63 今お前、俺とこいつを比べただろう?
反省会と名ばかりの集まりに、ベルゲル先生が俺を訪ねてやって来た。
ピアリのおかげで微妙な空気になっていたところだったので、丁度良いタイミングだ。
「おう、こっちの部屋にいたのか。先日約束した俺の同期に会わせてやるけど、今から一緒に行くか?」
「先生の同期って……王立魔導機関ですか!?」
確か魔力で動かす乗り物を研究してるって話だったよな。
もしかして、今からその乗り物が見られるのかな?
どうしよう。すごく行ってみたい。
……しかし、ピアリの事もあるので、俺だけ浮かれている訳にはいかない。
そんな俺の考えはお見通しだったのか、ピアリが気にするなと言う。
「ボクの事はいいから、行ってきなよ。リョウヤ君に気を使われると、こっちも疲れるからさ」
「うぅ……すまない。この埋め合わせはいつか」
「期待しないで待ってるよ」
くそう。俺にはもったいない、よくできた友達だよ。
俺とピアリがやり取りをしている横で、リリナさんがベルゲル先生の話に食い付いている。
「王立魔導機関って、あの魔導工学部門のあるところですか?」
「なんだ? リリナも魔導工学に興味があるのか? だったら一緒に行ってみるか?」
「いいのですか!? 是非ご一緒させてください!!」
飛び上がらんばかりに喜んでいるリリナさんを見て、他のみんなが唖然としてしまっていた。
「リリナって、そういうのが好きだったんだ……。私は魔導工学って、興味が無いなぁ」
ロワりんがリリナさんの事を珍獣でも見るかのように見ている。
「わたくしも、あまり好きな分野ではありませんの。魔力で動かす機械というのが、なんとなく不気味で……」
メルさまは不安そうな表情を浮かべる。
こちらの世界では、あまり機械を見掛けないので、まだ一般的な物ではないのだろうな。
「ははは。私なんてサッパリ分からんぞ!」
ミっちゃん、そこは威張るところじゃないですよ。
「私は考古学に興味がありますが、魔導工学は不得手です……」
アンこ先輩もこう言ってるぐらいだから、やはり普及していない分野みたいだな。
「ボクも全然興味無いから、気にしないで行ってきなよ」
身も蓋も無いですな。ピアリさんよう。
みんなの反応からすると、この世界で機械の類はまだ根付いていないのだろう。
魔導ネットワークも、ごく一部の人しか使ってなかったみたいだし。
でも、食堂の券売機なんかもこの分野の応用なんだよな。
単に人々の理解が追い付いていないだけなのかも知れない。
もっとも、魔法なんて便利な物があるのだから、普及しなくて当たり前か。
「じゃあこれから行くから、二十分後に正門の前で集合な」
そう言い残して、ベルゲル先生は部屋から出て行った。
「リョウ君どうしよう! 私、王立魔導機関なんて初めて行くのだけど!!」
リリナさんのテンションが上がって、まるで遠足の前日の子供みたいにそわそわしている。
いつものお姉さんらしい振る舞いは、どこへ行ったのでしょう。
はしゃぐリリナさんを見て、ロワりんが呆れ顔だ。
「私達は適当に時間をつぶしてるから、セッキーとリリナで楽しんできなよ」
手を振るロワりん達に見送られながら、俺とリリナさんは部屋を後にする。
リリナさんと別れ、自室で素早く支度を済ませて正門前に向かうと、既にベルゲル先生が待っていた。
「リリナは一緒じゃないのか?」
「あれ? まだ来ていないんですか?」
まあ、女性の身支度には時間が掛かると聞くしな……。
しばらくしてから現れた彼女は、しっかりメイクしてモテ服っぽいブラウスに可愛らしいフレアスカート姿だった。
なんとなく、合コンに気合いを入れて参加する女子を想像してしまい、思わず笑ってしまった。
「なんで笑うの!? お姉ちゃんに対して失礼じゃない!?」
リリナさんがむくれてしまう。
「だって、リリナさんが気合い入れすぎだから、なんだかおかしくて……」
「リョウ君ってば、ひどい!」
「お前ら、じゃれ合うのも大概にしておけよ。向こうでもそんな事してたら、俺が恥をかくんだからな」
「「すみません……」」
二人して謝る。
お互いテンション上がりまくりで調子に乗ってしまっただけだから、勘弁してください。
「一応、リリナは俺の助手でリョウヤは生徒って事にするから、そのつもりでな」
俺が生徒なのは間違いないから、特に問題はないな。
それから王都の中心街へ向かう。
様々な商業施設が並ぶ実験区域に入り、その最奥部にある大きな研究施設の門の前に到着した。
近代的な意匠の門に圧倒されていると、先生が守衛さんに許可証みたいな物を提示している。
俺達も身分証明カードの提示を要求された。
冒険者カードと学生カードのどちらかで迷ったが、ここは学生カードを提示しておく。
そして発行された入館許可証を首から下げ、さらに進むと白衣を着た男の人がこちらに手を振っているのが見えた。
先生も白衣の人に手を振り返す。あの人が先生の同期の人なのかな?
