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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第三章

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79 とうとうセッキーも重罪人の仲間入りか

「すぐに食事の用意をするから、適当に座っていてくれ」


 メディア校長は俺達を自宅に招き入れると、早速キッチンへ向かった。

 食卓に通された俺達は、借りてきた猫のようになってしまっている。

 これが同世代の友人宅ならくつろげるかもしれないが、流石にそんな余裕は無い。

 シーラも心なしか居心地が悪そうだ。


 周囲を見回すと、落ち着いた調度品が並んでいてセンスの良さがうかがわれる。

 リリナさんとは違った、もっと大人の女性の雰囲気って感じだ。


 それはそうと、校長宅にお邪魔するのが分かっていたら、手土産でも持って来れば良かったかな等と考えていると、シーラの服装が変わっているのに気付いた。

 最初は随分と古めかしい黒いワンピース姿だったのが、どこか垢抜けた感じの王都の街でよく見かける流行りの服を着ていたのだ。


「今更気付いたのか……? リョウヤ達がいない間にリリナとアンが入浴を勧めてくれて、新しい服も用意してくれたのだ」


 シーラが呆れ顔になりつつも新しい服が気に入ったのか、着崩れていないかチェックしている。

 流石に数百年も地下に閉じ込められていたので、リリナさんと先輩も色々と気を使ってくれたのだろう。

 そんな会話をしていると、キッチンの方から校長の足音が聞こえてきた。


「待たせたな」


 キッチンから戻ってきた校長は大きな鍋を持っている。

 その鍋からは空腹を刺激するいい匂いがしてきた。

 シーラに至っては、既にスプーンを握りしめていて行儀が悪いぞ。


「匂いからもで分かりますけど、校長って料理の腕前がプロ級じゃないですか?」


 取り敢えず黙ってるのもアレなので、感じた事を素直に伝えた。


「……褒めても何も出ないぞ」


 その割には嬉しそうな表情をしていらっしゃる。


 食卓に並んだ夕飯はビーフシチューだった。

 見てわかる程に具材がよく煮込まれているな。これは固いパンに浸して食べると最高のやつだ。


「いただきます!」


 早速食べようとしたのだが、校長が俺を睨んでいる。

 何ごとでしょうかね?


「ふざけているのか? 食事の前はエルファルド神の恵みに感謝するのが習わしだろう」


 校長がまるで食事中に悪ふざけをする子供を叱る母親みたいだ。

 ちなみにこの国では、エルファルドという女神が一般的に信仰されているので、信心深い人は何かの折につけ祈ったりするのだ。


「なんだ? 今の時代は食事の際にエルファルド神に祈るのか? 時代は変わったな……」


 シーラの方はジェネレーションギャップを目の当たりにした顔になっている。

 昔はエルファルド神の扱いって、どうだったんですかね。


 そもそもだけど、俺は元は異世界の人間だったので、食事の際のお祈りとか言われてもピンと来ないんだよなぁ。

 そんな訳で、食事の前のちょっとしたカルチャーショックを味わいながら夕飯も味わう。


 メインのビーフシチューだが、王都で食べる牛肉は基本的に筋が多い。

 しかし、それすらも気にならないぐらいに煮込まれていて、味が染みているのが見ただけでも分かる。

 具材がよく溶け込んで味も出てるし、これは普通に店に出せるレベルだぞ。

 こう言ってはなんだが、予備校の食堂の料理よりもはるかに美味しい。


「これ、物凄く美味しいですよ!!」


 これは想像以上だった。冗談抜きでご飯三杯はイケるぞ。

 シーラの方を見れば夢中でスプーンを動かしている。

 本当に美味しいと言葉が出ないってやつだろうか。


「そうか。そう言ってもらえるなら、ご馳走した甲斐があったな。おかわりはまだあるぞ。足りなかったら言ってくれ」


 校長が言うなり、シーラは早速おかわりをしていた。

 少しは遠慮しろよな。

 だけど校長は、シーラが口の周りを汚して美味しそうに食べる姿を嬉しそうな表情で見つめている。

 その表情は子供を見守る母親のそれだった。


 ビーフシチューは大きな鍋いっぱいの量で、とてもじゃないが一人で食べるには多すぎる量だ。

 校長はここに一人で住んでいるのだろうか。単身赴任って事もないだろうし。

 誰かの為に作ってたとか……?


