87 明日から本気出す!!
ロワりんの事はともかく、メンバールームが私的流用されている現状を見て、メディア校長が額に手を当てて呻いている。
「もはや、どこから指摘するべきなのか分からなくなったぞ……」
個人的にはこのまま何も触れずに流して欲しいのですが。
無論、そんな訳には行かず、シーラを除いた俺達は部屋の中央で正座させられていた。
ピアリはアンこ先輩を呼びに行っているのでここにはいない。
シーラは我関せずに部屋の隅で読書に勤しんでいる。
「まずはそこの三人、何故ここで普通に寝泊まりしているのだ? 寮室はどうした」
メンバールームは当たり前の様に、ベッドや各々の家具やらが設置されて自室と言っても差し支えがない。
ミっちゃんが申し訳なさそうに弁解する。
「最初は週末だけ泊まるはずだったのですが、思いのほか居心地が良くて……」
「そんな理由で……」
校長が呆れ返って絶句してしまった。
そこへメルさまが調子のいい事を言い始める。
「わたくし達の寮室ですが、困っている子に利用してもらっています」
「……どういう事だ?」
メルさまの言葉に校長が眉をひそめた。
今度はロワりんが畳み掛ける様に説明しだした。
「ほら、ピアっちみたいにルームメイトとトラブルがあったりして、居場所が無くなった子のために緊急避難所的に使ってもらってるんですよ。みんなが仲良くするなんて絶対に無理だし、それは綺麗ごとだと思いますので」
いやあ、よくもこんなでっち上げを言えるもんだよ。普通に感心するわー。
そして校長は、当然の様に言いくるめられてしまっている。
「確かに、一部の生徒へのフォローが行き届いているとは言えない状況だが……」
校長がうんうんと唸って考え込んでしまった。
いや、それロワりんの適当な嘘だからね?
ついでに言うと、空いた彼女達の寮室で頻繁に女子会が行われているって聞きますよ?
「……仕方がない。フォロー体制が整うまでは許可しよう」
見事に上手く丸め込まれましたな。
校長も案外チョロいのだな。
「それとは別にリョウヤ、お前に言わなくてはいけない事がある」
俺にだけって、勘弁してくれませんかね。
そんな特別視しなくてもいいんですからね。
「大変に言いにくい事なのだが、お前はリリナと交際していたのではないのか? 異性との交際は構わない。だが、ピアリとロワリンダの二人とも交際しているようにも受け取れたのだが。……浮気なら感心しないな。それと先程のピアリの姿もどういう事なのだ?」
一番触れて欲しくないところをピンポイントで突いて来る。
どうしよう。物凄く答えにくいのですけど……。
俺が言い淀んでいると、ロワりんがとんでもない事を言い出した。
「その事ですけど、リリナとピアっちとも協議して、セッキーは今の所は共有財産となっています。最終的には奪い取った者が勝ちという約束ですけどね」
「俺は共有財産扱いなのか!?」
「そうだよ。もちろん最後は私を選ぶよね☆」
そう言ってロワりんが笑顔を向けてくる。
もう腹を括って、三人とも幸せにするしかない。みんなが争う姿なんて見たくない。
こんなの前世の価値観だったら、絶対に許されないだろうなぁ。
「私の価値観では全く理解できない話だな……。まさか、お前達もって訳ではないよな?」
呆れ顔で校長はミっちゃんとメルさまに話を向ける。
「私はないですね。彼とは良き友人ですので。むしろ、メルさまはどうなんだ? 満更でもないのだろう?」
「うふふ。ライバルが強力過ぎて、わたくしの出る幕はございませんといったところですの」
ミっちゃんの言葉をメルさまが肯定も否定もせずに笑顔でそれとなく流す。
何、このスルースキル。ちょっと見習いたい。
「しかし、こんな頼りない男のどこがいいのやら……」
校長が俺を見ながら不思議そうに呟いた。
頼りないって……、あなたがそれを言っちゃいます?
