小さなお尻
なんだか……カンテラ一つでダンキュリー含む、みんなの距離感が縮まったような気がする。
そういえば……祖父や祖母は武器や防具の魔巧具を作るよりも、ちょっとした生活の役に立つ魔巧具を作っている時の方が楽しそうだった。
こんなふうに自分達が作った魔巧具一つで感動したり、笑ったりして欲しい……そんな願いが込められているのだとしたら、こんなにも嬉しい目の前の光景はないだろう、となんとも嬉しい気持ちで見ていた。
「じゃあちょっと行ってくるわい」
「き、気を付けて……ください……」
「あんまり遅くならないでよ、あ……危ないから」
「うむ、ありがとうのう。イズ、メリー」
カンテラをメリーに渡して、食糧調達に必要なものだけ詰めたリュックを背負う。
「ダンキュリーさん、ちょっと間この子らお願いします」
「おう、モンスターが出て来たらオレが片付けるから安心して行ってきな」
「ホッホッホ!頼もしいのぅ」
3人が背中を見送る中、ダンキュリーに教えてもらった方向に向かって歩き出す。
整地されてない林をひたすら奥へ奥へをと掻き分け進むと、しばらくして空気に〈血の匂い〉がかすかに混じっているのを感じる。
「ふぅ……ふぅ……そろそろ近いのう……たぶん……ふぅ……」(……ダンキュリーさん思ったより遠くまで行ってたんじゃのう……おかげで少し息が切れるわい」
歩いてみると完全な平地ではなく少しずつ坂になっていることに気付いた。おそらく何処ぞの山につながっているのだろう。
少し息荒げに更に奥へ歩み進んでいく。
すると、
「あった……これじゃのう」
道なき林の少し坂になった道を登り切ると眼下にスラッシュグリズリーが倒れているのを発見する。
「………………」
だが、見るも無惨……内臓が飛び出ていて食い荒らされた後がある。四肢もいくつか持って行かれている。周辺の動物、もしくはモンスターの所業だろう。
「…………時間が経っておるし、まあ仕方がないかのう」(まあダメ元だったから別に良いがな)
《ーーガサッーー》
不意に音が聞こえ、とっさに身構える。
「………………」(別のスラッシュグリズリーか?それとも、血の匂いに釣られた他のモンスターか?……)
微動だにせず、音の所在と周囲の気配を探るのに神経を使う。
「………………」
『ーーンナアァァァァ……ーー』
『ーーンア!ーーーー』
耳を澄ますと《ガサガサ》の音に紛れて、小さな〈鳴き声〉が聞こえる。
『ーーナァァ……ーー』
声のする方へ向かってみる。
すると、それは居た。
大きめの木の根が地上に露出して股のようになっている部分に〈モフモフの小さなおしり〉が挟まって後ろ足をバタバタと必死に動かしている。
【スラッシュグリズリーの子供】だ。
「ーーンアァァァ…………ナ!ーー」
弱々しく高い声で鳴きながらもがいている。引っかかった木の根から抜け出したいのだろう。だが、抜けれる気配は一向に無い。
仕方がないので……腰を下ろし、モフモフの尻をガシっと掴んで引っ張ってやった。
「ーーナッッ!ナッ!ーー」
尻を捕まれて驚いている様子だが、程なくして木の股からズボっと抜けることが出来た。
「ーー……!?クゥゥゥゥッッ!……ナッ!ーー」
解放された瞬間、少し硬直した後にこちらを威嚇してすぐに何処かへ走って行った。
向かった方向は…………自分が来た方向からだった。
『ーーンアァァァ……ンアァァァ……ーー』
声はまだ近くで聞こえるが、遠ざかることなく鳴き続けている。
『ーーンアァァァ……ンアァァァ……ーー』
来た方向へ戻ってみると、スラッシュグリズリーの亡骸を両の前足で揺らす子供がいた。
「……親子か」
目の前の光景に少し胸が痛くなる。
「ーーンアァァァン!ーーナ!ンアァァァ!……」
必死に揺さぶるその子供はこちらに気付く。
「ーークゥゥゥゥッッ!!ーー」
先ほどと同じように威嚇し、今度はこちらに向かって走ってきた。
「ーークゥゥゥゥッッ!カウゥゥウッッ!!ーー」
その子供は後ろ足で立ち上がり前足でしっかりしがみついて、老体の膝下辺りにガブッと噛み付く。
痛くはない……。
いや、段々……ちょっと痛い。
「………………」
「ーーゥゥウゥゥウッッ!!ーー」
噛み付きながらも唸り声を上げ続けている。
「………………うーむ、どうしたもんかのう」




