寝息
〈得体の知れない者〉との邂逅後、しばらくすると日は完全に落ちて、足元さえも少し見えづらくなった。
「マズイのう、思ったより時間がかかってしまった」
リュックから【普通の】小型カンテラを取り出し魔法で火を灯した。
次に魔力を纏った人差し指と親指で円を作ってそれに視線をくぐらせるようにして暗闇にふける景色を探り、メリーに持たせたカンテラの光を探す。
「おお!あったあった!……早く戻らんとのう。心配させてしまうといかん」
その後は足元だけ気をつけて帰路に立った。行きが緩やかな登りになっていた分、帰りの足取りは速く軽かった。都度、カンテラの光を確認しながら進んで行くと……イズが見えた。
「あ!い、いた!おじいさーーん!」
ワシを見つけるや否や屈託のない笑顔でイズが駆け寄る。
「おお、迎えに来てくれたのか?でも、危ないぞう?」
「ご、ごめんなさい……で、でも心配に……なって……」
「これはすまんかった、ワシが悪かったのう」
イズの頭をポンポンと撫でた。
少し歩くとメリーが見える。
カンテラを高く持ち上げ、短い間隔を行ったり来たりしてソワソワと歩き回っている。
「……大丈夫かなぁー?カンテラにもっと魔力入れたほうがいいのかなぁー?ーーあっ!!ーー」
目があった。
メリーはスタスタと足早にこちらへ寄ってくる。
「メリー、遅くなってすまんかーー
「ーー心配したじゃないっ!!ーー」
言葉を遮って飛ぶメリーの怒号。
「心配……したんだから……」
涙目で小声になるメリー。
ワシは俯くメリーの頭を撫でた。
「……すまんかった、メリー」
「……………………………………うん」
師を失ったばかりのこの子の気持ちをもっと汲んでやるべきだったと、反省した。
「随分遅かったが……何かあったのか?じいさん」
視界の端の木にももたれかかるダンキュリーに声を掛けられる。
「思ってたより遠くてのう……あと、おぬしが倒したスラッシュグリズリーは他の動物に食い荒らされておったから肉の調達は断念したんじゃ」
「そうか……なら尚更遅かったな」
「……うむ、それは……」
……【尖金熊】の事は伏せておくとして、【得体の知れない者】の話はするべきだろうか?文字通り【得体が知れない】、何一つ確かな情報がない以上言わない方が……。
「……道中ちょっと息切れしてしもうて、まあ歳じゃのう……」
「……そうか、じゃあ先に休んでな?〈見張り〉は俺がやっとくからよ」
厳つい見た目に反して年寄りを労ってくれるダンキュリー。
「ふむ、ではそうさせて貰おうかのう……なるべく早く起きて交代するからのう」
「いいって、俺の事は気にせずしっかり寝てな」
「ホッホッホ、優しいのう。……ありがとう」
その後、ダンキュリーの言葉に甘えてガッツリ睡眠をとった。
目が醒める。
まだ暗いが4〜5時間程は眠れただろうか……。ぼんやりしたまま上体を起こし、ダンキュリーの方を見る。
片膝を立てて木に寄りかかり瞼を閉じて座るダンキュリー。そのダンキュリーのしがみつくようにイズが寝ている。
音を立てぬようにゆっくりダンキュリーに近づく。
「……すまんの、おかげでぐっすり寝れたわい」
イズを起こさぬよう小声で話す。
「なんだもう起きたのか、まだ寝てても構わねぇんだぜ?」
「いやいや、年寄りの朝は早いんじゃ。もう充分じゃよ」
「……そうか」
そう言って、ダンキュリーは再び瞼を閉じた。
ダンキュリーに〈交代〉を告げて周囲を確認すると……視線を感じる。
「………………」
じっとコチラを見つめている。
「………………」
メリーだ。
足音に気をつけて自分が寝ていたところまで戻る。
すぐ隣のメリーを見ると目が合う。合った後も逸らさずに無言で見つめてくる。
「……寝れんのか?」
「………………」
何も答えない。
「……心配せんでも【何処にも】行かんよ、メリー
……」
「………………ん」
合った目を静かに閉じるメリー。
しばらくして、寝息が聞こえてくる。
「……スー……スー……」




