港街シシレン
日が出て木々の隙間からまばらに光が指す頃、老体は周りを起こして出発の準備を促す。
出発後、すぐに林道を抜けて拓けた草原に出る。その先に、目的地の【港街シシレン】を遠目に確認出来る。
「見えるかの?メリー、イズ、あれが〈港街シシレン〉じゃ」
「……やっとベッドのある部屋で休めるわ」
「ぼ、僕は床でもなんでも……屋根があればそれだけで……ありがたい……です……」
メリーと違って謙虚な姿勢のイズをダンキュリーが見つめる。普通……このくらいの歳の子はもう少し弱音やワガママを言ってもおかしくないと思うのだが、というような目線を送る。見るからに上等な身なりとのギャップもあってか違和感を感じている。
「なぁ……ジイさん」
ダンキュリーはイズやメリーに悟られぬよう少し後ろから小声で老体に声をかける。
「……イズは、なんていうか……その……」
抱いた違和感に対して質問の仕方が定まらず、ごもる。
「……どうしたんじゃ?」
「いや、悪い……何でもない」
詮索するようで気が引けたのか会話はそれで終わり、一行は歩みを進めた。
ーー程なくして【港町シシレン】に到着。
シシレンは高い塀に囲われており、基本的に門を通らなくては中へ入れない構造になっている。門の近くまで来て見ると行商人などの列が出来ていて並ばないと入れない状況だった。早速、その列に並び自分達の番を待つことに。
「次!」
門の守衛の声が響く中、自分達の番が来た。老体とその一行は守衛に【通行証】を提示し、難なく門を通過した。門を抜けて少し歩くと、大きなため息が聞こえた。
「ーーッハァーー!なんだか緊張したーー」
「……ぼ、僕も……緊張……しました」
メリーとイズは安堵する。
続いてダンキュリーも話しだす。
「ふぅーー、ジイさんが【通行証】持ってて良かったぜ」
「ホッホッホ、ワシはシシレンでも商売することがあったからのう、商会から発行してもらって持っておったのじゃ。だいぶ不安にさせたみたいじゃし、言っておいた方が良かったのぅ」
「本当よ、まったく!」
プリプリ怒りだすメリー。緊張が解れた分いつもの調子を取り戻す。
「さぁ、とりあえず宿を取るかの」
門を抜けて大通りには、すぐ目に付く場所に数軒の宿屋が立ち並ぶ。疲れた旅人、及び行商人を迎え入れるが如くである。値踏みするように周りに視線を流していると、ダンキュリーが老体の肩にポンと手を乗せる。
「ジイさん。悪いが俺はここで別行動させて貰うぜ?」
「おお、そうか。道中助かったわい。ありがとうのぅダンキュリーさん」
礼を言う老体の傍らに、なんとも悲しそうな目をするイズ。
「えっ……あ、あの。……ありがとうございました、ダ…………ダンキュリーさん」
行かないで?というような表情をしながらも必死に感情を抑えて謝意を伝えるイズに、ダンキュリーは複雑な気持ちとともに困ったような顔をする。
「べ、別行動するだけだ。しばらくこの町にいるからまたすぐ会えるだろ?……だからそんな顔するなよ……な?」
「は、はい!」
イズは表情を明るくして元気に返事をした。その隣で一切話を聞かずにシシレンの街並みを眺めて旅行気分のメリーにダンキュリーは目線を移した。
「嬢ちゃん、あんまジイさんに迷惑かけんなよ?」
「…………ん?……え?あ?何?なんの話?」
「…………まぁ、いい。じゃあまたな」
「……え?行っちゃうの?え?え?え?」
何も聞いてなかったメリーをおいて、ダンキュリーは背を向けて一行を離脱した。大通りをまっすぐ歩くダンキュリーの行き先はおそらくシシレンの商会本部。【特級モンスター】の件で情報を探るつもりだろう。
3人になった一行は早速手頃な宿屋に入ることにした。
《ーーカランッ》
宿屋のドアを開け中に入ると……
『ーーおいっ!!わざわざ王都から来てやった【騎士様】のオレが!テメェみたいな田舎女を誘ってやってんだよ?ありがたく思えよぉおおおお?なぁ?』
……不快極まりない言葉と怒号が耳に入ってきた。




