78 明日じゃダメですかね?
ピアリと二人でみんなの所へ戻る途中、いつにも増して気まずい雰囲気になってしまった。
あの狭い部屋の雰囲気に飲まれて、お互いに恥ずかしい事を言い合っていたのだが、ふと我に返ってみれば赤面どころの話ではない。
「あのさ、リョウヤ君……」
「な、なんですかね?」
「さっきの話は一旦、忘れる事にしない?」
「奇遇ですな。ちょうど俺もそう思っていたところだ」
暗黙の了解というやつです。
こうして俺達は、何ごとも無かった体で帰る事にした。
だけど部屋に戻るまで、ずっとお互い意識してしまっていたものだから、知らない人が見れば挙動不審の二人組に見えたのだろう。
無事にメンバールームに戻ると、ミっちゃん達は先に戻っていたみたいで俺達を出迎えてくれた。
「おお、本当にピアっちを連れて帰って来るとはな! 流石セッキーだな」
ミっちゃんよう、その言い方は俺の事を信用してなかったんですかね?
「それにしても、セッキーとピアっちの距離がなんか近くない?」
ロワりんさん、どうして毎回そういう事に関して鋭いのでしょうかねぇ。
「セッキーさんは、やる時はやる殿方ですの。わたくしは最初から信じていましたからね」
メルさまに褒められると、逆に不安になるのはどうしてでしょうかね。
そしてアンこ先輩も俺達を気遣ってくれてるのか、おずおずと近付いてきた。
「あのう、セッキー君。……ごめんなさい! 結局全部ばれちゃいました!!」
先輩、全部ばれたって意味が分からないのですが……。
気付くと先輩の背後でリリナさんが思いっきり頬を膨らませてプンスカしてるんですが!?
シーラがてへっと舌を出してるので、何があったのかは大方予想がつくけど、今はピアリの事が優先だ。
ピアリがみんなに向けて頭を下げる。
「えっと……皆さん、大変ご心配をお掛けました」
俺達二人は、みんなに先程の経緯を説明する。
もちろん、普通に説明するだけではとうてい信じてはもらえないだろう。
百聞は一見に如かず、銀髪ピアリの姿を見せたらちょっとした騒ぎになった。
おかげでピアリの話はみんなが驚いていたけど、割とすんなり信じてもらえたようだ。
この世界の人達って、適応力が高いと思うのですよ。
シーラの事だって、今日出会ったばかりだというのに、もうみんなと馴染んでるし。
ロワりん達は最初、シーラの事を怖がっていたよね?
俺が気にし過ぎなのかなあ……。
それはさておき、ピアリとの契約の代償については多少濁しておく。
流石にピアリが俺の所有物扱いになったとは口が裂けても言えない。
シーラは何か感付いていたのか、意味有りげな視線を俺達に向けていたけど。
無事にこれにて一件落着と思いきや、リリナさんの対応に苦慮することにもなった。
流石にシーラがベルゲル先生の隠し子設定は苦しかったよなー。
「リョウ君。私としては、シーラさんの正体の事で嘘を吐かれたのもショックだけど、地下ダンジョンに潜って危険な目に遭っていた事を黙っていたのは許せないからね!!」
シーラが魔人族であった事実よりも、俺が機械人と戦ってピンチになっていた事の方が彼女にとって大きな問題だったらしい。
これにはシーラも複雑そうな顔をしていた。
彼女の怒りは収まらず、目が据わっていらしゃいます。
これは下手に言い訳をしないで、きちんと謝らないといけない。
「すみません。緊急事態だったので、事情を説明している余裕が無かったんです」
ここは何卒ご容赦の程を、といった感じで低姿勢で謝罪の意を示す。
これで駄目なら土下座でごり押しだ。
「リリナさん。私からも謝りますから、セッキー君を責めないであげてください」
俺を庇ってくれる先輩はマジ天使だ。だが、これは俺の問題だ。
そんな俺達を見て、流石にリリナさんも怒れなくなったみたいである。
そしてシーラが何故か満足げに頷いていた。
くそ、誰のせいでこうなったと思ってるんだ……。
今度こそ、一件落着と思ったのも束の間。
お次はロワりんである。
「やっぱりピアっちってば、妙にセッキーと距離が近くない?」
なんでそこで、またその話を蒸し返すのですかね。
どんどんロワりんが面倒な子になってきている気がするんですけど……。
「え? いつもボクはこの距離感だよ? 何か問題あるのかな。そもそもリョウヤ君って、ロワりんの物ではないよね? なんでそんなに執着するの?」
おいおい、いきなり挑発するなよ!
揉め事は勘弁してくれよう。
「それは──!!」
ロワりんが言葉に詰まってしまい、そのまま部屋から飛び出して行ってしまった。
なんでこうも次から次へと問題が続くのですかね!?
