ダンキュリーさん
「何だったの……あのデッカイ〈犬〉……生きた心地がしなかったわ……ほんと……」
「……こ……怖かった……です……ね……」
イズとメリーは半放心状態で虚ろな目のまま言葉を零す。
「…………本当じゃの、助かって良かったのぅ……」
2人に相槌を打つ最中、視線を感じる。
前方、【しゃがれた声の男】が不思議なものを見るような目で3人を眺める。
「あ、そうじゃ!アンタ。助かったわい……良かったら名を聞いてよいかの?」
「……俺は【アルフレア・ダンキュリー】だ」
「うむ、ダンキュリーさんか……アンタ、強いのぅ〈何者〉なんじゃ?」
「……別に何者でもねぇよ、ただの旅人だ……」
「……ただの……旅人のぅ……」(訳アリか……)
老体はダンキュリーの鍛え抜かれた筋肉と恵まれた体躯を値踏みするように見つめながら思考する。その見た目なら〈旅人〉というより〈傭兵〉と言った方がいくらか納得がいくがのぅ…、と。
「……てか、ジイさんこそ〈只者〉じゃねぇだろ?」
「ワシ?ワシは……肉屋じゃ、よろしくのう」
「肉屋?なんで肉屋がこんな所に……てか、何の集まりなんだ?」
お互いに疑問がボロボロと出てくる様子。助けてくれた手前、差し支えない程度に誠意をもって説明することに……。
「この〈やかましい子〉は恩のある知り合いの弟子で魔導師じゃ……こっちの子は……えーっと、ワシの【孫】で【シスター見習い】じゃ」
うん、誠意とはなんだったのか……流れるように【嘘】を混ぜて説明した。
「ちょ!誰が〈やかましい子〉よっ!!」
〈お前じゃ!〉と顔をしてメリーに目をやると、〈何よっ!〉という目に睨み返された。
「……僕……孫…………へ……へへ……」
イズの方を見ると……何故か〈ニヨニヨ〉している。ちょっと嬉しそうに見える。
「み……妙な組み合わせだな……」
ダンキュリーは不思議そうな顔で言う。
まあ……否定は出来ない。
不意にダンキュリーの身につけていた長いストールが地面に落ちる。先ほどの戦闘で巻きが緩んでいたんだろう。ちょうど風が吹いてダンキュリーから離れるようにストールが流される。
「……おっと、いけねぇ」
「……んわっプッ!」
その風で流されたストールは宙に舞い上がってイズに顔にガバっとかかる。
「……ぶは!」
イズは顔に張り付いたストールを取ってダンキュリーの所へ向かった。
「あの!これ!」
「おう、わるいな」
「あの!た、た、助けて……くれて、ありがとうございました……」
初対面でテンパった様子ながらにちゃんとお礼を言うイズ。
「おう」
ダンキュリーはストールを受け取ってイズの頭をポンポンと撫でた。ストールを巻き直す際に首に【大きな傷痕】があるのが見えた。イズもそれに気付いて少し凝視している。
〈やけにしゃがれた声〉の理由はあれなのだろう。
「ちょっと!なんで【あんな魔法】使えるのよっ!」
ダンキュリーがストールを巻き直し終わると同時にメリーが声を張り上げてダンキュリーに向かっていく。
「あ?なんだテメェ?」
急に突っかかってくるメリーに嫌悪感丸出しで睨みつけるダンキュリー。
そして、とっさにメリーの方へ足早に向かう老体。
「コレ!メリー!失礼じゃっ!!まずは助けてくれたお礼じゃろう!……すまんのうダンキュリーさん、この子は性格がちょっとアレでのぅ……」
「……ちょ!やめ……」
普通にメリーを叱る老体はメリーの頭を後ろからガシッと掴む。
「ほれ!〈助けてくれて、ありがとうございました〉……じゃ!」
「ちょっ!頭触んないでよ!……言うから!言うから!!ってぇ!!」
メリーは抵抗するが力が強過ぎる老体の手が頭部を離すことがなかったので観念する。頭部を掴まれたままダンキュリーの方を向いてブスッとした顔をする。
「……助けてくれて……その……」
「……〈ありがとうございました〉……じゃ!」
「……あ、ありがとう……ございました……」
お礼の言葉と共に頭を下げるメリー(強制的)。
それと一緒に老体も頭を下げた。
「改めてワシからも助けてくれたこと感謝します。そして、この子の非礼をお詫びしますダンキュリーさん」
「……もういいから頭を上げてくれ…………ジイさんも色々苦労してんだなぁ……」
顔を上げる老体とメリー、交互に目を向けるダンキュリー。
「あんまりジイさんに迷惑かけんじゃねぇぞ?」
「………………」
ブスッとして沈黙するメリー。
「コレ!返事ぃ!全くこの子は…………イズの方がよっぽど礼儀がしっかりしとるのぅ」
「………………」
不意に褒められて目をパチクリするイズ。
「あ、あの……どうして【あの魔法】使えるん……ですか?」
メリーはブスッとしてまま、珍しく小さい声と慣れない言葉遣いでダンキュリーに質問した。




