69 セッキーずるい。私にもして
シーラが台座から降りようとするが、ふらついてしまっている。
俺は彼女に肩を貸して寄り掛からせた。
「ずっと眠っていたから、魔力が枯渇しかかっていてな。……ところでリョウヤは美味しそうな魔力の持ち主だな。わらわに少し分けてくれないか?」
「ああ、別に構わないけど──」
俺がそう答えるなり、シーラが俺に抱きついて唇を奪ってきた。
またこのパターンかよ!
小さな女の子に抱きつかれてキスされているのは、絵面的にかなり危険な気がするし嫌な予感もする。
そして嫌な予感というものは、往々にして当たるものである。
「ねぇ、セッキー。何をやってるの?」
突然背後から声を掛けられて、視線だけで振り返るとロワりんが蔑んだ目で俺を見ていた。
ノノミリアとレイズが皆を連れてきてくれたのであった。
「ねぇ、セッキー。何をやってるの?」
ロワりんが蔑んだ目で再び聞いてくる。
今の俺の姿は客観的に見てどうなんだろう。
あまり考えたくない。
ミっちゃんとメルさまの冷たい視線が俺に突き刺さる。
「リリナさんとピアっちがいるのに、こんな少女にまで手を出すなんて破廉恥な奴だな」
「セッキーさんは小さな女の子に手を出すなんて、見下げ果てた最低男ですの」
うう、二人の辛辣な言葉が痛い。
人によってはご褒美にも感じるのだろうが、生憎と俺にはそんな属性は無い。
ノノミリアとレイズにも文句を言われてしまう。
「なんなの君? あたし達が死ぬ気で助けを呼びに行ったのに、ホントに何をやってるの?」
「こっちがどれだけ心配してたと思ってるんだ。もし悪いと思うのなら、またセキこになれよな!」
というか、レイズのは後半ただの願望だろ。
「ちょっと待ってくれ! これは誤解だ!」
慌ててシーラを引き剥がして弁明する。
こういう時って、本当にありきたりな言葉しか出てこないんだな……。
「誤解だなんてひどいよ、お兄ちゃん! シーラの事を一番大切にしてくれるって言ってくれたよね?」
いきなりシーラが顔を手で覆って泣き出した。
そして指の隙間から、俺の方をチラッと見て舌を出してる。
くそう、助けなければ良かった。
「お、お、お兄ちゃんって……! セッキーは兄妹プレイがしたいのかぁ!! だったら私も妹になるぞ!」
ロワりんが顔を真っ赤にして錯乱気味に詰め寄ってくるが、ミっちゃんとメルさまに取り押さえられている。
そういう話じゃないだろうよ。
……この後の展開を考えると、正直頭が痛くなってきた。
◆◆◆
結局その後、神殿の様な建物から出た俺は、粉骨砕身してなんとか誤解を解くべく実情を皆に説明した。
なんで俺がこんな苦労をしなくてはいけないんだろう……。
ミっちゃんとメルさまは『最初から分かってたけどね』みたいな態度で、ちょっとだけイラっとしたけど。
そのミっちゃんがシーラを見て考え込んでいる。
「しかし、その子が魔人か。いきなり言われても信じられないな。確か王都の地下に魔人が封印されているなんて、眉唾モノの噂は聞いた事があるが……」
他の皆もシーラの事を受け止めきれていない様子だった。
「時が経ち過ぎて、誰もわらわの事を覚えていないのは、少し寂しいものだな……」
俺の左袖をぎゅっと掴んだシーラが静かにつぶやいた。
何故かロワりんも反対側の右袖を掴んでくるが、細かい事を気にするのはやめておこう。
「それはそうと、ピアリとアンこ先輩は?」
皆が助けに来てくれた時に、二人の姿が無かったのだ。
先輩はともかく、ピアリは戦力になるから駆け付けてくると思ったのだが。
俺の疑問にメルさまとミっちゃんが答える。
「ピアっちさんは急に気分が悪くなったそうで、アンこさんに付き添っていただいていますの」
「私達三人なら、なんとかなるだろうと思って留守番してもらっている。それにあの白い変な奴は、セッキーが倒してしまったみたいだしな」
……急に気分が悪くなったって、ピアリは大丈夫なのだろうか。
「リョウヤが一人で倒したんだな。凄いな。結局この白い奴は、なんだったんだ? 俺の剣も通らないぐらいに硬かったし」
「あたしの魔法を避けるなんて、単なるゴーレムとは思えないんだけど。しかも喋ってたよね?」
レイズとノノミリアが、先程のロボットの残骸をそれぞれ剣と杖の先で突っついている。
シーラが残骸をつまらなさそうに一瞥してつぶやいた。
「それはここの見張りだ。あの祭壇に近付く者を排除するようにだけ命令された機械人と呼ばれる物だ。『古の神々』の技術を利用した産物でもある」
そこまでして、この黒髪の少女をここに閉じ込めておく理由があったのだろうか。
機械人の残骸を憎々しげに見つめるシーラの横顔からは、それを窺い知る事はできなかった。
一方、シーラの話を聞いていたミっちゃんとメルさまが目の色を変えている。
「古代の産物なのか!? それは貴重な物だぞ!」
「是非、持ち帰りましょう! 高く売れますの!」
二人が声を上げた瞬間、背後の祭壇があった神殿のような建物が派手な音を立てて崩れ落ちた。
「言い忘れていたが、わらわが解放されたので、間もなくこの空間は崩れ落ちるぞ。早く脱出した方がいいと思う」
唖然としている俺達をよそに、他人事みたいな顔でシーラが言う。
その間にも天井から大小の石が降ってきて、すぐそばに一抱えもありそうな石が落ちた。
これは直撃したら洒落にならないぞ!
