推し
全く……。
脱帽と言うにはまるで足りない……。
メリーが言った言葉を思い返す。
【赤黒い色】
【ドロドロ】
【金色の筋】
【脈を打っている】
これらの言動が示すことはいずれも常軌を逸している。
国中の……いや大陸中の誰もが視認どころか認識することが出来ない【魔力の性質】をこの子は
【色】と【質感】として認識出来ていることになる。
目に見えない空気の【色】と【質感】を正しく認識することが出来る人間がいるだろうか……そんな
ものがあるかどうかも疑わしく思うだろう。虚言だと誰もが言うだろう……正しいかどうかも分からないからだ。どれだけ異常で異質なことかも分からないほどに……。
【バケモノ】
およそ【人】とは思えぬ畏怖すべき超常の存在に送られる言葉が一瞬脳裏に浮かぶ。
「あの……だ、大丈夫……ですか?」
思考にふける老体をイズが心配して袖を引っ張る。よほど強張った表情でもしてたんだろう。
「……おお、すまんすまん。ちょっと考え事じゃ……」
心配させまいと、笑顔を作ってイズの頭を撫でた。
「さて、メリーや……どうじゃったかの?」
「………………」
また整理の最中なのか、黙って空を見つめる。
「……まだ足りんのであればもう一回ダンキュリーさんにお願いして……」
「ちょ!ジイさん!冗談じゃねぇ!」
「ホッホッホッ!もちろん冗談じゃよ」
無言でメリーがダンキュリーに近づいていく。
「オイオイオイ……マジかよ」
「もう大丈夫です!ありがとうございました」
「お……おう」
また身体を撫で回されると思いきや、スッキリした顔でしっかりお礼を言って頭を下げるメリーにダンキュリーは安堵する。
「どうじゃ?勉強になったかの?」
「うん」
「そりゃ良かったのう」
メリーはまだ少し熱に浮かされているような雰囲気を残しつつ言葉少なく返事をした。
「では、ワシらは先を急ごうか。世話になったのうダンキュリーさん」
「おう。……ところで何処に向かう途中だったんだ?アンタら」
「シシレンじゃよ。ダンキュリーさんや、アンタは何処へ?」
「おっ!!偶然だな、オレもシシレンへ向かってる途中だ、何でも【魔物】が出たとかで依頼を受けてな」
「そうじゃったか……」
【魔物】とは、水場で会ったラルバとカシュカが言っていた【水棲系の特級モンスター】のことだろうか。
少し思案する。
「もし、良かったらワシらとーー
「いいいい、い、一緒に!……行き……ません……か……?」
老体の言葉を遮ってイズがダンキュリーに話かけた。同じことを思っていたようだ。
この短い間にダンキュリーはイズに懐かれていたたようだ。
「あーー、まあ別にいいけどよ……」
「あ、ありがとう……ございます……」
了承したダンキュリーは露骨には嬉しそうにはしないが、イズの嬉しそうな顔を見て不器用な笑みが少し垣間見えた。
「ホッホッホ、こんなに頼もしい旅の友は他におらんのう…………」(傭兵みたいな顔して子供好きなんかも知れんのう……)
「……何あれ?」
「ん?どうしたメリー?」
ふとメリーが老体の側まで来てイズとダンキュリーを指して小声で言う。
「何であんなに懐いてんの?」
少し、捻くれたような顔をする。
イズのお姉さん的ポジションが板に付き始めつつあるこのタイミングでこの状況がメリーにとってちょっと面白くないようだ。
「まあまあ、落ち着け落ち着け……イズにとって【かっこよくて強い英雄】のようなものなんじゃろう、憧れじゃよ……えっと、【推し】ってやつじゃ【推し】【推し】」
「なにそれ……」
「メリーにもおるじゃろ?憧れる人が」
「アタシは…………【師匠】以外に凄いって思ったことないわ!」
「じゃあそれが【推し】じゃよ」
「ふん!……なにそれ!」
「ホッホッホなんじゃろうのう……」
なんだか良く分からない言葉でメリーを煙に巻いた老体の一行は、偽りの【孫】のおかげで旅の仲間を1人増やすことになった。