「校長は独身なんですかね?」


 好奇心に負けてつい聞いてしまった。

 すぐにシーラがジト目で俺を睨んでくる。


「リョウヤ、いくらなんでもそれは失礼だろう」


 うん。言ってから気付いたけど、これは俺も失礼だと思った。

 反省します。


「構わないぞ。よくある話で、タイミングを逃したというだけだ」


 やや自嘲気味に校長が笑った。

 若い頃は仕事優先で婚期を逃したなんて話は、いくらでも聞いた事があるので珍しい事ではないだろう。

 校長もそのタイプだったのかな?


 食事も大変美味しくいただき、後片付けを手伝っていると校長が本題を切り出してきた。


「今日お前達を呼んだのは、シーラ嬢の事だ」


 当のシーラは悠々と食後のお茶を飲んでいる。

 お前も片付けを手伝えよ……。


「二人には明日、私と共に城へ来て欲しい。……これはお願いではなく国の命令だ」


 国からの出頭命令かよ。随分と物騒な展開だな……。

 俺は思わずシーラの方を見ると、彼女はまったく意に介してない様子だった。

 シーラがその気になれば王都を火の海にできるだろうから、怖くもなんともないのだろう。


「流石にシーラ嬢の事を国に報告しない訳にはいかなかったからな。悪いが城には付き合ってもらうぞ」


 校長が有無を言わさずに迫る。

 それにしても、出頭命令か。

 俺はせいぜい何処かの役所にでも呼ばれる事もあるんじゃないか程度だと、高をくくっていた。

 それが城とはな。随分と大事になってしまい頭を抱えたくなる。


「シーラは全然動揺していないな。城なんて、庶民にはまったく縁が無い場所だぞ……」


「今の王家なんぞ、わらわには関係ないからどうでもいいのだ」


 それを聞いた校長は苦笑いを浮かべていた。

 王族に対してどうでもいいと言えるのは、余程の怖いもの知らずだからな。


「まあ、城の者達も別に取って食うわけじゃないから、そんなに緊張するな。……信じていないわけじゃないが、シーラ嬢の事は改めて調べさせてもらいたい。本当に魔人族の生き残りだとしたら、保安上の問題も出てくるし、国際情勢にも影響が出かねないのでな」


 テーブルを拭きながらメディア校長が渋い顔をする。

 普通に家事をしながら、こんな話をする絵面はシュールだな。


「国際情勢に影響って、シーラはそんなに影響力があるんですかね? 確かにあの魔法の威力は凄かったけど」


 こんな人形みたいな女の子が、国際問題の元になるなんてピンとこない。


「リョウヤ、わらわがどんな理由で地下に閉じ込められていたのかを忘れたのか?」


 シーラが呆れ顔で溜息を吐いた。


 ……そうだったな。覇権を争っていた各勢力が互いにシーラを味方に引き込まない様にと共同で地下に封印してしまったのだ。


「そういう事だ。もしシーラ嬢の存在が国外に漏れたら、戦の火種にならないとも言えん」


 メディア校長がやれやれと肩をすくめた。


「残念だが、それはもう遅いかもしれん」


「どういう事だ!?」


 シーラの言葉に校長が驚愕の表情を見せた。

 こんなに取り乱した校長は見た事が無い。


「わらわが火柱を見せた時、遠くからこちらの様子を窺っていた者達がいたのだ」


 そう言ってシーラが眉をひそめた。


「あの時はまだ城にシーラ嬢の事は伝えていないから、この国の諜報員の可能性は低いな……」


 校長は難しい顔で考え込んでしまう。

 というか、諜報員とかって普通にいるのね。違う世界の話にしか聞こえない。


「でもさ、様子を窺っていたなんて何故分かったんだ?」


 火柱は俺も窓から見ていたが、そんな人影には全く気付かなかった。


「常人では視認できない程の距離から遠見の魔法を使ってこちらを窺っていたのだ。三人程いたがそれぞれが手練れだったな。負ける気はしないが本気でやり合うには少し骨の折れる相手だ」


