モンスターとはいえ……
……おそらくダンキュリーがスラッシュグリズリーのテリトリーに入った際に親が子供を木の股に隠してからダンキュリーを襲い、返り討ちにあったんだろう。
そして今、この子供はこの老体を〈親の敵〉だと思っている。
「ーーゥゥウ!ゥゥウアゥゥッッッ!!ーー」
唸り声を上げ噛み付いては、たまに噛む方向を変えたりして頭を左右に振る。
たまにペロっと舐める。美味いのか……?
「………………うーーむ……」
対応に困ってしばらく見ていると、ある事に気付く。
良く見るとこのスラッシュグリズリーの子供は所々【毛の先端が薄い金色】になっている。普通のスラッシュグリズリーの体毛はほんの少し灰色が混じっているほぼ白だ。子供も大人もそれは変わらない。
「……この子はーー」
突然変異種【尖金熊】……
特級モンスターだ。
隣国ツェザールで何度か出たことがあったらしいが、いずれもその被害は甚大で……人命がいくつも奪われたと聞く。
成長した【尖金熊】はスラッシュグリズリーより一回り大きく、薄く金に輝く体毛は変幻自在に硬度を変え、戦闘時は一切の刃を通さないほど強靭だとか。体毛に覆われた身体は筋肉の塊で力も桁外れに強く、底なしの体力は疲れを知らない。
「この子が人間に恨みを抱えたまま大きくなれば……おそらく人里を襲うじゃろう……多くの人が命を落とすじゃろうな……」
この子をどうしようか……。
考えを言葉にしながら、頭の中でその【答え】はもうすでに出ていた。
そうするしかない……。
そうしないと……。
別の誰かが…。
決まりきった【答え】を正当化するように何度も頭の中で理由を並べる。
【いつだってそうしてきたじゃないか】
嫌な感情が心に纏わりつく。
【今まで何人も殺してきた、今更何だって言うんだ……】
【世のため、人のため……だろう?】
問いかけた言葉が脳裏を巡る。
【モンスターとはいえ……子供を……】
「嫌だのう……【昔の自分】に引き戻されるような感覚…………」
独り言ごとを吐きながら、リュックから肉剥ぎ用の包丁を取り出す。
「なるべく苦しまないように……
【首を落とす】」
「ーーゥゥッッ!!!!ーー」
子供の尖金熊は噛むのを止める。野生の勘なのか、老体の殺気に気付いたのか、怯えて一目散に逃げる。
「ーーゥゥウッ!ナゥゥウッッ!!ーー」
「………………」
鳴きながら逃げるその子を無言で追う。
石や小枝や地面の凸凹に、おぼつかない足取りでコケたりしながら必死に逃げる。
「……嫌だのう…………、嫌だのう…………すこぶる胸糞が悪い…………」
「ーーナゥゥゥウ!!ゥゥウゥゥンナゥッッ!!ーー」
鳴きながら必死に足を動かすも距離は広がらす、縮まる一方だ。
もっと速く走ってくれないか……。
逃げ切ってくれないか……。
「………………」
殺さないでいい可能性を少し考えたりする。が、そんな間に……
追いついてしまった。
「ーーンナァァァァンッッ!!ンァァァッッ!!……ナァァァンッッッ!!ーー」
「………………すまんのぅ」
包丁を振り上げた。
『ーーあのっ!!すいませんっ!!ーー』
「ーーーーッッ!!ーー」
声がした。
視線を向ける。
声の方向、向かって左側やや前方……自分の歩幅で15歩程先に【何か】が居る。
身長は自分の半分……イズより少し小さいくらい、顔がすっぽりと隠れるほど深いフードの緑色のローブ……。いや、良く見るとその緑色は瑞々しく大きな葉っぱが隙間なく貼られている色だ。殆どの部分が隠れているが、シルエットは人のそれだ。何より人の言葉を話す。
唯一、葉っぱのローブの下から足だけ僅かに見えるが……その足のような物は【木の材質】のように見える。
見れば見るほど得体が知れない……。