アーヴィルさんには悪いけど、あの人も結構頼りない感じがしますよ。
すると、ロワりんが憤慨した様に言った。
「セッキーはやる時にはやる男だよ! 私の事もだけど、リリナの事も命懸けで助けてくれたし!」
俺を擁護してくれるなんて嬉しいよ。
「確かにセッキーは、ここ一番で頑張る男だな」
「それに意外と細かい所にも気を使って下さいますの」
ミっちゃんとメルさまもフォローしてくれた。なんだかこそばゆい。
そして、タイミングよくピアリとアンこ先輩が帰ってきて話に加わった。
「リョウヤ君は、ボクの事も助けてくれたよ」
「私の事も随分と助けていただきました」
「わらわも助けてもらったぞ」
本から目を離さずにシーラも声を上げる。
みんなの様子を見て、校長が目を丸くしている。
「……お前は信頼されているのだな」
校長が珍しく優しい表情で俺を見つめた。
いつもこんな顔してればいいのに。
ピアリが戻ってきた事で、俺とピアリの関係を契約の詳細を誤魔化しながら説明する。
当然の様に校長は頭を抱えてしまっていた。
「魔人ときて、今度は人工妖精とは……本当にお前はなんなのだ?」
転生者です。
と、答えられたらそれで納得してもらえるのだろうか。
取り敢えず、俺は笑って誤魔化した。
校長は呆れ顔だったが、急に思案顔になる。
「ふと思ったのだが、リョウヤ、お前は寝る時はどうしているのだ? 考えてみたら女子と同室だな? ……まさか同衾しているとかではあるまいな!」
今度は睨まれた。この人もころころと表情が変わって忙しいな。
しかし、ピアリやロワりんとも同じベッドで寝た事があるとはとても言えない。
どうしよう。
俺が悩んでいると、ロワりんがまたもやとんでもない事を言い放ってしまう。
「校長、知らないんですか? 寮では隠れて恋人の部屋に泊まり込んでいる子も割といるんですよ? 逆に男子が女子の部屋に来たり。それで邪魔になるからって、部屋から追い出されちゃう子もいるわけでして……」
みんなそんなに乱れた生活をしているのか!?
俺が驚愕している横でメルさまが頷いている。
「確かにそうでしたの。学生の身分で、おめでた婚をしてしまう方達が昨年もいらっしゃいましたの」
この世界でもデキ婚ってあるんだな。
「な、なんだと!? それはけしからん! 早急に規則を厳しくせねば!!」
流石の校長もこの状況には黙っていられないみたいだ。
そこへ興味が無さそうなミっちゃんが校長に問い掛ける。
「校長。ここは生徒の自主性を尊重しましょうよ。校長だって若い頃はその様な事があったのでは無いですか?」
「ぐ……そ、それは……!」
ミっちゃんの言葉に校長が言い淀む。
……多分、これは経験が無い方の反応だ。
この件について触れるのはやめておいた方が良さそうだぞ。
「ま、まあ、その話題は今は置いておく。……そろそろ本題に入らせてもらう」
校長、逃げたな。
というか、今まで本題じゃなかったのかよ。
「今後のお前達の処分なのだが、流石にお咎め無しとは行かない。なので、問題行為ばかり起こすお前達四人には次の休み明けに学力テストを受けてもらう。座学をきちんと受けていれば十分合格できる内容だ。全員合格となったら、パーティー活動の謹慎も解いてやろう」
その事を俺達に伝えると校長は去って行った。
シーラに関しては、今のところ俺達に任せてくれるみたいである。
しかし、学力テストか……。前世の学生時代以来だな。
参考書をある程度こなせばいけるかな?
その証拠にミっちゃんとメルさまが安堵の表情を浮かべている。
「案外簡単な処分で済んで良かったな。座学のテストなど余裕だろう」
「そうですね。それなりに独学で勉強もしていましたから、簡単に終わりそうですの」
余裕の二人とは対照的に、ロワりんだけが真っ青な顔をしていた。
「私、座学とか全然勉強してないから分からないんだけど」
「「え……」」
ミっちゃんとメルさまが固まった。
ここでまさかの駄目な子属性を発揮するとはロワりん、恐ろしい子!
すかさず、ピアリとアンこ先輩が協力を申し出てくれる。
「大丈夫だよ。ボクも勉強を手伝うから」
「私もお手伝いしますよ!」
なんて友達思いの二人なのだろう。
「仕方ない、わらわも一肌脱ぐとするか」
シーラまで協力を申し出てくれるなんて凄いぞ。
「よし、俺も一緒に勉強するから頑張ろうよ!」
ついでに俺も勉強を見てもらおうと便乗した。
「……みんなありがとう!」
ロワりんが半泣きで喜んでいる。持つべきものは友って奴だな。
笑顔のピアリがロワりんに言う。
「じゃあ、今から勉強を始める?」
「ううん、明日から本気出す!!」
素敵な笑顔のロワりんが元気よく答えた。
あ、こいつ駄目だ。
その場にいた全員がそう思ったのだった。