 シーラが骨の折れる相手ってどんなレベルだよ……。

 それを聞いて校長が眉間にしわを寄せる。


「この王都に、そこまで力のある諜報員はいないぞ。これはシーラ嬢の保護を急がないといけないな」


 俺としては何故校長が諜報員の事を把握してるのかが不思議だったけど、聞いたらいけない気がして敢えて触れなかった。


「向こうの顔を覚えたし、まだこの街から動く気配も無いだろうから大丈夫であろう。なんだったら、こちらから挨拶しに行ってやってもいいぞ」


 シーラがはにっこりと笑いながら物騒な事を言いだした。

 俺と校長は思わずお互いの顔を見合わせてしまう。

 こいつには常識は通じない。改めてそう思うとゾッとする。


 疲労の色を見せた校長は額を押さえながら、有無を言わさず俺達に命じたのだった。


「色々と考えなくてはいけない事が山積みになってしまったな……。お前達、明日の朝一番でここに来い。分かったな?」


 えー、朝一とか勘弁してよねー。




  ◆◆◆




 校長に夕飯のお礼を言って私邸を後にした帰り道、シーラに聞いてみた。


「シーラを見ていた奴って他国の密偵とかだったのかな?」


「さあな。わらわは久々に地上に出たばかりだから分からない。だが、そやつらはこの王都に留まっているのは気配で分かる。……気になるのなら先手必勝で叩き潰すか?」


「いや、敵対する様子が無ければ無用なトラブルは起こさない方が良いよ」


 それ以前にそんな厄介そうな相手に関わりたくないし、これ以上シーラを目立たせたくなかった。


「……そうか」


 シーラはつまらなさそうに答えると、すぐに興味を失ったみたいだ。


 報告を兼ねてメンバールームに戻ると、仏頂面で座るロワりんを銀髪ピアリとリリナさんが囲んでいた。

 そしてそれをミっちゃんとメルさまとアンこ先輩が遠巻きに見ている。

 なんだこの状況?


「ねえ、ミっちゃん。何があったんだ?」


「セッキーはのん気な物だな……」


「刺されても文句は言えませんの」


 ミっちゃんとメルさまに心底呆れたと言いたげな表情で見られる。

 俺が悪いのかよ。


「セッキー君、生の修羅場は凄い迫力でしたよ!」


 若干一名、先輩は瞳を輝かせている。

 ……だから、一体何があったんだよ!?



「はい。リョウ君達が帰ってきたので、このお話はここまでね」


 俺達が帰ってきた事に気付いたリリナさんが手を叩いて何かの話し合いを打ち切った


「ロワりんもしっかりやるんだよ?」


 ピアリが両手で仏頂面のロワりんの頬をムニムニと揉んでいる。

 そのロワりんは黙って頬を揉まれている。

 ……だから、一体この場で何が話し合われていたというのだ!?


 状況を読めずに戸惑う俺を無視して、リリナさんが聞いてきた。


「それで二人ともメディア校長の話はなんだったの?」


 俺としては、リリナさん達の話し合いの方が気になるのだが、聞かれたからには素直に答えておく。

 明日城に行く事になった話を適当にかいつまんで、みんなに説明した。


 城と聞いてミっちゃんが難しい顔をしている。


「城か……。とうとうセッキーも重罪人の仲間入りか」


 なんでそうなるんですかね。


「投獄されても面会には行ってさしあげますの」


 メルさまの中では既に俺は罪人扱いなんですかね。


「ええ!? セッキー君が捕まってしまうのですか!?」


 ほら、先輩が信じちゃったじゃないかよ。


「そうなったら、わらわ達で差し入れを持って行ってあげような」


 シーラが先輩の頭を撫で、先輩は気持ちよさそうに撫でられている。

 すっかり仲良しさんですな。


「……って、お前も一緒に王城に行くんだろうが!!」


 他人事を決め込むシーラに思わずツッコんでしまった。

 ここはボケしかいないのかよ。


 そんな俺を見てロワりんが微笑む。


「セッキーは変わらないなぁ……」


 表情も柔らかくなったし、少し落ち着いたのかな?

 部屋から飛び出して行った時の彼女の姿とは別人だった。

 みんなで、どんな話をしていたんだろう。

 気になるけど、今日はもう疲れた。


「悪いけど、疲れたので俺は明日に備えて風呂入って寝ますよ」


 本当に色々とあり過ぎて、頭も体も全てが疲労している。

 部屋から出ようとした俺をロワりんが呼び止めた。


「セッキー、ちょっと待って!」


 もう、なんですかね。手短にお願いしますよ。


「セッキーって、ピアっちと同じ部屋で一緒に寝るんだよね?」


 ロワりんの言葉に全員が固まった。

 今のピアリは女の子でもある。

 女子と二人きりで同じ部屋で寝る。


 ……うん。確かにこれはヤバいよね。

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