いい加減に頭が痛くなってくる。
「ピアリ、なんて事を言うんだよ。ロワりんが泣きそうだったぞ!」
俺はピアリに文句を言うが、当の本人は悪びれていない。
契約の影響で性格も変わってしまったのだろうか。
「だってさ、見ていてじれったいんだよ。リョウヤ君の事が好きなのがバレバレなのに、ちゃんと好意を示せてないんだから」
今度は俺が言葉に詰まる番だった。
魔狼討伐の時、ロワりんと二人きりになった夜の事を思い出してしまう。
確かにあの晩、彼女は俺に好きだと言ってくれた。
それをヘタレな俺がウヤムヤにしてしまったのだ。
これは俺も悪いよなぁ。
こちらもきちんと答えを出さないといけないのか。モテる男はつらいぜ……。
って、くだらない冗談を言っている場合ではない。
ミっちゃんとメルさまの二人が溜息を吐きながら語ってくれた。
「まあ私達から見ても、思いっきりセッキーを意識してるのがバレバレだったからな」
「わたくしも近くで見ていて、ヤキモキしていましたの」
友人にもしっかりバレてる上に、見守られていたロワりんがなんだか不憫になってきた。
そんな俺達の様子を見て、先輩が瞳を輝かせている。
「これはピアっち君との三角関係になるのでしょうか。いえ、リリナさんもいるから四角関係……!?」
そこでシーラが楽しそうに口を挟む。
「修羅場展開は必至だな。まったく、リョウヤも罪作りな男だ」
「修羅場展開! そうですよね! 分かりますよね!?」
先輩とシーラが知らない間に意気投合している。
でも流石に修羅場は笑えないんだけど……。
苦悩する俺をリリナさんは少し困った顔で見ていた。
「まあ、ロワりんの事は私達に任せてくれ」
「そうですの。セッキーさんは殿方らしく腹を決めてくださいね」
そう言ってミっちゃんとメルさまは、ロワりんを探しに行ってしまった。
彼女達を見送ると、リリナさんが俺に別方面から追い打ちを掛ける。
「ところでリョウ君。メディア校長に呼ばれていた件なのだけど、今からでも行った方がいいと思うよ?」
そうだ! 校長に呼び出されていたのをすっかり忘れていた……。
「明日じゃダメですかね?」
正直、今日は本当に色々な事が起こりすぎて疲れた。
夕飯食べて早く寝たい。
「ダメだと思うよ。それに頼まれた私も怒られるから……」
リリナさんに迷惑は掛けられない。
俺はくじけた心に活を入れ、メディア校長の元へシーラを連れて向かう事にした。
「もう遅いから校長室にはいないと思うよ。この時間だと私邸の方だと思うので、そちらを訪ねてみてね」
リリナさんに校長の私邸の場所を教えてもらい、シーラと二人で向かう。
シーラは面倒くさいとブツブツ文句を言っている。全ての元凶はお前じゃないかと言いたくなるが、シーラも被害者だったのを思い出す。
それにシーラがいなければ、ピアリを助けられなかったかもしれないし。
感謝こそすれ、文句を言うのは筋違いか。
◆◆◆
リリナさんから聞いた私邸の場所は、教職員用の寮の先にある二階建ての一軒家の建物だった。
建物に明りが灯っているので、留守ではないらしい。
「へえ、こんな場所があったんだな」
まず普通の生徒は、こんな場所に来ないので知る由もない。
門の脇には呼び鈴の代わりに、世界観にそぐわないインターホンがあった。
そのインターホンには、ご丁寧にカメラレンズみたいなのまで付いている。
「シーラ、このレンズ部分にギリギリまで近づいて覗いていてくれ」
「……わらわに何をさせるのだ?」
「まぁまぁ」
怪訝な顔をするシーラをなだめ、俺はインターホンのボタンを押してシーラにレンズを至近距離で覗かせる。
しばらくして反応があった。
「……どちらさんですか……うわ!! 何事だ!?」
インターホン越しに校長の驚いた声が聞こえてきた。
うん。モニタにいきなりどアップの顔はビックリするよね。
「お主は子供か……」
シーラが呆れているが気にしない。
早く休みたいのに呼び出されたんだから、このくらいのイタズラは許されるだろうよ。
だがそのイタズラは許される事なく、ドアを開けて出てきた校長にいきなり手にしたお玉で頭を叩かれた。
「お前は子供か……」
校長が呆れ顔でこめかみを押さえる。
うむ、すぐさっきも同じ様なセリフを聞いた気がするな。
「俺は何もしてませんよ。そもそも覗いてたのはこいつですし」
隣にいるシーラを指さした。
「リョウヤ、お主!? わらわのせいにするのか!!」
「いい加減にしろ!!」
怒った校長に再びお玉で頭を叩かれた。
くそう、体罰反対だ!
文句を言おうとして校長を見ると、普段とは違った雰囲気だった。
「……なんですかね、その格好?」
いつもはアップでまとめている髪を下ろし、服も着心地の良さそうなブラウスとシンプルなスカートで、極めつけはフリルの付きのなんとも可愛らしいエプロン姿だ。
なんというか……母親って感じなのだろうか。
「…………あ」
俺に言われて気づいたのか、慌ててエプロンを脱いでいる。
調理中だったなら、エプロンを脱がなくてもいいのに。
「気にするな! 夕飯を作っていただけだ! その……なんだ、二人とも食事がまだなら食べて行くか?」
あの校長が手料理だと!?
これは何かの罠じゃないよな?
どう受け取れば良いのだろう……。
「リョウヤ、わらわは空腹だ。ここは素直にご馳走になろう」
正直言うと、俺もお腹がペコペコである。
「シーラがそう言うなら、お言葉に甘えさせていただくとしますかね」
「二人とも、中へ上がってくれ」
どこか照れた表情の校長に案内されて、彼女の家にお邪魔する事になったのだった。




