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レクチャー







 《ーーグゥゥゥゥゥーー》



「………………」

「………………」



 老体とイズは何の音か、と一瞬硬直する。





 《ーーグキュゥゥゥゥゥゥゥゥーー》



「………………」

「………………」



 2人は目を見合わせた後、同じタイミングでメリーの方を向く。メリーは目がテンになりながらお腹を撫で……かつて見たことない程のアホ面を晒している。



「……え?2人ともお腹空かないの?朝、食べてないよね?アタシ結構前から空いてるんだけど……」



 メリーの疑問に2人はまた目を見合わせる。そして老体から応答する。



「ワシはジジイじゃから食欲が乏しくてのう……特になんも思わんかったわ」

「……ぼ、僕は2〜3日の内に1回食べれたらそれで充分だったので……あ、でも空いては……いるかも……です」



 イズの発言に老体とメリーは目を見開いて驚愕する。



「ちゃんと食べんといかんぞっ」

「ちゃんと食べないとダメよっ」



 同じタイミングで声を上げる2人にイズの身体はほんのりビクつく。



「良し!では飯にしようかの」

「……やったぁ……」



 メリーは小さく歓喜した。



 3人は水場と木陰が丁度良い距離の場所まで移動し、老体の指示のもとテキパキと準備を進める。

 老体はバカでかい荷物から肉焼き用の鉄板とまな板、包丁、そして液体の入った筒を取り出した。



「……何それ?お酒?」

「これは肉にかける自家製の【タレ】じゃよ」

「ふーーん……」



 老体の持ち物や所作に気を散らしながらもイズと一緒に火を起こす準備をする。小枝や枯れ葉を沢山集め、火種はメリーの魔法にお願いした。



「魔法なら任せて!」

「メリーや、火さえ付けばええから《抑えて》のう」

「ーーえっ?」



 いざ魔法になると自信満々に魔導杖を構えるメリーは老体の忠告を右から左へ聞き流して雑に魔法を放つ。



 《ーーボォォオオッッ!!ーー》



 ……結果、イズが頑張って集めた小枝や枯れ葉は一瞬で消し炭と化した。



「あ、ごめん」



 メリーのが謝った視線の先、イズの顔には……虚無が生成されていた。イズは無言で再び小枝を集めに背を向けて歩き出した。



「あ!待って、アタシも行く…………ごめんて」



 申し分なさそうにイズを追いかけるメリー。まるで、ポンコツな姉に苦労する妹のような構図が出来上がる。





 しばらくして2人が帰ってくる。先程消し炭になった小枝や枯れ葉の倍ほどの量を携えて。

 再び火を起こしをメリーにお願いするが、老体は先に魔法のレクチャーを始める。視界の端のイズは無表情ながらに心なしか疑念の目をメリーに向けている……ような気がする。



「ええか?メリー、良く聞くんじゃぞ?」

「……はい」



 失敗したばかりのメリーはとっても素直に返事する。



「魔法はイメージした形や規模を再現して魔力を消耗する、その際に〈魔導杖〉を用いると消耗する魔力を抑えたり、その効果を引き上げる効果がある。多少だかの」

「……はい」

「じゃが魔導杖はそもそも戦闘を想定した代物。魔法の効果を〈抑える〉ことには向いてないんじゃよ……ここまではええかの?」

「……はい」

「よって生活に役立つ範囲で魔法を使う場合は魔導杖を使わず生身でやることじゃ」

「え、そんなこと出来るの?」

「もちろんじゃ、まあ魔導院アカデミーでは推奨しておらんだろうがな……」(諸々大人の事情というやつじゃのう)

「ほえーー」

「では、実践といこうかの……今回は小さな火種が欲しいだけなので《指先》に魔力を集めるイメージでやってみい」

「え!指!?」

「指の先端の少し先に炎を発生させるイメージじゃ……えっと、そうだのう……《炎が出る筒》があるとして筒の穴、射出口は極めて小さいイメージをしてみるとええのう」

「…………」



 メリーは指先を前に出して静かに集中する。



 《ーーボォウッッーー》



「ーーアッッッッツッッ!!」



 メリーの目の前、超至近距離で炎が上がる。



「おお、だいぶいい線いっとるが、まだ火がデカいのう……それと〈一瞬〉の火力ではなく〈継続〉した小さい火がええのう」

「……………」



 淡々とアドバイスする老体だが内心は脱帽していた。本来、魔法の出力を抑える技術は鍛錬を要する上に需要がないとされ魔導院アカデミーでは重要視されていない。教えを説く教諭達でさえ体得していない者の方が多いとされる。それを口頭で伝えただけで直ぐ様実践し、もう上達の兆しを見せるメリーに老体は微かに感動すら覚えるほどだ。



 勝手に感動する老体の傍ら……音がする。



 《ーーボゥッーー》



 メリーの指の先に小さい火がユラユラと灯った。



「あ…………出来……た?」

「おお良く出来たのう、凄いのうメリー」(いや、ホントに驚愕するセンスじゃて)





 老体はポンポンとメリーの頭を撫でた。


 


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