何の肉?
……程なくして3人の食事が終わる。
「ーーっぐふぅ……もう、お腹いっぱい……」
満足気に腹を膨らませるメリー。
「……美味し……かった…………けぷ……」
メリーと同じような表情でお腹を擦るイズ。しばらく動けなさそうな2人とは違って腹八分に収めた老体はテキパキと後片付けをする。そんな老体を見ながら何気なく疑問を抱くメリーは口を開く。
「本当に美味しかったけど……【何の肉】なの?」
「……ん?これはな……」
食べた後に聞くのか?、という顔をしながら老体は片付けをしながら反応する。
「【デーモニックバイソン】の肉じゃよ」
「ーーっぶ!!!!魔獣!?も、もももも〈モンスター〉じゃないっっ!!」
メリーは吹き出して動揺する。
「……〈モンスター〉……のぅ」
老体は至って冷静に呟く。メリーの反応に思う所があってのことだ。
「【デーモニックバイソン】って……何……ですか?」
イズは珍しく老体ではなくメリーに質問した。
「悪魔みたいな角を持った大型の四足獣よ、顔だけでも成人男性くらい大きさがある2級モンスターで獰猛な上に底なしの体力で、仕留めるのに騎士が何人も相手して1時間以上もかかると言われてるわ……ほとんど1級モンスターと遜色ないから等級の格上げを議論されてるくらいよ」
「へぇ……詳しいんですね」
「んまぁね!」
シンプルにメリーの知識に関心するイズ。それにちょっと得意気になってしまうメリーに老体は問いかける。
「メリーは〈野生の動物〉と〈モンスター〉は何が違うと思う?」
「……え?え、なんだろう?……見た目?モンスターっぽいとか?」
「ざっくりしとるのぅ……なら騎士団が定めるモンスターの〈等級〉は何を基準に決めとると思う?」
メリーはさっきとは違って自信満々な顔になって答える。
「そりゃぁ!もう!……【強さ】でしょ!」
「そうじゃ。アトワイズ王国の自衛を担う騎士団がモンスター討伐へ騎士を派遣する際にその等級に応じて戦力を示す指標として決めたものじゃ……では食肉で市場にも出回っとる〈アルピラ〉はどうじゃ?小型で草食だが同じ四足獣じゃ」
「あんなの等級いらないでしょ、基本人を襲わないし、もし襲って来ても弱いから一般人でも大抵なんとかなるわ……」
「そうなんじゃ、そうゆうことなんじゃ」
「……っっん?え、どゆこと?」
メリーは首を傾げる。
「まあ、つまりのぅ……
〈一般人で対処が難しく、人に害あるもの〉を総称して【モンスター】としてアトワイズ王国の騎士団が等級をつけているに過ぎないのじゃよ」
「え、じゃあつまり……【デーモニックバイソン】は……」
「めちゃくちゃ獰猛なデカい【野生の動物】じゃ」
「…………っ」
なんだか腑に落ちないメリーは微妙な表情で黙る。
「お、お肉……美味し……かった!」
イズが急に間に入る。
老人はすかさず反応する。
「ホッホッホッ!そうじゃのう!獰猛で、デカくて【肉が美味しい】野生の動物じゃのうっ!ホッホッホッ」
「……そうね、美味しかったし!まぁいっか!!」
イズの一言をきっかけにして強引に話が纏まったところで老体はあることに気づいて背の高い岩群の方向をじっと見る。
「………………っ」(……【誰かに見られとるのう】)
「……どう……したんですか?」
表情の変化に気付いたイズが疑問に思って問う。
「……ん?いや、あのーー…………あれじゃ、あのーー…………」
「………?」
妙に歯切れが悪い老体に疑念が強まるイズ。
「えーーっと…………食べた後じゃから〈催して〉のう。ちょっと岩陰へ行ってくるわい」
「……?」
〈催す〉の表現が分からなかったイズは首を傾げる。そんな様子のイズにメリーはハッキリ言う。
「〈おしっこ〉よ、もしくは〈大っきい方〉ね」
「あ!……そうゆう……ことだった……んですね、何かごめんなさい……」
恥ずかし気もなく言うメリーとは対照的にイズの方は追求したことに恥ずかしく思って俯いた。
老体はそんなやり取りを背に聞きながら荷物の中から〈肉たたき〉を取り出した。
「……用を足すのになんでソレ(肉叩き)持って行くのよ」
老体は肉叩きを持って小走りで岩群の方へ向かいながらメリーに大きな声で返事をする。
「岩陰からモンスター出て来たら危ないからのうっ!念の為じゃーーっ!」
「あのーー……お気を付けてーー」
老体はイズの頑張って出した少し大きな声の気遣いを聞きながら少し遠くの方へ向かった。