「待っていたよ。そちらが興味を持ってくれた生徒さんか?」
「ああそうだ」
「初めまして。リョウヤです。よろしくお願いします」
「そんでこっちが、俺の助手のリリナだ」
「初めまして。先生の助手を務めさせていただいている、リリナです。本日はよろしくお願い致します」
リリナさんがお仕事モードの声で挨拶をする。
先程の浮かれ具合が嘘みたいだ。
「私はベルゲルの学生時代の同期だったトクリフだ。ここの開発部部長をしているよ。二人ともよろしくね」
先生の同期って言うけど、偉いポストの人じゃないか。
この二人はどこで差が着いたのだろうな。
「……今お前、俺とこいつを比べただろう?」
何故バレた!?
「ベルゲルと私とは目指す分野が違っただけだよ。彼は困っている人を助ける研究をしている立派な男だよ」
すかさずトクリフさんがベルゲル先生をフォローする。
やはり偉いポストの人は、気遣いも洗練されているなあ。
改めてトクリフさん見てみると、カッチリとした印象のナイスミドルだ。
逆にベルゲル先生はラフな感じだ。悪く言えば、だらしない。
ここまでお互いが対照的なのも珍しいな。
ダンディなトクリフさんに、リリナさんが惹かれてしまうんじゃないかと思ってしまったが、当の彼女は王立魔導機関に興味津々でそれどころじゃないらしい。
「さあ、これから君達に面白い物を見せてあげるよ。最初に断っておくけど、機密情報が多いので、くれぐれもここで見たり聞いたりした事は、安易に漏らさないでくれよ? 場合によってはコレだからね」
そう言って、トクリフさんが冗談ぽく首をかき切る仕草をした。
実際どこまで本気か分からないけど、洒落にならない事は理解した。
「おいおい、俺の生徒を脅さないでくれないか?」
「ははは、冗談だよ。普通の人が見たぐらいで理解できる物は、ウチには置いてないし」
おじさん二人が笑い合いながら肩をバシバシと叩いてる。
なんかいいな、こういう光景。
トクリフさんの案内で工場のような施設に入ると、内部は天井に何かの動力パイプみたいな管が張り巡らされ、多くの研究者や技術者といった人達がバタバタ走り回っていて活気に満ちていた。
リリナさんは瞳を輝かして、あちこちをキョロキョロと見回している。
その姿は、場違いなゆるふわ女子が研究所に迷い込んだみたいだ。
心なしか、職員の人達の視線がリリナさんに集中している気がしなくもない。
そんでもって、当の本人は周囲の視線に気付く事もなく興奮していた。
「さあ、こっちだよ。まだ試作段階で部外者に見せるのはこれが初めてだ」
トクリフさんが案内してくれた先には、一台の軽トラックみたいな物が鎮座していた。