「それを早く言ってくれよ!!」
俺達は一目散にその場から逃げ出し、なんとか横穴に潜り込む。
それから間もなく、つい先程まで俺達のいた空間は土砂や岩で埋まってしまったみたいだ。
これは重機でもない限り、掘り出すのは無理だろうな。そもそも重機があっても、この狭い横穴に持ち込む事は不可能に近いだろう。
「証拠隠滅だ。本当に嫌になる程、用意周到な奴らだったな……」
そう言ってシーラが俺に倒れ掛かってきた。
気を失ってしまったみたいだ。急に走ったものだから無理もない。
小脇に抱き抱えるようにして横穴から通常の三層へ抜けると、シーラをお姫様抱っこして抱え直す。
その様子をロワりんが恨みがましい目で見つめながら、口をとがらした。
「セッキーずるい。私にもして」
そんな無茶な事を言わないでくれよう。
それにしても、こんなにワガママ言う子だったかなぁ。
これじゃあ、どっちが年上か分からないや。
「俺にどうしろと。なんなら肩車でもする?」
軽口を言ったつもりだった。
「うん、それでお願い」
え? それ本気で言ってるの!?
何故かミっちゃんとメルさまが獲物を見つけた時の顔になってるし。
「よく言ったぞ、セッキー! それでこそ男だ」
「やはりセッキーさんは、頼りになる方ですの」
二人が俺を押さえつけてしゃがませると、ロワりんが俺の首にまたがってきた。
女の子と言えど、二人分の体重が圧し掛かる状態ではまともに歩けないので、魔力で肉体を強化して立ち上がる。
シーラをお姫様抱っこしてロワりんを肩車している姿は、とてつもなくシュールな絵面である。
「………」
「………」
ミっちゃんとメルさまが真顔でこちらを見つめてくる。
多分、本人達も自分達は何をしているのだろうと我に返ったのかもしれない。
「なあ、ノノミリア。俺達は何を見ているんだろうな……」
「そんなのあたしだって分かる訳がないでしょ……」
レイズとノノミリアも困惑しているみたいだ。
でも、一番困惑しているのは俺なんだぜ。
「おお! 視点が高い!!」
その中でロワりんだけがご機嫌だった。こんな事で機嫌が直るのならいつだってやってあげますよ。
……そして首筋がほんのり暖かい。
ちょっと待って。今俺の首筋に触れているのはロワりんのパンツ……。
それって、布一枚先にあるものは……!?
いけない想像をしたら集中が乱れて魔力強化が解けてしまい、バランスを崩して前のめりに倒れてしまった。
「ぎゃあ!!」
「おわっ!!」
「ぐえぇ!!」
ロワりんがそのまま顔面から吹っ飛び、俺はシーラを押し潰してしまった。
「おいっ! 大丈夫か!?」
「お怪我はありませんか!?」
慌ててミっちゃんとメルさまが駆け寄ってくる。
「なぁ、ノノミリア。俺達は何を見ているんだろうな……」
「そんなのあたしだって分かる訳がないでしょ……」
レイズとノノミリアの二人は、ただ立ち尽くしていた。




