829 できれば顔を合わせたくない
王妃様達の服装で一悶着あったが、どうにか目立たない平服を着てもらった。
それでも色々なオーラが滲み出てて、一般人には見えない。
ようやく出発というところで、『待った』がかかった。
今度は何ごとかと思ったら、王妃様達の側仕えのメイドさん達の嘆願だ。
護衛はともかく、お側には何かあった時のために女性が必要だと。
これには国王のサイラントさんも同感だと頷いている。
一方、王妃様達は身軽な方がいいと頑として要望を受け付けない。
「リョウヤ君、我々は目立たない方がいいのだろう? いいのか? 我々が王妃だと知られた途端、刺客が襲ってくるかもしれないぞ? 君に責任が取れるのか?」
イルミナージャ王妃が凄い圧を掛けてくるのですが。
ここで反論したら、センシア王妃やミムリティ王妃の他にリネイリナ王妃にまで詰め寄られそうだ。
「分かりましたよ! じゃあ、せめてうちから誰か一人呼びますから。それで我慢してくださいね」
メイドさん達と王妃様達は渋々頷いた。
早速メアに念話で連絡を取ったところ、もうみんな家にいないとの事。
……居留守じゃないよな?
『まあ、居留守の子もいるけど、王妃達の付き添いなんて死んでも嫌だと駄々をこねるわね』
さもありなん。
サっちんとメルさまなら、貴族のマナーを知ってるから王妃様相手でもどうにかなるだろうけど、他の子達は難しいよなあ。
……よし、あの人を連れ出そう。
「サイラントさん、メディア校長はどうですかね?」
「メディアか。あいつなら問題は無いな。じゃあ、これで連絡を取れ」
そう言ってスマホみたいなのを差し出された。
「これは?」
「最新型の魔導力通話機だ。従来の設置型を携帯できるように改良された物だが、まだ試作段階らしいぞ」
王立魔導機関も色々やってるんだなあ。
校長宛ての番号は登録されているので、問題なく繋がった。
『私だが、どうした? サイラントからプライベート通話とは珍しいな?』
スピーカー通話になってるらしく、周囲にも声が広がる。
これでは変な事を言えないな。そもそも言うつもりもないけど。
「あー、すみません。サイラントさんじゃなくてリョウヤです。サイラントさんから魔導力通話機を借りて掛けてまして」
『そうか。それで、私に何か用か?』
「はい。これから王妃様達のお忍びで出かける事になりまして、校長にも同行して手伝ってもらえませんかと」
『…………』
「ええっと、やっぱり忙しいですよね?」
『まあ、忙しいには忙しいが……。おい、リリナ。ちょっといいか』
校長は近くにいるらしいリリナさんを呼んでいる。
スケジュールの確認でもするのだろうか。
『これこれこういう訳でリリナ、お前が同行してやれ』
『いやです』
即答だった。
ちなみにだが、このやり取りは王妃様達にも丸聞こえである。
『お前なあ……上司の私が頼んでるんだぞ? それを断るのか?』
『頼んでるって、それ命令ですよね。そういうの今ではパワハラって言うんですよ』
『そういう屁理屈っぽいところは、リョウヤにそっくりになってきたな』
『リョウ君とそっくり……ふふ。私もリョウ君色に染まってしまったのかしら♪』
リリナさん、そういう恥ずかしいセリフは二人きりの時にお願いします。
周囲からの視線が居た堪れないです。
『お前なあ……』
『冗談ですよ。そもそもですが、今日も予定がみっちり埋まってますよ。商業地区の視察と学生の求人先の開拓、その次は学府での講演があります』
『そうだったな。……という訳だ。すまないな』
「いえ、こちらも急なお願いでしたので」
『そう言ってもらえると助かる。まあ、仮に暇だとしても断ったがな』
「そうなんですか?」
『ああ、実はあの王妃達が苦手でな。できれば顔を合わせたくない』
この会話、王妃様達も聞いてるんだけどな……。
「ほう、そうか。メディアは我々の事が嫌いなのだな?」
「あら、メディアさんからそう思われていたなんて悲しいのですわ」
「ふーんだ! メディアちゃんがそう言うなら、ミムだって考えがあるからね!」
リネイリナさんは、あまり校長とは接点が無かったのか我関せずで高見の見物らしい。
『……!? おい、そこに王妃達がいるのか!?』
『あわわわ……! 私ったら、王妃様達に失礼な事を!!』
もう後の祭りである。
「最初からおりました」
『謀ったなリョウヤ!!』
『リョウ君ひどい!!』
そうは言われましてもねえ。
「そういう事だ。後でじっくりと話し合おうじゃないか」
「メディアさんとも最近お茶をしてませんでしたし」
「ミムの特製手作りクッキーをご馳走するね♪」
『そうやって圧を掛けてくるところが嫌なんだよ!!』
