れんが……」
「メリーって誰ですか?おじ様」
突然、受付嬢がメリーの名前に反応して質問する。なぜか少しだけ声色が低いような気がする。あと、真顔。
「え、えっと……メリーはな、ワシと一緒に宿に来た……気ぃの強い感じの子がおったじゃろ?あの子じゃ、あの子」(お嬢さん、なんか……怒っとるのか?)
「あー、あの子ですか……、そうだったんですねーウフフ」
真顔から普通に愛想のある顔に戻る受付嬢。
「そうだ!ジイさん!もし良かったらそれ。2本セットで1本分の値段ならどうだい?」
効果が不明瞭なポーションの在庫を抱えたくないのか、商売人は老体に提案を持ちかける。
「…………うーむ」(そもそもが結構高いのう)
「ジイさん、やめときなって。見るからに怪しいって絶対」
元々、商売人と会話してた客の方がやめておけと釘を指す。
「ちょ!お客さん、商売の邪魔するなら帰ってくれ!」
「チッ、分かったよ」
客が帰り、商売人と受付嬢と老体で商品を囲むような形で留まる。
「……うーーむむむ…………」
「良し!じゃあ、更に半額にしよう!それで2本だ!これでどうだ?な?」
よっぽど紫色の在庫を抱えたくないのか、半額にまで下げてきた。それでも利益が出る仕入れ値だったのだろうか。
「…………分かった、いただくとしようかのう」
「ありがてぇ!」
あまりに懇願するような商売人の顔に根負けして1本分の半額で得体の知れぬ紫ポーションを2本購入。
「……久しぶりにこうゆう買い物をしたわい、案外楽しいのう」
「ウフフ、おじ様ったら嬉しそう」
まだ時間があったので露店のたくさんある通りを再び2人で歩きだした。
「あ、おじ様……ちょっとここ見て良いですか?」
「お!もちろんじゃ」
不意に腕をグッと引き寄せて誘導される老体。向かったのは女性が好みそうな小物や髪飾り、服や羽織を扱う露店だった。
「……綺麗……あ、これも可愛い……」
キラキラと目を輝かせる受付嬢。
「良かったらワシから何かプレゼントしようかの?」
「いいんですか?じゃあ…………あ、でも……やっぱりいいです」
「おや?そうなのかい?」
気をつかったのか、欲しいものがなかったのか、きっぱり断られてしまった老体。そこで受付嬢へのプレゼントとは別に、ある商品に視線を奪われた。
黒い革性のグローブだった。
結構高級そうに見えるのに……やけに【安い】。
「あー、それですか……」
視線に気づいて露店の店主が声を掛けてきた。
「それ仕入れたものじゃなくて、自作したんだよね……でも、サイズを失敗しちゃって、大き過ぎて誰も買ってくれないのよ。だからその値段ってわけ」
「なるほどのう、付けてみても良いか?」
「どうぞどうぞ」
付けてみる。
……なんと、とてもちょうど良い。
「おお!ピッタリじゃんか!おじいさん」
「そうじゃのう」(これ、肉の解体作業用にええのう)
「しっかり鞣してあるから耐久、柔軟、耐水性もあるし、お買い得だと思うけどね」
確かに文句のつけようがなさそうだ。
「うむ、じゃあ買……ーー」
「ーー私が買います!私が!プレゼントします!」
また出て来た!真顔の受付嬢。
ちょっとした迫力に店主はびっくりしている。
「あ、どうも……お買い上げありがとう……、えっと……あー……とっても優しい【お孫さん】ですね、おじいさん」
「あ、いや!その……ーー」
「ーー【孫】じゃありませんけどっっ!?ーー」
老体の言葉を遮って、更に迫力を増して店主を威圧する受付嬢。
「あ、はい……すいません」
会計を済ませ、威圧された店主を放って露店を後にした。
「はい、おじ様」
先程の革製のグローブを差し出す受付嬢。
「よいのか?ワシの方がプレゼントして貰ってしまって……お金だけでも……ーー」
「いいんです!私がおじ様にプレゼントしたかったんです!だから受け取ってください」
差し出されたグローブを受け取ると、なんとも嬉しそうに微笑む受付嬢。こんな顔をされたら「金を返す」なんて野暮はさすがに言えず……。
「ありがとう、大切に使わせてもらおうかの」
(肉の解体作業に使うなんて絶対言えん!)
「ウフフ。喜んで貰えて良かったです」
……用途が用途なだけに罪悪感を感じた。




