7 魔法って、使えなくなる物なんですか?
風呂から出て体を拭いてる時も、ピアリが何か言いたそうな顔をしている。
ちなみに脱衣所の洗面台に備え付けの魔道具ってドライヤーだったんだな。
これも蓄魔石で動いてるのだろうかと、ピアリが髪を乾かしてるのを見ながら思った。
それにしても、鏡を見ながら髪を乾かす姿は完璧に女の子なので、時々変な気持ちになりそうで困る。
夕飯だが、俺は焼き魚定食でピアリはカレイの煮付け定食を選んだ。
ここの食堂のメニューの謎が余計に深まった気がしたけど、気にしないでおく。
やっぱり、あの厨房のおばちゃんはいないか……。
「なあ、ここのメニューって世界観に合わなくないか?」
「世界観て何のこと? ボクはここのメニューは珍しくて好きだよ」
世界観はさておき、この食堂のメニューは現地人にとっても珍しいみたいだ。
「ねえねえ、この後キミの部屋に遊びに行っていい?」
律儀に聞いてくるが、ここ数日ピアリは普通に遊びにきている。
そのまま俺にくっついて部屋に来たピアリだが、俺の顔をずっと見ている。
そんなに見つめないでくれよ。恥ずかしいじゃないか。
「ねえ、リョウヤ君。キミ、なにか悩みがあるんじゃないの? ボクに相談してくれていいんだよ?」
う、意外に鋭いな。
「な、なんでも無いよ。悩みなんて無いから」
「嘘だ。その顔は絶対に何か隠してるよね?」
「だから何も無いって言ってるだろ」
「いーや、絶対に隠してる!」
「隠してねえよ!!」
結局お互い掴み合いになって揉めていると、ベルゲル先生が俺の部屋に訪ねて来た。
「邪魔するぞーって、もう女を連れ込んでるのかよ……。しかも修羅場か! 俺はお前の父親になんて報告したらいいのか。お預かりしているお宅の坊っちゃんが早速大人の階段を昇ってしまって申し訳ないです!とか謝るのなんて嫌だぞ」
「違いますって! こいつは普通に友人ですし、そもそも男ですから!!」
取り敢えず、変な誤解はされたくない。
きちんと否定しておかないと後が面倒な事になる。
「分かってるって。冗談で言っただけだ。おう、ピアリ元気か?」
「先生こんばんは。ボクはいつも元気ですよ〜。と言うかリョウヤ君、ボクの事を友人だと思ってくれてるんだね、嬉しい!」
……何だこの茶番。凄い疲れるのだけど。
「それで先生は、なんの用で来られたんですか? 伝えてもらえば俺の方から伺いましたのに」
「あー。その事なんだが、お前の蓄魔石の充填具合を見てな。もう一度魔力測定をしてみようかと思って、こいつを持って来たんだよ」
先日メディア校長の部屋で見た水晶板をベルゲル先生が懐から取り出した。
「ボクは席を外した方がいい? こういう魔力関係の数値って個人情報でもあるし」
……ピアリが凄くまともな事を言っている。
「そうだなぁ。お前らそういう仲っぽいから、見ててもいいんじゃないか? でも口外するなよ」
どういう仲なんだよ。と言うか、俺の個人情報は保護されないの?
「じゃあ、お言葉に甘えて後ろで見学させてもらうね」
俺に拒否権は無かった……。
俺が手を置いた水晶板の反応を見たベルゲル先生は首をひねっている。
「これは……どういうことだ?」
「どうしたんですか? 先日の結果と違うんですかね?」
不安になったので聞いてみた。
「魔力量は相変わらず規格外なんだが、魔力出力量が増えてるんだよなぁ」
「どの程度増えてるんですか?」
「数値で例えるとな、最初の時点では十八だったんだよ。五十以上はあるのが普通なんだがな。ちなみに一応の最高値は百だ」
十八の所で少なっ!ってピアリの声が聞こえた。
「それで今はいくつになってるんですか?」
「……八十三。お前、なんかやったのか? 普通は魔力出力量もそんな簡単に変わらないはずなのだが」
八十三の所で増え過ぎっ!ってピアリの声が聞こえた。
細かいリアクションをありがとう。
しかし、魔力出力量って簡単に増減しないものなのか。
「心当たりがあるとすれば、蓄魔石の充填ですかね。背負ってる時になんだか身体中の血流が急に良くなった気がするんですよ」
肩凝り用のマッサージ器で揉まれたみたいな感じであった。
「それは興味深いな。もしかしたら、それは血の流れではなく魔力の流れだったのかも知れないぞ……」
思案顔の先生に疑問をぶつけてみた。
「ところで先生、魔法って使えなくなる物なんですか?」
「なんだ藪から棒に。そりゃあ魔力切れになったりすれば一時的に使えなくなるが、魔力が回復したら普通に使えるぞ。余程の事が無ければ一度体に覚えさせた魔法を発動させるための魔力の流れを忘れることはない」
プライベートな部分を探ることになるので少し気が引けるが、元冒険者だったリリナさんが魔法を使えなくなった事について、それとなく聞いてみた。
何か、勘繰られたかもしれないけど。
「その件については把握している。だが、俺から言える事は何もない。個人情報だ」
ですよねー。
苦虫を噛み潰した様な顔で言われてしまった。だけど、さっきは俺の個人情報を雑に扱ってたよね。
「それはお前には一切関係ないし、気にもするな。それとは別にお前の魔力出力量の事も詳しく調べたいので、明日俺の部屋にきてくれ」
そう言い残してベルゲル先生は部屋を出ていった。
「ふーん。連日図書館に通ってると思ったら、そういう事かぁ」
さっきから大人しかったピアリがニヤニヤしながら俺を見ている。
なんだかイラっとしたので、さっさと追いだす事にした。
「ピアリも帰れよ」
「そんなあからさまな塩対応やめて!」
しばらく二人でじゃれ合って夜は更けていった。