86 もっと、雰囲気とか大事にする部分とかがあるだろう!!
いやあ、この状況はなんなんですかねー。
二人の間には何かあるだろうと思っていたが、まさかアーヴィルさんがここでプロポーズするとは思わなかった。
いきなりの事だったので、メディア校長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「聞こえなかったのかな? もう一度言う。私と結婚してくれないか?」
二回も言うのか! 凄い度胸だな。
「……は? ……えぇっ!?」
ようやく校長が再起動したみたいだ。
そして、みるみるうちに頬に赤みがさしていく。
とうとう校長もデレてしまうのか……と思いきや。
「お、お前はバカか!! こんな、こんな場所で、しかも何かのついでみたいな感じで求婚する奴がいるかぁあああ!!」
校長が顔を真っ赤にして怒鳴ってしまった。
あー、これめちゃくちゃ怒ってるよな。
「え? こういうのって、早く伝えた方が良かったのかなって……」
見ていて気の毒になるくらいに、アーヴィルさんは狼狽えてしまった。
「だからって……! 普通はこう……もっと、雰囲気とか大事にする部分とかがあるだろう!!」
校長も動揺しているのか、大袈裟な身振り手振りで訴える。
うん。確かに雰囲気は大事だよね。
エルダイさんも『駄目だこりゃ』って感じで、顔を手で覆っている。
「これには、わらわもどうかと思うぞ」
シーラにもダメ出しされるアーヴィルさんの立場って……。
「なので、後日やり直しを要求する!!」
校長は憤然とした顔で言い放った。
「そんなぁ……」
なんだか先が思いやられるやり取りだけど、断られた訳では無いんだから頑張って下さいよ、アーヴィルさん。
そのアーヴィルさんに、シーラが問いかけた。
「ところで、お主は国王の兄だったはずだな?」
「……ん? そうだけど、それがどうしたのかな?」
「お主の身体が回復したとなると、お主を国王の座へ推す勢力も出てくるのではないかなと思ってな。そうなったら結婚話どころじゃなくなるぞ」
王権争いか!
確かに現国王に不満を持つ派閥がいたら、あり得ない話じゃないよな。
シーラの話を聞いていた校長が緊張した面持ちになった。
国王の命を受けているエルダイさんも厳しい表情をしている。
一方、当事者のアーヴィルさんは、まったく気にしていないみたいだ。
「ああ、それは大丈夫。私はメディアの家に婿入りするよ」
まるで他人事みたいな言い草だ。
それを聞いた校長の顔が引きつる。
「はぁ!? いきなり何を言い出すんだ! 自分の立場を分かって言ってるのか!?」
流石にこれには校長も難色を示す。
エルダイさんに至っては、頭を抱えてしまっている。
「私は『いない者』だよ? 今更国王の座なんて興味がないよ。もう決めた事だ。それに、せっかく安定している国をわざわざ混乱させる様な馬鹿な事はしたくない」
自信満々で言い放つアーヴィルさんに、校長は唖然としてしまって言い返せない。
「それにエルダイ、私が復調した事を黙っていれば問題は無いと思うよね?」
「申し訳ありませんが、それは無理です。私には報告義務がありますので」
「そこは黙っておこうよ……」
エルダイさんがアーヴィルさんの思い付きを無慈悲にも打ち砕いていた。
まあ、権力争いの話は俺に関係が無い事だから、口を挟む事じゃないよな。
「それはそうと、今回はリョウヤ君達に救われたね。私から直接褒美を取らせる訳にはいかないけど、困った事があれば私に相談してくれ。可能な限り力になるよ」
アーヴィルさんが俺達に笑顔を向ける。
言い方が悪いけど、これって権力者に貸しを作ったって事だよな。
これを利用しない手はない。
「いえ、恐縮です。……それで早速なのですが、是非アーヴィルさんにお力添えをお願いしたい件がありまして」
「ん? なんだい、そんなに畏まって。遠慮しないで言ってくれ」
「実は、俺を含めて仲間が予備校から処分を受けてまして、ちょっと困ってるんです。パーティー活動も謹慎となり、このままでは退学する事になるかもしれません……」
俺はそう言いながら、校長の方へチラッと目を向ける。
「リョウヤ! お前、それは卑怯だぞ!!」
校長が声を上げるが、それをアーヴィルさんが遮った。
「駄目じゃないか、メディア。恩人に処分を受けさせるなんて、私は納得できない。すぐに取り消してやってくれ」
校長が凄い目でこちらを睨んでる。また小言を言われるのだろうなぁ……。
「……分かった。その事は検討しよう。……リョウヤ、後で話があるからな」
お説教コースは確定したみたいだ。
でも、これでみんなの処分が軽くなるのなら、お説教なんて甘んじて受けようじゃないか。
俺が満足げな表情を浮かべていると、シーラが不思議そうに聞いてきた。
