自家製のタレ
「それじゃ(火)付けてくれるかの」
「任せて!」
メリーは自信を取り戻して、いつもの強気な姿勢で胸を張る。
「見てなさいイズ!」
「………………」
イズはちょっとだけ期待した目で頭を2回縦に振る。それに呼応してメリーも1回、こくんっと強く頷いて険しい顔をする。
「…………いくわよ」
メリーは燃料(集めた木の枝や枯れ葉類)の前にちょこんとしゃがみ込んで右手人差し指を小さく差し出す。
《ーーごくりっーー》
いやに真剣な空気に老体とイズは息を飲む。
しばし、静寂に包まれる空間……微かに涼しい風が吹く。
「………………」
「………ふ……ふぇっっきしっっ!!!!ーー」
《ーーボォォオオゥッッ!!ーー》
「あ!しまっ……ーーふ……ふぇっっきしっっ!!…………ふ……ふぇ…………ふぅ……あーーーーー……」
メリーは不意にしたクシャミの勢いで火の大きさを調整出来ず、再び消し炭劇場を2人に見せた。更にまだクシャミが燻ってるメリーはなんとも間の抜けた面を晒す。
少し落ち着いたメリーは2人の視線に気付いてビクつくように我に返る。
呆れるような目をする老体。そして……
【背筋がゾッとするような虚無顔をするシスター(イズ)】がメリーの目に映った。
「ごごご……ごめ…………」
「…………………」
無言のイズに目が泳ぐメリー。
この機を境にイズとメリーのパワーバランスに多少の変化が生じた……気がする。
その後、燃料集めはメリーが1人で走り周り、イズは老体と調理の準備をし、火起こしは結局老体が慣れた手つきでこなした。
そして火の上に持参した鉄板を固定させ、しっかりと熱が入るまでの間に老体が店から持って来た塊の肉を魔法で解凍し手速くスライスして……脂が乗っている肉から鉄板に並べていく。
《ーージュゥゥウウウウーー》
焼けるまでに鉄板を囲むイズとメリーに簡易的な皿とフォークを渡し、自前のスパイスを肉かけたりしてテキパキと調理していく。
「………いい匂い……美味しいそう」
イズは目を輝かせて言う。メリーも続く。
「堪んないわね……もう良いんじゃない?食べても。……………じゅるり……」
相当お腹が空いてたのであろう……鼻腔をくすぐるような脂滴る肉の焼ける匂いに惜しみなく食欲を全面に出す2人を見て老体は嬉しくなってくる。
「もう、ええかのう」
老体は焼けた肉を木製のトングで2人の持つ皿に取ってあげる。
「ほれっ肉屋自慢の商品じゃ、たんとお食べ」
「ーーい、いただきますっ」
「ーーうんまぁぁあ!何これぇええええ!!?」
食事前の礼をしっかり述べるイズと違って、皿に肉を盛るや否や食べ始めたメリーは肉の感想を垂れ流す。
「脂が、脂が……甘くて、沁みるぅぅう…………。んめんめ……」
あまり行儀が良いとは言えないが、ここまで喜んでくれると所作を注意するなど野暮をする気が失せてしまう老体。だが、あまりに恍惚の表情を見せるメリーは…………ちょっと笑ってしまうほど酷い。
老体は自分の食べる分は取らずに空いた鉄板の部分に追加で肉を置いていく。その際にイズの方に目をやると……
「………………グスッ……ッッ……美味し……」
口に含んだ肉をしっかり噛み締めながら遠くを見るような目で……泣いている。
泣くほどか、と驚いて膠着する老体は同時に安堵する。ウチの商品でここまで喜んでくれるのを目の当たりにしてしまったら……感無量というより他になく……ただただそれを見て、追加の肉が焼けた頃合いでまた2人の皿に取ってやった。
2人の咀嚼が終わらぬ内に皿の肉に先程用意していた【自家製のタレ】をかける。まだ口の中が残っているメリーは追加の肉にフォークを刺して、ほんのり疑いの目を老体に向ける。
これ(自家製のタレ)美味しいの?、という目だ。老体は……食べてみ?という目で1回頷く。
メリーは口の中がなくなった瞬間にそれを頬張る。
「……むぐ……むぐ…………んぉーーーーんまっっ!!こっ!これは……売れるわねっ!!!!もぐもぐもぐ……」
イズもそれも見てメリーに続く。
「美味……しい…………です!」
一口ずつ噛み締めるようなイズの感想を少々半笑いで聞いた後、老体はやっと自分が食べる分を焼き始めた。