そのままガチャ切りされてしまった。
校長でも苦手な相手っているんだなあ。
ちょっと意外だった。
「ええと、そんな訳で校長から断られてしまいました」
「わざわざ言わなくても、全部聞いてたからな」
サイラントさんは携帯型魔導力通話機を受け取りながら溜息を吐いた。
これで話は振り出しに戻ってしまう。
「じゃあ、城の誰かを連れて行くしかないですね」
「リョウヤ君、我々の話を聞いていたのか? これはお忍びだぞ? 城の者を連れて行ったらお忍びでなくなるからな?」
相変わらずイルミナージャ王妃の圧が凄い。
「城の人以外なら構わないと?」
「分かってるじゃないか」
要は変に王妃として気を使われたくないって事なのだろう。
本当は女性の騎士とかいたら同行してほしかったのだけど、近衛騎士には女性がまだいない。
いずれエレノアが女性の近衛騎士団を設立するみたいな話もあるらしいが、今はさておき。
そもそもが城に関係する者はお断りとの事。
どうするかなあ。流石にその辺の女の人をスカウトする訳にもいかないだろう。
メイドさん達がそれを許してくれそうにもない。
彼女達は下級貴族の娘らしいので、一般人には分からないプライドがあるようだ。
だとすると、それなりの立場のある人か。
校長ならうってつけだったのだが。
まさか、ミっちゃんママやアヤメさんを呼ぶわけにもいかない。
ファルさんなんて呼び出した暁には、後でどんなご褒美……じゃなくてお仕置きをされてしまうのやら。
「あ、一人そういう人がいたのを思い出しました。サイラントさん、王国特殊犯罪捜査課に連絡取れます?」
「誰か知り合いがいるのか?」
「はい」
そんな訳で一人の女性が呼び出された。
「国王陛下にお目通り叶うとは光栄至極に存じます!」
「面を上げよ」
「はは!」
緊張の面持ちで顔を上げたのは、王国特殊犯罪捜査課の上級捜査官のエイザさんだ。
彼女はレイズとノノミリアの実家のイベントで、バケモン密猟騒ぎに巻き込まれた際に知り合った。
彼女は城に関係する人ではないし、それなりの立場の人のはずである。
エイザさんは俺の姿を見て、より一層に緊張した様子。
そんなに身構えなくてもいいのに。
それはそれとして、相変わらず制服がミチミチだ。ダイエットにはあまり成功していないようだな。
「今回、其方に王命を与える」
「ははっ!!」
王命と聞いてエイザさんの表情が引き締まる。
普通の人ならば玉座の間にも入れないし、国王や王妃に直接声を掛けてもらえる事もない。
俺の立場が異常なのだ。
「そう固くならなくてもよい。王命というより、秘密のお願いだ。王妃達がお忍びで出かけるので同行してほしい」
「国王陛下、発言をお許しいただけるでしょうか」
「許す」
「ありがとうございます。その同行というのは、王妃陛下の警護という事でしょうか。それなら、王国騎士団の方が我々より向いていると思います」
「いや、王妃達は自分の身は自分で守れる。今回其方に個人的に頼みたいのは、簡単に言うと王妃達の話し相手だな」
「…………」
エイザさんが固まってしまった。
そんでもって、グギギギと音を立てながら俺の方へ顔を向ける。
その表情は今にも泣きそうだ。
俺は頑張れと笑顔で親指を立てた。
そんな訳で善は急げとばかりに、平服の王妃様達と合流して玉座の間から転移の鏡で竜牙の里へ向かう。
エイザさんには転移の鏡の事は絶対に内密にと念を押しておく。
王妃様達に囲まれたエイザさんは顔面蒼白で頷くしかなかった。
「ほほう、ここが竜牙の谷か。風光明媚な場所だな」
「微かに漂う、この腐った卵のような香りは魔力泉でしょうか」
「リョウヤ君、くさいよう!!」
「俺が臭いみたいな言い方をしないでくれませんかね」
「だって事実だもん!」
ミムリティ王妃の言葉で俺がショックを受けている横で、リネイリナ王妃がエイザさんのフォローをしてくれてるようだ。
「うふふ。驚かれました?」
「い、いえ……もう何が何やらなので。ところで、リネイリナ王妃陛下。私のような者に気軽に声を掛けていただけるのは嬉しいのですが、誰が見ているのか分かりませんし控えて頂けると……」
「そんな風に思っているのですね。少し悲しいです」
「あ、いえ! 断じて批判する訳でなくて……!!」
「おい、エイザ。今の我々は、お忍びで平民だぞ。王妃と呼んでくれるな」
「そうですわ。リョウヤさんも、わたくし達の事は王妃と呼ばないでくださいね」
「特別にミムの事をミムって呼んでいいからね♪」
何故か俺も巻き込まれた。
そして、エイザさんは既に瞳に涙を浮かべている。
呼んでおいてだけど、里に入る前からこんな状況で大丈夫なのだろうか。