「せっかく権力者の力が借りられると言うのに、そんな頼みで良かったのか?」
「いいんだよそれで。俺は自分達の居場所が守られれば満足だ。そこにはシーラの居場所だって含まれているんだからな」
俺がそう答えると、シーラは『そういうものなのか』と少し嬉しそうにつぶやいていた。
なんだかんだでイチャつき始める校長とアーヴィルさんを横目に、今度は俺がシーラに訊ねる。
「あのさ、シーラは俺の中に魂が二つあるって気づいてた?」
ヨキさんに指摘されてから、妙に気になってたんだよな。
「初めて会った時から普通の人間種だとは思わなかったぞ。だからこそ、リョウヤを気に入ったのだ」
あっさりと普通の人間じゃないと言ってくれるじゃないか。
結局、俺は何者なんだろうな。今度神様にでも聞いてみるか……。
それから俺達はアーヴィルさんとエルダイさんと別れ、再び馬車に乗車して城を後にした。
余談であるが、アーヴィルさんは元々身体が弱かった事もあって、お互いを意識していたのに校長にプロポーズできないまま時を重ねてしまい後悔していたそうだ。
そして、そんなアーヴィルさんを想っていた校長も縁談の話をいくつも断っていたらしい。
随分と遠回りをした二人には、幸せになって欲しいと俺は心から思ったのだった。
◆◆◆
「やっと戻ってきたって感じだなぁ」
馬車から降りた俺は伸びをする。
なんだかんだで、城では緊張しっぱなしだったのだ。
ちなみに車内では、冒険者予備校に戻るまでメディア校長からお説教を受け続けていたのである。
「おい、まだ話は終わってないぞ!」
もう勘弁してくださいよう。お説教なんて懲り懲りだっての。
面倒なので、話をすり替える。
「あ、思い出しました!!」
「なんだ? 突然に」
校長が怪訝な顔をする。
「夢の中で神様に言われたんですよ。図書館の無限回廊の奥にあるコレクションに手を出すなって」
「はぁ? 神様だって?」
何を言ってるんだコイツみたいな表情をされる。
俺を可哀想な子を見る目で見てくるのは、やめてくれませんかね。
それに校長は、食事の前にお祈りするぐらいに信心深いんじゃないのですか?
「取り敢えず神様は置いておいて、無限回廊の奥の書庫ですよ。禁書扱いの本を回収したって話をしてくれたじゃないですか。夢の中で、それに触れるなと言われたんですよ。信じる信じないは別として、俺はちゃんと伝えましたからね!」
最後は神様に向けて言った言葉だ。
「無限回廊の奥にある本か……。夢の中とは言え、その様に具体的な指示をされると少し気味が悪いな。……分かった。心に留めておこう」
しばらく考え込んでいた校長が俺の言葉に頷いた。
理解はしてもらえたのかな。
「それはさておき、今後のお前達の処分についての話もある。全員が集まる場所はあるか?」
「そうですね……メンバールームなら、みんな集まっているかも知れません」
そんな会話をしながら、俺の部屋もある特別棟の前まで俺達は歩いてきた。
特別棟の庭先では、ピアリが洗濯物を干している。
「あ、お帰りなさい。上手く話はまとまった?」
俺達に気づいたピアリが笑顔で駆け寄ってくる。
俺はそれに片手を上げて応えた。
そんな俺達を校長は不思議そうに見ている。
「……しかし、なんと言うか、君は随分と家庭的なのだな」
「あはは。魔力乾燥機で乾かせばいいのですけど、日光に当てた方が洗濯物もふんわりするんですよ」
「君みたいな奥さんをもらう男性は幸せ者だな……っと失礼。君は男だったな」
「……そう思いますよね。実はボク──」
嫌な予感がした。
そしてピアリがまばゆい光に包まれたと思ったら、銀髪ピアリになっていた。
「──女の子だったんです! 将来はリョウヤ君のお嫁さんになる予定ですよ!!」
そう言ってピアリが胸を張った。
校長が物凄く何かを言いたそうに俺を見てくる。
ピアリが女の子に変身した事についてなのか、俺のお嫁さんになると言っている事についてなのかは、分からない。
「……この件については、追々お話をさせていただきます」
俺はそう答えるのがやっとだった。
苦しげな表情を浮かべる俺を見て、シーラとピアリはおかしそうに笑っている。
くそう、他人事だと思いやがって……。
これ以上、何も起きません様にと祈りつつ、扉をノックしてパーティーメンバールームのドアを開ける。
俺の帰還に気づいたロワりんが、いきなり駆け寄って抱きついてきた。
「お帰りセッキー! 昨日一緒に寝たのに、朝になったらいないんだもん。寂しかったんだ……ぞ」
ドアを開けるなり抱きついてきたロワりんだが、俺の背後にいる校長の存在に気づいて硬直する。
そして、ゆっくりと俺から離れた。
「……それで、城ではどんな話をしていたのかな?」
何事もなかった様に話題を変えるロワりんさん。
もう遅いわ! こんちくしょうめ!!




